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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第四章

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支配者マドカ

「……ん」


 ゆっくりと目を開けると、薄暗い石造りの天井が見えた。

 体を起こして辺りを見回す。

 窓はない。石壁に囲まれ、正面には太い鉄格子。

 どうやら地下牢のようだ。


 あれは何だ?


 鉄格子の向こうに、何かが見えた。

 通路を挟んだ反対側にも鉄格子があり、その向こうで大きな影が蠢いている。

 目を凝らした瞬間――。


「……っ!」


 闇の中に、大きな赤い目が浮かび上がった。


 マリスだ。しかも、一体ではない。

 闇の中に、赤い目がいくつも浮かんでいる。

 異様なのは、マリスが牢に入れられたまま、暴れずにただじっとしていることだった。

 まるで飼い慣らされた犬のように。


 コツ、コツ――。


 石造りの通路に足音が響き、やがて一人の人影が現れる。

 鉄格子の扉が開いた。


「お目覚めですね。ご気分はいかがかしら?」


 聞き覚えのある女の声だった。

 女は牢へ入ると、頭を覆っていたフードを脱いだ。


「……え?」


 ぼくは思わず、その顔を見つめた。

 長い黒髪に、整った顔立ち。どことなくハルカに似ていた。

 だが、微笑んでいるのに、ハルカのような柔らかさは感じない。


「誰だ?」


「あら。そういえば、まだ自己紹介をしておりませんでしたわね」


 女は優雅に一礼した。


「わたくしは、天宮(アマミヤ)円香(マドカ)。マドカとお呼びください。あなたと同じ、レムウォーカーですの」


「天宮……」


 ハルカと同じ苗字だ。

 偶然なのか。それとも、ハルカの親族なのか。

 聞きたいことは山ほどある。

 だが、まず確かめなければならないことがあった。

 ぼくは向かいの牢を指さした。


「あれはどういうことなんだ?」


「あれ?」


「どうしてこんなところにマリスがいる?」


「ああ、あの子たちですか。わたくしの忠実な(しもべ)ですわ」


 マドカは何でもないことのように微笑んだ。


「僕……?」


「ええ。わたくしの言うことなら、なんでも聞いてくれますの」


 その言葉で、ミコの予知が蘇った。


「お前が……マリスを操っているのか」


「ご名答です」


 つまりこいつが、ミコの言っていた支配者(ルーラー)だ。


「そして――あなたも、わたくしの大切な僕ですの」


 マドカは笑顔でぼくを見た。


「何を言ってる?」


「わたくし、人間の僕も欲しかったのです。でも、なぜかこの力が通じるのはマリスだけ。これまで人間には、一度も効きませんでした。でも――あなたは違った」


「……!」


「初めてですわ。わたくしの言うことを聞いてくださった人間は」


「ぼくを……操ったのか?」


「ええ。先日、霧の街(ミラージュヴィル)でお会いした時に」


 あの空白の二時間……


「ぼくに何をさせた?」


「何って……街について、いろいろ教えていただきましたの。ハルカさんがどうやって街を創っているのか。そして――」


 マドカが一枚の紙を取り出した。

 それは、街を描いたハルカの絵だった。


「これも、あなたが持ってきてくださいました」


「ぼくが……?」


「ええ。あなたなら霧の塔(ミラージュ)へ自由に出入りできますもの」


 絵を盗んだ犯人は、ぼくだった。


「わたくし、困っていましたの。ハルカさんが創った壁があまりにも立派で。あれでは、わたくしの可愛い子たちが街へ入れませんでしょう?」


「まさか……」


 脳裏に、川へ積み上げられた家々が浮かんだ。


「あの家は、お前が?」


「ええ」


 マドカは絵を眺めながら答えた。


「最初は、わたくしもこの絵に描き加えてみたのです。でも、何も起こりませんでしたの」


 それは当然だ。

 絵から街を創り出せるのは、ハルカの能力があってこそだ。


「そこで、少しやり方を変えてみました。絵の一部を切り取り、別の場所へ貼り直してみましたの」


 マドカは楽しそうに、切り貼りされた絵を広げて見せる。


「そうしたら、驚きました。本当に移動してしまったのですから」


 消えた家。

 川に積み上げられた家々。

 そういうことだったのか。


 ぼくが盗み出した絵を使って、マドカはあの橋を作った。

 ぼく自身が、マリスを街へ招き入れる手助けをしてしまったのだ。

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