リピート
現実世界で意識が途切れると、ぼくはまた別世界で目覚めた。
そして、異形マリスに砕かれ、再び現実世界に戻り、黒い人影に刺され、それを繰り返した。
現実世界で命を落とせば別世界に行き、別世界で命を落とせば現実世界の死の直前に戻るようだ。
現実世界に戻り、刺されるタイミングも完全にわかってきたので、その直前に振り向くと、音も立てずに近づいてきていた黒い人物と目が合った。
黒いマスクで覆われて表情は見えないが、ぼくの反応にその目には少し動揺が見られたようだった。
だが、それだけだった。目にも止まらない速さで刃物を繰り出され、やっぱりぼくは刺された。
おそらく相手はプロの暗殺者だ。ぼくのあらゆる行動は想定されている。
ぼくのような一般人がいくら抵抗しようとも勝ち目はない。
別世界側も絶望的だった。
黒い異形、マリスの一体だけでもまるで勝ち目はない。
それが何十体といる戦場で、なんの力も発揮できないぼくが生き延びられるはずもなかった。
刺され、砕かれ、また刺される。その繰り返し。
まるで無間地獄のように、死の苦しみがいつまでも続く。
「わああああ!」
ぼくは取り乱して走り回った。でも同じように死んだ。
「なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」
己の境遇をいくら恨んでも意味はなかった。
「助けて! もう死ぬのは嫌だ!」
別世界の兵士にすがり付いて懇願もした。だが、兵士は足を引きずりながら力なく首を振るだけだった。
「ああ、俺も死にたくはないさ。けど悪いな……俺もここでは生き残れる気がしない」
そして、兵士もろともぼくはマリスに粉砕された。
「もう嫌だ……終わりにしてくれよ」
けれど、終わりが来ることはない。
「助けてよ……母さん、父さん……」
刺され、砕かれ、刺され、砕かれ……
「誰でもいい! お願いだから」
「死ぬのはもう十分だ……」
また死ぬ。
ぼくの心は徐々に壊れてきた。
もうどうでもいい。どうせ何をしても無駄だ。
逆に抵抗しなければ、一思いに楽にしてくれる。苦しみは一瞬。
ぼくは呆然とうずくまるだけになった。
刺され、砕かれ、刺され、砕かれ……
暗殺者とマリスは、寸分の誤差もなく、全く同じタイミングでぼくを殺してくれる。
もう何百回もそれを経験した。いや、何千回かもしれない。
ぼくは考えることをやめ、生きていることを忘れようとした。
死を恐れるから苦しみがある。だから、ぼくは、モノだ。石が蹴られているのと同じだ。
刺され、砕かれ、刺され、砕かれ……
あれから体感的には何ヶ月も経ったように思う。
ぼくは生き物じゃない。
石だ。
石は痛いとか思わない。
ぼくも石だから、何も感じない。
脳のいろいろな部分が壊れてしまったのかもしれない。
ぼくはどんな攻撃を受けても、ほとんど何も感じなくなっていた。
死の痛みが気にならなければ、暗殺者もマリスも、もはや怖く感じない。
マリスが人体を簡単に粉砕する触手を振り回していても、今のぼくにとっては握手を求められるのと変わらない。
恐怖の感情が薄れたことで、冷静に状況を見られるようになってきた。
暗殺者もマリスも、ぼくが何もしなければ、毎回まったく同じ初撃を繰り出してくる。
なら、その一手だけ避けてみよう。
ぼくが、一歩だけ後ろへ下がると、触手が鼻先を掠める。
「……避けた」
次の瞬間には、別の触手に首をはねられ、死んだ。
じゃあ今度は一歩下がったあと、右へ飛ぶ。
最初の二撃を避けた。
だが三撃目で胴を薙ぎ払われた。
また次。
一歩下がる。右へ。左へ。
四撃目で死んだ。
少しずつ、本当に少しずつ、生きていられる時間が延びていった。
後ろ、右、左、後ろ、右、右、後ろ、左、ジャンプ、右。
えっと、次なんだっけ。
死んだ。
まずい、だんだん手順が覚えられなくなってきた。
そこで、ぼくは歌の歌詞にして、口に出してみた。
「うし、みー、ひー、うし、みー、みー、うし、ひー、じゃん、みー、うし、うし」
これは覚えやすい。
ぼくは謎の歌を歌いながら戦場を駆ける。
別世界の方のぼくの生存時間は、徐々に伸びていった。マリスの攻撃は強力だが、単調だからだ。
反面、この方法は現実世界の暗殺者には効果が薄かった。
ぼくが動きを変えても、相手は臨機応変に対応してくる。どこに動いても詰むことが多い。
ぼくはさらに何百回も死を繰り返し、ゲーム感覚で攻略を進めた。
ステップのコンボが長く続くことで、ぼくはだんだん楽しくさえなってきた。
「うしうし、みーみー、うしひー、じゃん!」
歌いながら、舞うように。
「おい、あいつ……歌ってるぞ……」
「頭がおかしくなったのか?」
「違う。あいつ、攻撃を全部見切ってるぞ……」
戦士たちの驚きの声が聞こえる。
そして、何百回と死に続けた末に、ぼくは初めて、マリスの戦場から生きて抜け出した。
いつも読んでくださってありがとうございます!
『面白い』『続きが気になる』と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。
その一つ一つが、次の展開をより面白くする力になります。




