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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第四章

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49/50

衝動

 ぼくの体はすっかり黒い影へと変わり、鉄格子の向こうのマリスに吸収されるように、融合していた。

 そして今なら分かる。このマリスが誰なのか。

 間違いない。ぼくを助けてくれたこのマリスは、ハルカだ。

 なぜハルカがマリスになっているのか、それは分からない。

 この世界には、レムウォーカーのハルカと、マリスウォーカーのハルカ。その両方が存在している。

 以前、ハルカから聞いた話を思い出した。


『レムウォーカーは、何か強い願いを抱いてレヴェリアへ来る者です。ですが、マリスウォーカーは、現実世界での強い未練が形になったものだと言われています』


 願いと、未練。


 その両方が存在している、ということかもしれない。

 答えは出ない。そして、ぼくの思考もだんだん薄れていくようだ。


 マリスのハルカと融合したことで、ぼくはさっきまでとは比べものにならないほど巨大な体を得ていた。


「マリスと人間が……一つになった?」


 状況を理解したヨミが驚きの声を漏らす。


「そんな現象、聞いたことがないぞ……」


 ぼくが黒い体へ意識を集中すると、マリスの細長い触手を手足のように動かせた。

 触手を鉄格子に巻きつけ、一気に力を込めた。


 ギギギギッ――!


 太い鉄格子が歪み、天井に亀裂が走った。


 ガッ! ガアンッ!


 さらに触手を力任せに叩きつけると、轟音とともに鉄格子が、固定されていた天井の一部ごと引き剥がされた。


「何が……何が起きていますの!?」


 目の見えないマドカが狼狽した声を上げた。


「これはまた、とんでもないことになったね」


 ヨミだけは、まだ冷静だった。


「孫子曰く、『正を以て合い、奇を以て勝つ』。まさか君自身が、俺にも正体の分からない『奇』になるとはね」


 ヨミが腕を振振るうと、放たれたナイフが真っ直ぐぼくの目へ飛んでくる。触手を振るうと、甲高い音を立てて弾き飛ばした。

 だが、その時にはもうヨミは動いていた。

 触手を叩きつける。ヨミはすでにそこから離れている。引き剥がした鉄格子を触手で掴み、そのまま横薙ぎに振るうが、それも身を沈めてかわされた。


「俺には当たらないけどね」


 ぼくの動きが完全に読まれているなら、ヨミを狙っても意味はない。

 ぼくは力任せに触手を振るった。


 石壁も、床も、天井も、手当たり次第に破壊する。

 石床が陥没し、地下牢を大きな亀裂が走る。さらに触手を振るえば鉄格子が千切れ、石柱が折れ、天井から石塊が降り注いだ。


「おいおい……」


 ヨミはそのすべてをかわしている。

 それでも構わない。


 この体を動かすことはできても、まだ戦い方なんて分からない。ヨミのような能力もない。

 あるのは圧倒的な力だけ。

 ならそれを発揮するしかない。


 ――ハルカ、力を貸してくれ。

 ――もちろんですわ。


 マリスの体の中で、ぼくとハルカは完全に一つになっていた。

 不思議なほど心地いい。昂ぶっているのに、同時に深い安らぎもある。

 ぼくは湧き上がる衝動のまま、力を解き放った。

 轟音が連続して響き、壁が砕け、柱が折れ、天井が落ちる。地下牢そのものが崩れそうだ。その中をヨミは駆け、振り回される触手と、降り注ぐ瓦礫を紙一重でかわし続けていた。


「これは手に負えないな」


 ――ドッ!


 ヨミの放った刃が、ぼくの一つ目に突き刺さり、視界の一部が消えた。

 そこは、マリスの急所だ。

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