光の街からの来訪者
ぼくたちはさらに捜索の範囲を広げた。
マリスを操るレムウォーカーについて、近隣の村や街にも協力を呼びかけた。
そんなある日、数人の供を連れたレムウォーカーが霧の街を訪れた。
「ヨミが来たよ。ハルカに会いたいって」
ミラがぼくたちの家に来て報告する。
「ヨミって?」
「隣の光の街を統治しているレムウォーカーですわ。とても賢い方ですよ」
ハルカがトワを抱きながら答えた。
聞けば、光の街はいくつもの集落が集まってできた大きな街らしい。
ヨミの評判はよく、彼を頼って加わる集落が増え、今も街は大きくなっているという。
いずれにしても、隣の街のトップがわざわざ来てくれたのなら、きちんと迎えなければならない。
ハルカとぼくは正装に着替えて、霧の塔で彼を迎えることにした。
「ハルカさん、お久しぶりです。そして、カナタさん、初めまして。朝倉清道です。みんなからは『ヨミ』って呼ばれてます」
そう名乗った男の年齢は、三十歳前後だろうか。物腰は柔らかく、親しみやすい雰囲気がある。
「光の街の統治者様に、わざわざお越しいただけるなんて、ありがとうございます」
「いやいやいやいや! 『統治者様』なんて堅苦しいのはやめてください。俺、そういうの柄じゃないんで」
思っていた以上に気さくな人だ。
「それで、今日はどうしてここへ?」
「もちろん、マリスの件ですよ」
ヨミは待ってましたとばかりに身を乗り出した。
「千体以上のマリスを操っているレムウォーカーを探しているんですよね?」
「そうなんです」
「しかも、そのマリスの大群が攻めてくるかもしれない」
「はい」
「うわぁぁぁ……」
ヨミは何やら楽しそうに拳を握りしめた。
「こういう状況、シミュレーションゲームだったら燃えますよねぇ」
「ゲーム?」
「好きなんですよ。資源を集めて、街を大きくして、戦力を整えて、敵の侵攻に備えるやつ」
ハルカが少し困ったように答えた。
「まさに私たちはマリスに備えて、街を壁で囲んだり、兵士も増やしたりしています。残念ながら、これはゲームではありませんので、何があってもやり直しは効きませんわ」
「あ、そうでした。ちょっと不謹慎でしたね」
ヨミは気まずそうに頭を掻いた。
「でも、マリスを操っている黒幕がいるなら、そいつを何とかするのが一番いい。孫子曰く『上兵は謀を伐つ』」
「どういう意味?」
「正面から戦う前に相手の企みを潰すのが一番いいってことです」
ヨミは即答した。
「なるほど」
「俺、孫子の教え、好きなんですよ。二千五百年も前に考えられたことなのに、ゲームでもビジネスでも役に立ちます」
「けれど、まだそのマリスを操っているレムウォーカーについて、何の情報も得られてないんです」
何やら熱く語っているヨミに、ぼくは口を挟んだ。
「そう、それだ。だから、俺が来たんです。ここは協力して探し出しましょう」
ヨミはそう言ってぼくたちに手を差し出した。
「いいんですか?」
「もちろんです。だって、マリスはみんなの敵でしょう? 霧の街だけの問題じゃない。だから捜索のための情報をこちらにも提供してください」
ありがたい申し出だ。ぼくはヨミの手を握った。
「それは助かります」
「私からもひとつ、お願いしたいことがあるのですが……」
そこでハルカが遠慮がちに切り出した。
「光の街には、悪夢マリスに対する強い戦力があると伺っておりますわ。有事の際に、その戦力を貸してもらうことはできませんか?」
ヨミはほんの一瞬だけ思案して、すぐに答えた。
「もちろんです。ありったけの戦力をお貸ししましょう」
「よろしいのですか?」
ヨミはにっと笑った。
「こういうのは、出し惜しみするのが一番よくない。孫子曰く『十なれば則ち之を囲み、五なれば則ち之を攻め、倍なれば則ち之を分かつ』」
「また難しいのが来ましたね」
「兵力差に応じた戦い方があるって意味ですが、俺なりにもっと簡単に言えば――とにかく相手より大きな戦力で叩き潰せばいい、ってことですよ」
ヨミは力強く宣言した。
「一緒に、勝てる盤面を作りましょう」
頼もしい人が、味方になってくれた。
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