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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第四章

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空白の二時間

「――っ!」


 目を開けると、見慣れた天井があった。

 窓から朝の光が差し込んでいる。

 ぼくは体を起こし、辺りを見回した。

 自宅の寝室だ。

 ちゃんと自分のベッドで寝ている。


「あれ……?」


 混乱しながら昨夜の記憶をたどる。

 マリスの討伐を終えて街へ戻り、一人で壁を見回った。

 そこで、フードを被った怪しい人物を見つけた。

 声をかけて近付くと、暗闇の中で赤い目が光った。

 覚えているのは、そこまでだ。

 だとしたら、どうやって家まで帰ってきた?

 その時、寝室の扉が開いた。


「カナタさん、おはようございます。どうかなさいました?」


 ハルカが顔を覗かせる。

 ぼくの様子を見て、不思議そうに首を傾げた。


「ハルカ。ぼく、昨日どうやって帰ってきた?」


「どうやって……ですか?」


「帰ってきた時のこと、覚えてる?」


「ええ。普通に帰っていらっしゃいましたよ。日付が変わる頃だったでしょうか。私はトワと一緒に眠っていたのですが、カナタさんが帰ってきた時に、目を覚ましました」


 ハルカが心配そうにぼくを見る。


「私はすぐにまた眠ってしまいましたけれど……何かありました?」


「……いや」


 ぼくは言葉を濁した。

 おかしい。ぼくは自分の足で家まで帰っている。それなのに、その記憶がまるごと抜け落ちている。

 ふと自分の格好を見る。

 見回りに出た時の服を、そのまま着ていた。


 ひとまず体を洗って服を着替えると、いつものように朝食を作った。

 ハムとチーズを乗せたトーストに、サラダと果物を添える。


「まあ、美味しそうですわ。いただきます」


 ハルカがトーストを両手で持った。


「体調はどう?」


「とても元気ですわ。むしろ、トワが生まれる前より元気なくらいです」


「それまでが働きすぎだったんだよ」


 以前のハルカは、睡眠時間を削ってまで絵を描いていた。

 マリスの襲撃に備え、街を囲む巨大な壁を創っていた頃は、何度休むよう言っても聞かなかった。

 今は防衛の準備も一段落している。

 トワが生まれてからは子育てを優先し、用事がなければ霧の塔(ミラージュ)へも行っていない。


「それに、トワはとても賢い子ですから。私が忙しくしている時はおとなしくしていて、手が空いた頃にお乳を欲しがるのです」


「えっ、本当に?」


「ええ。母親には分かるのですわ」


 自信満々に言われて、ぼくはトワを見る。

 ハルカのすぐそばで横になり、ぱっちりと目を開けている。

 泣きもせず、朝食を食べる母親の顔をじっと見つめていた。

 ……確かに賢そうな目だ。

 まあ、ひいき目ではないと言えば嘘になるけれど。

 さすがに生まれたばかりで空気を読んでいるとは思えないが、トワは夜泣きもほとんどしないし、手のかからない子なのは間違いない。

 そして、とにかくかわいい。


 トワを見ていると、昨夜の謎の出来事などどうでもよくなりそうになるが、放っておくわけにはいかない。

 朝食を終えると、ぼくは昨日の記憶を確かめるため、ミラのところへ向かった。


「昨日のこと? あたしたちと一緒に討伐に行ったじゃないか」


 ミラの話は、ぼくの記憶と一致していた。

 昨日は兵団とともにマリスの討伐へ向かい、夕方には街へ戻った。

 入口の門をくぐったところで、ミラや兵士たちと別れている。


「その後のことは知らないよ。あんた、一人で帰ったんじゃないのかい?」


「そうだよね……」


 そこまでは間違いない。

 ミラたちと別れたあと、ぼくは壁の見回りを始めた。

 そして三時間ほどかけて、壁に沿って街を歩いた。

 ここまでは、はっきり覚えている。


 問題は、その後だ。


 日付が変わる二時間ほど前だったと思う。

 ぼくはフードを被った人物と出会った。


 赤く光る目を見て――そこで記憶が途切れた。


 そして日付が変わる頃には、自分の足で家へ帰っている。

 つまり、分からないのはその間だけ。

 少なくとも、最後には自分で歩いて家へ帰っているから、ずっと気を失っていたわけではない。


 それなら――

 その二時間、ぼくは何をしていた?

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