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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第三章

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天啓峰

 霧の街(ミラージュヴィル)を離れるにつれ、霧は薄くなり、景色も少しずつ変わっていった。

 馬車は草原を抜け、川を渡り、いくつもの羊の牧場を通り過ぎる。

 旅のあいだも、ぼくの頭からハルカや街のことが離れることはなかった。


 本当にマリスから街を守れるのか。

 生まれてくるあの子に、穏やかな未来を与えられるのか。

 その答えを求めて、馬車は北へ進み続けた。


 七日目の昼過ぎ、遠くに、頂に神殿のある山が見えてきた。


「あれが天啓峰(オラクルピーク)だ。ようやく着きそうだね」


 名前からして、閉ざされた霊峰のような場所を勝手に想像していたのだが――。


「……なんだか、賑やかじゃない?」


 たどり着いた山のふもとには、いくつもの建物が軒を連ねていた。

 人の行き来も多く、宿らしき建物まで並んでいる。どうやら温泉まであるようだ。

 霊峰というより、ちょっとした観光地だ。


「昔は何にもない山だったんだよ」


 ミラが馬車を止めて、天啓峰(オラクルピーク)を見渡した。


「ミコがここに住み始めてから、預言者に会いたいって奴が次から次へやって来るようになってね。ところが、すぐに会えるわけじゃない」


「待たされるってこと?」


「そりゃもう。何日どころか、何か月もさ」


「何か月……」


「それだけ待つなら寝る場所もいるし、食べ物もいるだろ? そうして宿ができて、気づけばこの有り様さ。大した影響力だよ」


 聞けば、ミコが面会するのは、一日に一組だけらしい。

 そのため順番待ちは積み上がり、今では予約を取っても数か月先になるという。

 そんな話を聞くと、ミコと会えるのかますます不安になってくる。それでも、ぼくたちは山頂に続く石造りの階段を登った。


 やがて木々が途切れ、視界が一気に開ける。


「おお……」


 思わず声が漏れた。

 山頂には、白い石で築かれた神殿が立っていた。

 幾本もの細い柱が、瓦葺きの屋根を支えている。

 パルテノン神殿と寺を掛け合わせたような見慣れない造りだ。

 だが、その姿は周囲の木々や空にうまく調和して、不思議な美しさがあった。


「これが、ミコの住んでいるところ?」


「そうさ」


 ぼくたちは神殿へ足を踏み入れる。

 入口の奥には一人の女性が座っていた。


「あの、ミコさんに会いたいんですけど」


「ご予約はございますか?」


「ないです」


 女性は手元の帳面を確認した。


「申し訳ございません。現在ですと……お会いできるのは二百日ほど先になります」


「二百日!?」


 思わず聞き返した。

 その頃にはもう、マリスの襲撃は終わっている。


「それじゃ遅いんだ。だって――」


 ぼくが食い下がるより先に、ミラが横から口を出した。


「こいつは霧の街(ミラージュヴィル)の創造者、ハルカの旦那だよ。ハルカとミコは交流があっただろ?」


「ハルカ様の……?」


 女性は帳面から顔を上げ、改めてぼくを見た。


「この神殿も、ハルカ様に創っていただいたものなのです」


「ハルカが?」


 なるほど、この斬新なデザインの神殿は、ハルカによるものだったのか。


「はい。ですからミコ様も、ハルカ様には大変感謝しておられます」


 女性は帳面の間に挟まれていた一枚の紙を取り出した。


「あ……これですね」


「何?」


「ミコ様から預かっているメモです。『霧の街(ミラージュヴィル)から二人の訪問者が来たら、予約の有無にかかわらず通すこと』と書かれています」


「二人……?」


 ミラが得意げにぼくを見る。


「やっぱり知ってただろ?」


「みたいだね」


 馬車の中で交わした話を思い出す。

 まさか、本当にその通りになるとは。


 まだ姿さえ見ていない預言者ミコ。

 だが、すでに彼女の手のひらの上にいるような気がしてきた。

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