トワ
それから四か月が過ぎた。
その日、ぼくは自分の家の中を、何度も行ったり来たりしていた。
「カナタ、少し落ち着いて座りなよ」
ミラに呆れた顔をされても、大人しく座って待っていることはできなかった。
隣の部屋から、ときおりハルカの苦しそうな声が聞こえてくる。
「ハルカ、大丈夫かな……」
「大丈夫だって。経験豊富な助産婦がついてるんだ。あんたが床を擦り減らすほど歩き回ったところで、何の役にも立たないさ」
「まあそうなんだけどさ」
苦しんでいる妻の近くで何もできないというのが、こんなにもどかしいものだとは。
どれほど待っただろう。
やがて――。
「んなあっ! んなあっ!」
家の中に、小さな泣き声が響いた。
ぼくとミラは顔を見合わせる。
扉が開いた。
「カナタさん。おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
助産婦が、晴れやかな顔で告げた。
「……よかった」
張り詰めたものが一気に緩んで、それしか言えなかった。
部屋へ入ると、横になったままのハルカの腕の中に、小さな赤ん坊がいる。
「カナタさん、無事に、生まれてきてくれましたわ」
「うん。ハルカ、頑張ったね」
もっと気の利いた言葉の一つもかけたかったが、何も出てこなかった。
ハルカの隣に腰を下ろす。
赤ん坊は、想像していたより、ずっと小さい。
「抱いてみますか?」
「えっ、ぼくが?」
「お父様でしょう?」
そう言われて、恐る恐る両腕を差し出した。
「首を支えてくださいませ」
助産婦に教わりながら、その小さな体を受け取る。
軽い。そして、温かい。
壊してしまいそうで、腕に力を入れることさえ怖かった。
「……こんなにかわいいんだな」
「ええ。とても」
その時、赤ん坊の手が動いた。
小さな手だ。こんなに小さいのに、ちゃんと五本の指がある。
そっと人差し指を近づけると、小さな指がぼくの指を包んだ。
「……握った」
ほんのわずかな力だった。
なのに、離せなくなった。
「名前、決めてたよね」
「はい」
ハルカがぼくの腕の中を覗き込む。
「トワ」
ぼくたちは、この子にそう名付けた。
トワ――永遠。
彼女はハルカ・カナタの子供。
だから、この子の幸せが、遥か彼方のその先まで続いてほしいと願った。
ぼくは腕の中のトワを見る。
トワは少し眩しそうな目でぼくを見ている。
この子とハルカを守りたい。
心から、そう思った。
二か月後には、マリスの大群が来る。
ぼくは死に、ハルカはマリスの毒に侵される。
何としても、そんな未来は阻止する。
あれから、マリスを操っているというレムウォーカーを探し続けているが、いまだ手掛かり一つ掴めずにいた。
マリスが集団で動き始める様子もまだない。
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