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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第四章

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曖昧な境界

「これほど凶悪なマリスは初めてだ。仕留めるのは惜しいけど――外に出すわけにもいかないね」


 ヨミは次のナイフを手に取った。

 ぼくは構わず触手を振るう。ヨミの背後にあった石柱がへし折れ、支えを失った天井から巨大な石材が降り注いだ。

 ヨミはわずかに横にずれ、それらをやり過ごす。

 ぼくは間髪入れず、ヨミへ攻撃を叩き込むが、それも読まれていた。触手が届く寸前に身をかわし、落下する瓦礫の隙間を縫うように走りながら、ヨミがナイフを放つ。


 ――ドッ!


 もう一つの刃が、一つ目に深々と突き刺さった。

 今度はぼくの視界が完全に消えた。


「完全に目を潰した。これで詰みだろ」


 暗闇の向こうから、ヨミの声が聞こえる。

 確かに何も見えない。だが、関係ない。

 ヨミを狙ったところで、動きを読まれて避けられるだけだ。

 ぼくはそのまま、触手を振り回し続けた。

 何を壊しているのかも分からない。ただ、触れたものを片っ端から破壊する。


「おいおい……目が見えないのに、まだ暴れるのかよ!」


 何かが砕け、足元が大きく揺れた。

 さらに触手を振るう。硬いものをへし折る感触。直後、頭上から大量の石が崩れ落ちる音がした。


「これは……まずいな。毒まで回ってきたか……」


 ヨミの声から、さっきまでの余裕が消えていた。

 これだけ暴れたことで、マリスの毒が周囲に撒き散らされたらしい。


 その直後、頭上で何かが崩れる。

 凄まじい轟音。

 地面が大きく揺れた。


「天井の崩落か……全部……見えてたんだけどな……」


 それきり、ヨミの声は聞こえなくなった。


「あ……ああ……」


 代わりに、マドカの怯えた声が聞こえてくる。


「ヨミ……? どうなりましたの? ヨミ?」


 すぐ近くだ。


「誰か……助けてくださいまし。落ちてきた石に足を挟まれて……動けませんの……」


 ぼくには何も見えない。


「カナタ……そこにいるのでしょう? わたくしは、あなたの主人ですのよ。ですから、わたくしの命令を――」


 その時、ぼくはもう巨大な黒い体を支えきれなくなっていた。


「ちょっと……何ですの? 何が――」


 その声の方へ、ぼくの体は倒れていった。


「いや……待って……やめて――!」


 巨大な黒い体が、その声に覆い被さる。


 ジュウッ――。


「きゃあああああっ!」


 悲鳴が地下牢に響き渡った。

 やがて、それも聞こえなくなり、地下牢は静寂に包まれた。


 融合した体も限界を迎えていた。

 全身から力が抜け、巨大な黒い体が輪郭を失っていく。


 ――ハルカ。


 ――カナタ……さん……


 良かった。まだ、繋がっている。

 それだけで充分だった。

 意識が遠のき、ぼくとハルカの境界さえ曖昧になっていく。

 それでもハルカと一緒なら、悪くない。

いつも読んでくださってありがとうございます!

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