誤解を恐れずに
「おいおい、預言者さん!」
真っ先に反応したのはミラだった。
「カナタはハルカの旦那なんだよ。そいつはちょっとまずいだろ」
「そう申されましても、必要なことですので……」
ミコはまったく気にもしていないようだ。
「他人の未来を見るためには、その方をよく知る必要があります。考え方や性格、何を大切にして、何を恐れているのか。そういったことを知らなければ、夢も曖昧になってしまいます。短い時間で相手を知るには、デートが最適でしょう?」
そういうことか。
出発前にハルカがやけに心配していた理由はこれか。
「相手のことをよく知らないまま未来を見ますと、ご本人がすでに知っていることばかり見えてしまう場合もありますし、それでは、わざわざここまで来ていただいた意味がありませんから」
「だからデートか……」
「それと――」
ミコは穏やかな笑顔のまま付け加えた。
「誤解を恐れずに申し上げますと、個人的にカナタさんに興味がある、というのもございます」
「……」
それは本当に誤解ということでいいのだろうか……
隣を見ると、ミラが引きつった顔をしている。
「カナタ。あたしはハルカに何て説明すりゃいいんだい」
「予知に必要だったって、そのまま説明してよ」
「いや、あたしは見なかったことにする……」
ハルカへの説明はともかく、ここまで来た目的を達成するには、受けるしかない。
「分かりました。未来を見るために必要なら、やりましょうか」
「はい。喜んで」
ミコは嬉しそうに微笑んだ。
その後、出かける準備をするというミコといったん別れ、ぼくは神殿の入口で待つことになった。
「悪いけど、あたしは先に下りてるよ。見てられないからね」
ミラは呆れたようにそう言い残し、一人で山を下りていった。
しばらくして、背後から声が聞こえる。
「お待たせしました」
振り返って、一瞬誰だか分からなかった。
長い黒髪は後ろで束ねられ、顔には細いフレームの眼鏡をかけている。白い和装は、飾り気の少ない黒のワンピースに替わっている。
神殿で会った時とは、印象はまるで違った。
「どうでしょう?」
ミコがその場で軽く一回転する。
「見違えました。別人みたいです」
「それはよかったです」
これなら、ひと目で彼女が預言者ミコだと気づく人は少ないだろう。
「では、行きましょうか」
歩き出そうとしたところで、不意に腕を取られた。
「え、ちょっと」
柔らかな感触とともに、先ほどとはまた違う甘い香りが鼻をくすぐる。
「どうかなさいました?」
「いや、近くない?」
「だって、デートですから」
当然のように言われてしまった。
「せっかくですから、楽しみましょう」
そう言って、ミコはそのままぼくの腕に自分の腕を絡めた。
……ハルカ。これは予知のためなんだ。
心の中でそう言い訳しながら、ぼくはミコと山を下った。
ふもとまで来ると、辺りは再び大勢の人で賑わっている。
「何か食べませんか?」
「いいですね」
少し歩いたところで、ミコが一軒の屋台の前で足を止めた。
「ここがいいです」
店先では、大きな肉の塊が刺さった串が炭火の上で焼かれていた。脂が落ちるたびに炎が上がり、香ばしい匂いが漂ってくる。
「こういうの食べるんだ」
「どういう意味でしょう?」
「いや、もっとこう……預言者って精進料理みたいなものを食べてそうだから」
「カナタさんは預言者をどんな生き物だと思っているのですか?」
ミコは呆れたようにぼくを見る。
「私は肉食系ですよ」
……食べ物の話だよね?
ミコは何食わぬ顔で焼きたての串を二本もらい、そのうち一本をぼくへ差し出した。
「ありがとう」
そしてミコは自分の串にかぶりつく。
「はんっ。おいしいです」
幸せそうに頬を緩める姿は、さっきまで神殿で未来について語っていた預言者と同一人物とは思えなかった。
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