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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第三章

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預言者ミコ

 神殿の奥に通されると、畳の間に座布団が置かれていた。

 そこでぼくたちは長い時間座って待たされることになった。


「大変お待たせいたしました」


 不意に明るく澄んだ声が響いた。

 一人の女性がこちらへ歩いてくる。

 年齢は二十代半ばくらいだろうか。長い黒髪に、透き通るような白い肌。整った顔立ちには穏やかな笑みをたたえている。

 まとっている衣装は、白と赤を基調とした華やかな和服のようなものだ。

 彼女が近づくと、思わずくらりとするような甘い香りが鼻をくすぐる。


「初めまして。御堂(ミドウ)美々子(ミミコ)と申します」


 女性はぼくたちの向かいの座布団に座ると、両手を揃え、丁寧に頭を下げた。


「皆さまからはミコと呼ばれておりますので、どうぞ同じようにお呼びください」


「ぼくはカナタです。こっちはミラ」


 自己紹介が終わると、ミコは申し訳なさそうに両手を合わせた。


「長くお待たせしてしまって、本当に申し訳ございません。午前中の方が、どうか助けてくださいと私にすがりついて、なかなか離れてくださらなかったものですから。先ほど無理やり引き剥がしてきたところです」


「は、はあ……」


 穏やかな笑顔のまま、ミコは続ける。


「皆さま、よく誤解なさるのです。私は未来を見ることはできますが、それをどうにかするのはご本人です。私にはその力もございませんし、どうにかして差し上げる義務もございません。誤解を恐れずに申し上げるなら――甘ったれたことを言ってんじゃねえよ、という感じでしょうか」


「……」


 初見の印象とだいぶ違っていた。


「さて、そのような話は置いといて――」


 ミコは何事もなかったように話を切り替える。


「お二人が本日いらっしゃることは、先週の夢で見ておりました」


「やっぱりですか」


 やはりその力は本物らしい。


「ハルカさんには、以前とてもお世話になりました。この神殿を創っていただいたこともそうですが、それ以外にもいろいろと」


「だから、ぼくたちに会ってくれたんですか?」


「はい。ハルカさんの大切な方でしたら、お断りするわけにもまいりません。それに、ちょうど今日の午後に予約されていた方がキャンセルされまして」


「キャンセル?」


「ええ。ご自分の運命を知るのが怖くなってしまったそうです。誤解を恐れずに申し上げるなら――とんだ腰抜けですね」


 ミコは相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。


「は、はあ……」


 黙っていれば、ものすごい美人なのに……。


「そんなわけで、カナタさんのご訪問はちょうど良いタイミングでした。それで、ご用件は、霧の街(ミラージュヴィル)のことでしょうか?」


「さすが……ぼくたちが来ることだけじゃなく、目的まで分かるんですね」


「あら、そんなわけないじゃないですか」


 しかし、ミコにあっさり否定された。


「今のはただの勘です。ハルカさんの関係者が、遥々ここまでいらしたのですから、街に何かあったと考えるのが自然でしょう?」


「ああ、なるほど……」


「私の予知は、そこまで便利なものではありません。分かることは分かる。分からないことは分からない。何でもお見通しの預言者を期待されると困ってしまいます」


「それでも十分すごいと思うけどね」


 少し気圧され気味にミラが呟いた。


「そうですね、私が一日に一組の方としかお会いしない理由をご存じですか?」


「いいえ」


 ミコの問いかけに、ぼくは首を振った。


「私は、夢で未来を見るのです」


「夢?」


「はい。自分自身に起きる出来事であれば、比較的自然に夢へ現れます。ですが、他人の未来を見るには、その方へ意識を向けて眠らなければなりません。第一、世界中の方々の未来が一度に私の夢へ押し寄せてきたら、間違いなく私の頭はパンクするでしょう」


 冗談なのか本気なのか分からない顔で言う。


「ですから、まずその日にお悩みを伺います。その夜、お話を聞いた方の未来に意識を向けて眠る。そして翌朝、夢で見たことをお伝えする。そのため一組なのです」


「なるほど……」


 予約が二百日待ちになる理由にも納得した。


「それでは改めて、カナタさん。何をお知りになりたいのですか?」


 ぼくは姿勢を正して答えた。


霧の街(ミラージュヴィル)のことです」


 マリスの大群が街に押し寄せようとしていること。すでに街を囲う壁を築き、兵団も強化しているが、マリスの数はさらに増え続けていることを話した。


「街を守るために、どんな情報でも知りたいんです」


「まずは街のことですね」


 ミコはぼくを見て、次の言葉を待っているようだった。


「他には?」


「え?」


「せっかく二百日待ちのところを特別待遇したのです。一つだけでは、もったいなくないですか? あなたの顔を見ていると、他にも抱えているものがありそうですが……」


「いいんですか?」


「構いませんよ。夢を見る手間は同じですから」


 そう言われると、もう一つの問題が頭をよぎる。

 黒い服。黒いマスク。

 そして、ぼくの心臓を何度も貫く刃。

 ――黒の暗殺者(シャドウリーパー)


「……現実世界のことです」


 ぼくは切り出した。


「ぼくは現実世界で殺されるたびに、レヴェリアへ来る。そして、ここで死ぬと、また現実へ戻る。それを何度も繰り返してる」


「それは……珍しいことですね」


「このループから抜け出す方法を知りたいんだ」


 ぼくを見るミコの目に、好奇心が宿ったようだった。


「こういうお仕事をしていますと、誤解を恐れずに申し上げて、いっぺん死んで来いと思うような方もいらっしゃいますが、カナタさんは一回どころか何回も死んでいらっしゃると……これはとても興味深いです」


 ちょっと引っかかる言い方だが、ぼくは聞き流す。


「ですが、現実世界のことですか……」


 ミコは少し考えてから答えた。


「レヴェリアで起こる未来でしたら、かなり鮮明に見ることができます。ですが、現実世界のことはひどく曖昧にしか見えません」


「難しいの?」


「断片的な風景や言葉として現れます。抽象的なお告げ、と申し上げるのが近いでしょうか。そのような形でも構いませんか?」


 答えに迷う理由はなかった。


「何も分からないより、ずっといい。お願いします」


「承知しました」


 ミコは穏やかに頷いた。


「では今夜、霧の街(ミラージュヴィル)とカナタさんの未来を見てみましょう。ではそのために……」


 ミコはおもむろに立ち上がり、ぼくに近付いた。


「私とデートをしましょう」


「……え?」


 今、何と言った?


「ですから、デートです」

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