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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第四章

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一瞬の機会

「いやいや、俺の意向も少しは尊重してよ」


 ヨミが横から口を挟んだ。

 マドカの視線が、ぼくからヨミへ移る。


「あら。わたくしは、あなたの配下ではありませんのよ? 目的が一致しているから手を組んでいるだけ。方向性が変わればいつでも協力関係を解消しますの」


「それは困るんだよなぁ……」


 ヨミが頭を掻いた。


「それにしても、まさか君がここまで大きな存在になるとは思ってなかったよ。正直、昔はそこまででもなかっただろ?」


 マドカの眉がぴくりと動いた。


「君が操れるのはマリスだけ。そして以前は、マリスなんて滅多に現れなかった。一体見つけるだけでも大変だったし、それでも確かに強いけど、腕利きが数人いれば倒せない相手でもない」


「ずいぶんな言いようですのね」


 そこでヨミの口調が少し変わった。


「ところが、最近になって状況が変わった。突然、マリスが大量に発生するようになった。今なら百体でも簡単に集められる。つまり、君は一人で巨大な軍隊を動かせるようになったってことだ」


「ようやく、わたくしの価値がお分かりになりました?」


「嫌になるくらいね。正直、ここまで化けるとは予想外だったよ」


 二人の会話は続いている。

 今はぼくのことを見ていない。

 ぼくは牢の入口へ目を向けた。

 マドカが入ってきた時から、そのまま鉄格子は開いている。

 逃げられるチャンスは今しかないかもしれない。


 ハルカとトワは守る。

 絶対に、ここを出て二人のところへ帰る。


 ぼくはマドカとヨミの位置関係と、出口の場所をしっかりと確認した。


「しかも、君は人間まで操れる可能性が出てきた」


 ヨミがぼくへ顔を向けたので、ぼくは慌てて視線を戻す。


「どのくらい効果があるのかはまだ未知数だけど、もしその力が本当なら、これほど強力なレムウォーカーは他に知らない」


 マドカがヨミへ向き直る。


「でしたら――少しは口の利き方にお気をつけになった方がよろしくてよ。今のわたくしなら、あなたの力など借りなくても、この世界を丸ごと支配できますもの」


「……言うね」


 二人の間に、険悪な空気が流れる。


 動くなら、今だ。

 ぼくは目を閉じた。

 マドカの力は、いつもあの赤い瞳を見た直後に発動している。

 なら、目を合わせなければ操られないかもしれない。


 ぼくは目を閉じたまま、一気に駆け出した。牢の出口の位置は覚えている。


 ガンッ!


 肩が鉄格子にぶつかる。

 構わず、そのまま駆け抜けた。

 おそらく、もう牢の外には出たはずだ。

 ここから先の道は分からないが、とにかく真っ直ぐ――

 そう思った瞬間、体がふわりと浮いたように感じた。


「――っ!?」


 次の瞬間、背中から激しく床へ叩きつけられる。


「かはっ!」


 一瞬、息が詰まった。


「いやあ、油断したよ」


 すぐ近くからヨミの声がする。


「孫子曰く、『兵に常勢なく、水に常形なし』。戦いに決まった形なんてない。何が起きるか分からないから、いろんな状況を想定しておくべきなんだ」


 ぼくが目を開けると、ヨミが倒れたぼくを見下ろしている。


「だから俺、こういう時のシミュレーションは欠かさないんだよ」

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