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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第一章

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3/11

リピート

 現実世界で意識が途切れると、ぼくはまた別世界で目覚めた。

 そして、異形マリスに砕かれ、再び現実世界に戻り、黒い人影に刺され、それを繰り返した。

 現実世界で命を落とせば別世界に行き、別世界で命を落とせば現実世界の死の直前に戻るようだ。

 現実世界に戻り、刺されるタイミングも完全にわかってきたので、その直前に振り向くと、音も立てずに近づいてきていた黒い人物と目が合った。

 黒いマスクで覆われて表情は見えないが、ぼくの反応にその目には少し動揺が見られたようだった。

 だが、それだけだった。目にも止まらない速さで刃物を繰り出され、やっぱりぼくは刺された。

 おそらく相手はプロの暗殺者だ。ぼくのあらゆる行動は想定されている。

 ぼくのような一般人がいくら抵抗しようとも勝ち目はない。


 別世界側も絶望的だった。

 黒い異形、マリスの一体だけでもまるで勝ち目はない。

 それが何十体といる戦場で、なんの力も発揮できないぼくが生き延びられるはずもなかった。

 刺され、砕かれ、また刺される。その繰り返し。

 まるで無間(むけん)地獄のように、死の苦しみがいつまでも続く。


「わああああ!」


 ぼくは取り乱して走り回った。でも同じように死んだ。


「なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」


 己の境遇をいくら恨んでも意味はなかった。


「助けて! もう死ぬのは嫌だ!」


 別世界の兵士にすがり付いて懇願もした。だが、兵士は足を引きずりながら力なく首を振るだけだった。


「ああ、俺も死にたくはないさ。けど悪いな……俺もここでは生き残れる気がしない」


 そして、兵士もろともぼくはマリスに粉砕された。


「もう嫌だ……終わりにしてくれよ」


 けれど、終わりが来ることはない。


「助けてよ……母さん、父さん……」


 刺され、砕かれ、刺され、砕かれ……


「誰でもいい! お願いだから」

「死ぬのはもう十分だ……」


 また死ぬ。


 ぼくの心は徐々に壊れてきた。

 もうどうでもいい。どうせ何をしても無駄だ。

 逆に抵抗しなければ、一思いに楽にしてくれる。苦しみは一瞬。

 ぼくは呆然とうずくまるだけになった。


 刺され、砕かれ、刺され、砕かれ……


 暗殺者とマリスは、寸分の誤差もなく、全く同じタイミングでぼくを殺してくれる。

 もう何百回もそれを経験した。いや、何千回かもしれない。


 ぼくは考えることをやめ、生きていることを忘れようとした。

 死を恐れるから苦しみがある。だから、ぼくは、モノだ。石が蹴られているのと同じだ。


 刺され、砕かれ、刺され、砕かれ……


 あれから体感的には何ヶ月も経ったように思う。


 ぼくは生き物じゃない。

 石だ。

 石は痛いとか思わない。

 ぼくも石だから、何も感じない。

 

 脳のいろいろな部分が壊れてしまったのかもしれない。

 ぼくはどんな攻撃を受けても、ほとんど何も感じなくなっていた。


 死の痛みが気にならなければ、暗殺者もマリスも、もはや怖く感じない。

 マリスが人体を簡単に粉砕する触手を振り回していても、今のぼくにとっては握手を求められるのと変わらない。

 恐怖の感情が薄れたことで、冷静に状況を見られるようになってきた。


 暗殺者もマリスも、ぼくが何もしなければ、毎回まったく同じ初撃を繰り出してくる。

 なら、その一手だけ避けてみよう。

 ぼくが、一歩だけ後ろへ下がると、触手が鼻先を掠める。


「……避けた」


 次の瞬間には、別の触手に首をはねられ、死んだ。


 じゃあ今度は一歩下がったあと、右へ飛ぶ。

 最初の二撃を避けた。

 だが三撃目で胴を薙ぎ払われた。


 また次。


 一歩下がる。右へ。左へ。

 四撃目で死んだ。


 少しずつ、本当に少しずつ、生きていられる時間が延びていった。


 後ろ、右、左、後ろ、右、右、後ろ、左、ジャンプ、右。

 えっと、次なんだっけ。

 死んだ。


 まずい、だんだん手順が覚えられなくなってきた。

 そこで、ぼくは歌の歌詞にして、口に出してみた。


「うし、みー、ひー、うし、みー、みー、うし、ひー、じゃん、みー、うし、うし」


 これは覚えやすい。

 ぼくは謎の歌を歌いながら戦場を駆ける。


 別世界の方のぼくの生存時間は、徐々に伸びていった。マリスの攻撃は強力だが、単調だからだ。

 反面、この方法は現実世界の暗殺者には効果が薄かった。

 ぼくが動きを変えても、相手は臨機応変に対応してくる。どこに動いても詰むことが多い。


 ぼくはさらに何百回も死を繰り返し、ゲーム感覚で攻略を進めた。

 ステップのコンボが長く続くことで、ぼくはだんだん楽しくさえなってきた。


「うしうし、みーみー、うしひー、じゃん!」


 歌いながら、舞うように。


「おい、あいつ……歌ってるぞ……」

「頭がおかしくなったのか?」

「違う。あいつ、攻撃を全部見切ってるぞ……」


 戦士たちの驚きの声が聞こえる。


 そして、何百回と死に続けた末に、ぼくは初めて、マリスの戦場から生きて抜け出した。

いつも読んでくださってありがとうございます!

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