新しい命
こうして、ぼくとハルカは晴れて夫婦となった。
レヴェリアの結婚に法的な意味はない。それでも、ぼくたちにとっては大切な節目だった。
そして、このタイミングで結婚を決めた理由は、もう一つあった。
「体の調子はどう?」
ぼくが声を掛けると、ハルカは大切なものを触るようにお腹へ手を添えた。
「気持ち悪さは少し落ち着いてまいりましたわ。それに最近は……」
そこに優しい眼差しを向ける。
「動いているのが分かるのです」
その一言で、ぼくの頬も自然と緩んだ。
そう。ハルカのお腹には、新しい命が宿っている。出産予定日は、およそ四か月後。
ぼくは、その小さな命に会える日が待ち遠しかった。
けれど、その喜びと同じだけ、不安もある。
この子が生まれて約二か月後、マリスの大群が、霧の街へ襲来することをぼくは知っている。
守るものが増えた。
生まれてくる子供。
ハルカ。
そして、皆が暮らすこの街。
そのすべてを守るためにやれることは、すべてやってきた。
兵団も強化した。
街を囲む巨大な壁も、ハルカによってすでに完成している。
これならマリスの大群でも容易には突破できないはずだ。
それでも、拭いきれない胸騒ぎは残っていた。
確認されているマリスの数は、今なお増え続けている。
そこでふと、ハルカが以前話していた人物を思い出す。
「そういえば、前に『預言者』の話をしていたよね?」
「預言者のミコさんですわね」
ハルカは頷いた。
「予知の力を持つ強化者のレムウォーカーです。天啓峰という山で暮らしていらっしゃいますわ」
未来を見る力……
その力が本物なら、何か有力な情報が得られるかも知れない。
「確かにミコさんなら、この街を守る方法を何かご存知かもしれませんわ」
預言者の住む天啓峰は、霧の街の北にあり、馬車で一週間ほどの距離だという。
ぼくはそこへ行くことに決めた。
だが、身重のハルカを、そんな長旅へ連れ出すわけにはいかない。
「ハルカはここで待っていて。ぼくが行ってくるよ」
ハルカは少し考え込んでいる様子だ。
「二人とも街を空けるわけにもいきませんわね……ですが……」
それきり黙り込んでしまう。
「どうしたの?」
「あの、その……」
意を決したように顔を上げる。
「ミコさんと……変なことは、しないでくださいね」
「なんでそうなるの?」
思わず力が抜けた。
「いや、しないよ」
ぼくはそう真顔で答えたが、ハルカはどこか不安な様子だ。
「くれぐれも、お気をつけください」
ぼくは旅の準備を進めた。
道中の食料と、馬車の手配が必要だ。
馬車といえば、一人しか思い浮かばない。
「ミラに頼むか」
ミラは、街を守るためなら喜んでと、二つ返事で引き受けてくれた。
「ミラは預言者に会ったことある?」
「ないね」
ぼくが尋ねると、ミラはすぐに首を横に振った。
「預言者に会いたがる奴なんて山ほどいる。そう簡単には会えないさ」
さすが預言者だ。
「じゃあ、ぼくが行っても会えないだろうか?」
「普通ならね。でも……」
ミラはにやりと笑って付け加える。
「でも、なんと言っても、あんたは創造者の旦那だ。会ってくれる可能性はある。それに、あんたが会いにくることも、彼女はもう知っていて、準備しているかもしれない」
ミラのあまりに自信たっぷりな口ぶりに、ぼくも勇気をもらった。
こうしてぼくは、ミラの操る馬車に揺られながら、天啓峰へ向かった。
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