自作自演
ヨミは何でもないことのように話し始めた。
「そう、やってることは単純だよ。マドカにマリスを動かしてもらい、街を襲わせる。そこへ光の街の軍が颯爽と現れ、マリスを撃退する。まあ正確には、マドカにマリスを撤退させてもらうだけだけどね」
「自作自演……」
「そういうこと」
ヨミは楽しそうに笑い飛ばした。
「自分たちだけではどうにもならなかったマリスを、光の街の軍が追い払ってくれた。そうなれば、みんな俺たちに感謝するだろ? 光の街に加わりたくなる」
ようやく分かった。
「……そうやって、街を大きくしてきたのか」
「まあね」
ヨミの統治する光の街は、いくつもの集落を取り込んで大きくなった。
ヨミの評判がよく、彼を頼って人々が集まってくるからと聞いていたが、裏にはこんなカラクリがあったのだ。
「じゃあ、援軍を送ってくれる話も……」
「そう、同じことだ。そもそも光の街に、マリスの大群を撃退できるような戦力なんてないよ。見せかけだけの軍だから。第一、戦う必要がないからね」
「だから、襲撃を早めたのか……」
「そう、正解」
ヨミが人差し指をぼくに向けた。
「本来の予定では、援軍が到着するのは一か月先だった。だけど、俺たちが来るより早く、マリスに街を襲わせたかった。だから予定を変更した」
ヨミは悪びれることなく話を続ける。
「霧の街が十分に追い詰められたところで、俺たちが到着する。そして、マリスが撤退する。俺たちは救世主だ。きっと俺の申し出を受け入れてくれるだろう」
つまり、霧の街の人々はマリスから守ってもらうために、光の街の傘下に入る……
「戦わずして、街が一つ手に入る」
「……なんて奴だ」
そのために街が被害を受けることなど、ヨミにとっては計算のうちなのだろう。
「褒め言葉として受け取っておくよ。孫子曰く――『戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり』」
そして、いつもの気さくな調子で付け加えた。
「戦争なんて、まともにやるもんじゃないよ」
そしてヨミはぼくの目を見た。
「さて、なぜ君にこんな話をしたと思う? それは、君にもこっちへ来てほしいからさ」
「……ぼくに?」
「俺は別に、人を殺したいわけじゃない。街を滅ぼしたいわけでもない。欲しいのは領土と人。できるだけ多く、手に入れたいんだ」
やはり、ゲームの話をしているように聞こえる。
「レムウォーカーは貴重だ。そして、君は強い」
「だから仲間になれと?」
「うん。俺のやり方を理解してくれるなら、仲間として歓迎するよ」
「あら。それは困りますわ」
そこでマドカが割って入った。
「カナタさんは、仲間ではありませんの。わたくしの大切な僕です」
「固いこと言うね」
ぼくは苦笑するヨミを見て、言葉を挟んだ。
「……もし、断ったら?」
「まあ、分かるだろ?」
ヨミは変わらない調子で答えた。
「ここまで知った君を、そのまま帰すわけにはいかない。あるいは、本当にマドカの力が君に効くなら――永久に、自分の意思を持たない操り人形になってもらうしかないかな。不本意だけど」
マドカがニヤけながらぼくに一歩近づいた。
「ずっとわたくしの僕として、大切にして差し上げますの」
本心では、こんな奴らの仲間になるなんて冗談じゃない。
だが、ここは冷静に考えよう。
今のぼくには、意地やプライドなんかより、ずっと大切なものがある。
「……分かった。協力してもいい」
「お?」
ヨミの表情が明るくなる。
「ただし、条件がある」
「聞こうか」
「ハルカとトワには手を出さないでくれ。二人の命を保証してほしい」
ヨミは少し考え、あっさりと頷いた。
「うん。俺としては、それで構わないよ」
「ヨミ!」
マドカがすぐさま声を上げた。
「それでは困りますの! ハルカを葬ることが、わたくしの目的なのですから。それでは、あなたと手を組んだ意味がありません」
「あちゃあ……」
ヨミが困ったように頭を掻く。
「どうしても駄目?」
「どうしてもです」
マドカはきっぱりと言い切った。
「それに――」
そして、ぼくを見て冷たく微笑む。
「あなたは何か勘違いしていませんこと?」
「……え?」
「あなたに、条件を出す権利なんてありませんわ」
マドカの赤い瞳が、妖しく輝いた。
「だってあなたは――わたくしの僕なのですから」
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