赤い目
それから数日、ぼくたちはヨミたちと情報を共有しながら、マリスを操るレムウォーカーの捜索を続けた。
光の街からも人員が出され、捜索範囲は一気に広がった。
それでも、有力な手掛かりはまだ見つかっていない。
襲撃まで残された時間は、刻一刻と減っていく。
ただ待っているわけにもいかず、ぼくは兵団とともに何度もマリスの討伐へ出た。
一体でも多く倒しておけば、襲撃の際の被害を減らせるかもしれない。
だが、一度の遠征で倒せるのはせいぜい二、三体だ。それだけ苦労しても、全体への影響はわずかと言わざるを得ない。
以前、地下で出会った人の言葉を話すマリスには、あれ以来遭遇していなかった。
確かに、ぼくの名前を呼ばれたように思う。
今となっては、幻でも見ていたような気さえしてくる。
「それにしても、あんたは本当にすごいね」
討伐を終え、黒く染まった大地を歩いていると、ミラが感心したように言った。
「マリスを仕留められることはもちろんだけど、黒い大地を平気な顔して歩いてる」
ミラが足元を指す。
マリスによって汚染された大地。
草木は枯れ果て、地面は黒く溶けたようになっている。
「あたしらなんて、その上に数分もいたら毒にやられて動けなくなる。だから黒い大地はできるだけ避けてる。それなのに、あんたはその上に何時間いたって平気じゃないか」
「そういえば……」
言われてみれば、確かにそうだ。
この黒い大地に長時間いても、ぼくの体には何の異変も起きない。
ひとつ、思い当たることがある。
ぼくはこれまで、何度もマリスに殺され、やり直した。
毒に侵された場所にも、長い時間いた。
そのせいで耐性でもついたのかもしれない。
ただ今は、その体質が役に立っている。
その日の討伐を終えて霧の街へ戻った頃には、すっかり日が暮れていた。
街の入口で兵団のみんなと別れ、ぼくは一人で巨大な壁を見上げた。
マリスの襲撃に備え、ハルカが創った防壁だ。
高く、厚く、霧の街全体をぐるりと取り囲んでいる。
これほどの壁なら、そう簡単には突破できないはずだ。
だが、相手は人間ではない。
あの異形たちが何をしでかすか、完全には予想できない。
ぼくはそのまま、壁に沿って歩くことにした。
崩れそうな場所はないか。
侵入されそうな隙間はないか。
念入りに見て回ったが、今のところ特に異常はない。
気づけば、夜もかなり更け、街は静まり返っていた。
そろそろ帰るか。
そう思った時だった。
霧の向こうに、人影が見えた。
「……こんな時間に誰だ?」
小柄な人影だった。
頭から深くフードを被り、壁に沿ってゆっくりと歩いている。
この街では見覚えがない人物だ。
ぼくは腰の剣に手を添えながら近づいた。
「ちょっといいかな?」
声をかけると、その人物の肩がびくりと震え、足が止まった。
「こんな時間に、ここで何をしてるの?」
返事はない。
「今、怪しい人物を探してるんだ。悪いけど、ちょっと顔を確認させてもらっていいかな?」
その人物はゆっくりと、こちらを振り返る。
だが、深く被ったフードに隠れて顔は見えない。
「フードを取ってくれないなら、こちらで確認するよ」
一歩、距離を詰めたその時――。
フードの奥で、何かが赤く光った。
「……え?」
目だ。
そう気づいた瞬間――
ぼくの意識は、そこで途切れた。
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