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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第四章

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ヨミ

 ヨミは自分のこめかみを指で軽く叩いた。


「俺の能力は、先を読むこと。周囲にある物体の動き、人間の動作、空気の流れ――そういう情報から、数秒先に何が起こるのかを予測できる」


 先を読む。なるほど、だから『ヨミ』と呼ばれているのだろう。


「君が走り出した瞬間には、どこに向かうのか見えてたよ。だから、その場所にちょっと足を出しただけ」


 やはり、こいつもただ者じゃない。

 未来をシミュレートする強化者(ブースター)か。

 だが、ここで大人しく従うつもりはない。

 ぼくは床を蹴って跳ね起き、そのままヨミへ体当たりした。

 だが――。


「だから無駄だって」


 ヨミは半歩ずれ、ひらりと身をひねった。

 ぼくの体は空を切る。


「俺には見えてるんだよ」


 背中にヨミの手が触れた。

 軽く押されただけだった。

 それなのに、勢いを利用され、ぼくは大きくバランスを崩す。


「どこを、どのタイミングで攻撃すれば一番効率がいいのか。それも全部分かる」


「くはっ……!」


 ぼくは激しく転倒し、背中を鉄格子へ打ちつけた。


 ガシャン!


 背後で鉄格子が大きく鳴る。

 その向こうでは、何体ものマリスが蠢いている。


「逃げ出そうとするなんて、悪い子ですの」


 そこへマドカの声。

 ぼくは咄嗟に目を閉じた。

 これなら操られない。

 そう思った直後だった。

 閉じた瞼の向こうが赤く染まり、体が重くなる。


「残念でしたわね」


 マドカの声が近づいてくる。


「目を閉じたくらいで、わたくしの力を防げるはずがありませんの。瞼を閉じていても、明るいか暗いかくらいは分かるでしょう? わたくしの光が少しでも届けば十分ですの」


 体は重いが、まだ自分の意思で動かせている。

 目を閉じれば、完全には防げなくても力を弱めることはできるようだ。

 ぼくはさらに強く目を閉じる。

 それに合わせるように、瞼の向こうの赤い光がさらに強くなっていった。


「さあ――目を開けて、わたくしを見なさい」


 ぼくは全身に力を込めて抵抗する。


「嫌だ……ハルカに危害を加えるくらいなら、ここで死んだ方がましだ!」


「そうはいきませんの。あなたには、まだ働いていただきますもの」


「ハルカとトワは……必ず守る!」


 ぼくは叫んだ。


「諦めなさい」


 コツ、コツと足音が近づいてくる。

 どんなに力を込めても、ぼくの意思に反して瞼が少しずつ開いていく。


「くっ……!」


 止められない。駄目だ……


「カ……ナタ……さん……」


 その時、またあの声が確かに聞こえた。

 聞き間違えなんかじゃない。


「ハルカ……?」


 次の瞬間――。


「きゃああっ! 熱いっ!」


 マドカの悲鳴が響いた。

 同時に、ぼくの体を縛っていた力が消える。

 体が自由に動く。

 ぼくは恐る恐る目を開けた。


「なっ……」


 目の前に、信じられない光景があった。

 鉄格子の隙間から伸びた細長い腕が、マドカの頭を掴んでいる。

 マリスの触手だ。


「離しなさい! その汚らわしい手を――いやっ、熱い! 溶ける……!」


 マドカが悲鳴を上げる。

 やがてマリスが手を離すと、マドカは両手で顔を覆い、その場にうずくまった。


「痛い……目が……目が開けられませんの……!」


 触れられた目の周りは赤黒く変色し、焼け爛れたようになっている。マリスの毒だ。

 これならもうあの力は使えない。


 ぼくは鉄格子の向こうへ目を向けた。

 暗闇の中に、大きな赤い一つ目が浮かんでいる。


「カナタさん……生きて……」


 この声を、ぼくは知っている。


「お前……あの時の……?」


 間違いない。

 以前、地下洞窟で出会った、人の言葉を話すマリスだ。

 どうやら、他のマリスたちと一緒に、マドカに捕えられていたらしい。

 あの時も、こいつはぼくを助けてくれた。

いつも読んでくださってありがとうございます!

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