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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第三章

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ミコの野望

 それからもぼくとミコのデートは続いた。

 温泉から立ち上る白い湯気を眺め、露店を覗き、途中で見つけた焼き菓子を半分ずつ食べる。

 こうして並んで歩いていると、本当に普通のデートみたいだった。

 その間、ぼくたちはいろいろな話をした。


「カナタさんは、どうしてハルカさんを好きになったのですか?」


「それは予知に重要なことなの?」


「もちろんです」


 ぼくは少し考えてから答える。


「そうだな……ハルカは、ぼくの辛さを分かって、支えてくれた。ぼくは彼女に救われた気がしたんだ」


「まあ、お優しいハルカさんらしいですね」


 ミコは納得したように頷いてから、


「ですが……それでしたら私にもできますよ」


「そうかな?」


「私は預言者ですから。救うことは得意分野です」


「さっき、問題をどうにかするのはご本人とか、言ってませんでしたっけ?」


「それは誤解を恐れずに申し上げたことですから、誤解です」


 ミコは涼しげな顔で答えた。彼女の質問は続く。


「では、あなたの今いちばん大切なものは?」


「ハルカと、生まれてくる子供」


 即答すると、ミコがじっとぼくを見る。


「……それ、私とのデート中に言っていいことですか?」


「言っていいことです」


 この人と話していると、どこまで冗談なのか分からない。


「では、ご両親はどんな方なのですか?」


「うちの親?」


 そういえばあまり他人に話したことはなかったなと思いながら、昔のことを思い出す。


「父親は小さな町工場の雇われ職人で、金属の加工なんかをしてる」


「職人さんですか。立派なお仕事ですね」


「そうなのかな。そんなに裕福な家じゃなかったよ。だから母親もスーパーでパートをして、惣菜を作ってる」


 住まいはずっと古いアパートだし、贅沢をした記憶もほとんどない。


「毎日いろんな惣菜を作ってたから、母親は料理上手だったんだ。ぼくも小さい頃からよく料理を教えてもらってた」


「では、カナタさんもお料理を?」


「うん。高級なものを買えないなら、安いものを美味しくすればいい。それって、すごいことだと思わない?」


「素敵な考え方ですね」


「だから結構真面目に覚えたんだ。教えてもらったものだけじゃなくて、自分でもいろいろ試して」


「なるほど……」


 ミコはぼくの顔をしばらく見ていた。


「カナタさんのお料理、食べてみたくなりました」


 不思議と、ミコは話しやすかった。


 ぼくの話を途中で遮ることもなく、何気なく口にしたことでも、気になればもう少し先まで尋ねてくる。

 そうして話しているうちに、次から次へと言葉が出てきた。

 気づけば、普段ならわざわざ他人に話さないようなことまで話している。


「……なんだか、ぼくばっかり話してるね」


「カナタさんを知る必要がありますから」


「今度はぼくが聞いてもいい?」


「もちろんです」


「ミコさんは、どうしてレヴェリアに来たの?」


 ミコは少し考えてから話し始める。


「レヴェリアへ来る方は、皆さま何かしら強い願いや欲求をお持ちです」


「ミコさんは、どんな願いがあったの?」


「そうですね……」


 ミコは歩きながら、どこか遠くを見る。


「私は神社の娘として生まれました。小さい頃からそれなりに厳しく育てられて、普通に学校へ通って、大学を出て、証券会社に就職しました」


「意外と普通な進路だね。神社の娘なのに」


「神社に何を期待しているのです?」


 ミコは笑顔のまま首を傾げた。


「まあ、就職先に証券会社を選んだのも、特別な理由があったわけではありません。お給料が良さそうだったからです」


「現実的だね」


「ところが、働き始めてから一つ、大きな不満がありまして」


「何?」


「証券会社の職員は、好き勝手に株を売買できなかったのです」


 ミコは大きなため息をついた。


「ああ、会社のルールで制限があるのか」


「ええ。それなのに、世の中には株で儲けたとか、資産が何倍になったとか、そういう話が溢れているでしょう?」


 そこでミコの声に力が入った。


「それで私は強く思ったのです。誤解を恐れずに申し上げるなら――株で大儲けしたい、と」


 神社の娘であり、預言者である割には、ずいぶん俗っぽい願いだった。


「そして、気づけば私はレヴェリアにいました。おそらく、私のその欲を反映したのでしょうね。私が得た力は未来を見る能力でした」


「ああ、それなら――」


「そうです。これで、明日上がる株が分かる!」


 ミコは得意げに胸を張った。


「しかし……私は、衝撃的な事実を知ってしまったのです」


 そこで表情が一変し、彼女の目に闇が宿る。


「レヴェリアには、株取引がありません。というか、会社もありません。さらに言えば、まともな通貨制度すらありませんでした」


「そうだね」


「私の悲しみ、分かっていただけますか?」


「う、うん」


 ミコがぼくの手をひしと握ったので、ぼくはとりあえず頷いておく。


「ですが、私はそこで諦めませんでした」


 その手に力が入る。


「私は預言者として、この天啓峰(オラクルピーク)に多くの人々を集め、独自の通貨制度を始めました」


 ミコは山のふもとに並ぶ施設を手で示した。


「ここにある宿やお店なら、私が作った通貨で支払いができます」


「ミコさんが通貨を作ったの?」


「はい。次は会社制度を整えます。そして、いずれは株式市場を開きます」


 話が思ったより壮大だった。

 彼女は自分が株で大儲けするために、経済制度から作ろうとしているのだ。


「……頑張ってください」


「はい。必ず成し遂げてみせます!」


 力強く宣言したところで、ミコが「あっ」と声を上げた。


「いけません。つい力が入ってしまいましたが、今日は私の話をすることが目的ではありませんでした」


「いやでも、とても面白かったよ」


「そうですか。そんなに私に興味があるのですね」


 するとミコはぼくの顔を覗き込んだ。


「もしかして、私のすべてを知りたくなりましたか?」


「いや、ある程度で大丈夫です……」

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