夢
こんな日々がいつまでも続けばいいのに。
月並みだが、ぼくはそんなことを本気で願った。
だが、ぼくは知っている。この幸せがいつまでも続くことはない。
マリスたちの襲撃は、やがて訪れる。
いや、いつまでも続かないことが分かっているからこそ、それは余計に甘美な時間だったのかもしれない。
ぼくはその幸せを最大限に享受するため、一日一日を大切に過ごした。
そんなある日、ぼくは夢を見た。
その時のぼくは、それを夢だとは思わなかった。
ぼくの身体にははっきりとした輪郭がなく、膨らんだり、縮んだりしていた。
体を動かそうとすると輪郭が波打ち、力の入れ方が分からない。
おぼろげな意識を必死にかき集めると、身体は少しずつまとまっていくように感じた。
ふと、忘れていた記憶が浮かび上がる。
――神隠し。
そうだ。ぼくは幼い頃、神隠しに遭っている。
今のこの感覚は、その時のものと似ている。
家族で山へ出かけた日、ほんの少し目を離した隙に、ぼくは忽然と姿を消したらしい。
警察も消防も、近所の人たちまで集まって山中を捜したという。
そして三日後、ぼくは山のふもとで見つかった。
その時のぼくは、腹も減っておらず、服も汚れておらず、まるでつい今しがた山へ来たばかりのような姿だったらしい。
その三日間の記憶はない。
……いや。
かすかに覚えているのは、身体の輪郭が曖昧で、どこまでも白い霧が続いていて、そして――。
黒い石。
大地へ深く突き刺さった石。
それがただの石でないことは、幼いぼくにも分かった。
ぼくはその石を――。
そこから先は濃い霧がかかったように思い出せない。
そして今いる場所は、白い霧ではなく、闇が満ちている。
感覚を研ぎ澄ませるように集中すると、ぼくはついに人の形を取り戻した。
気がつくと、ぼくは薄暗く静寂に満たされた空間にいた。
『……パパ』
不意に幼い女の子の声が響いた。姿は見えない。
『パパ』
幻聴ではない。今度ははっきりと聞こえた。
「誰?」
ぼくをそんなふうに呼ぶ子供はいないはずだ。
『やっと聞こえた』
それは今にも泣きそうな声だった。
初めて聞く声なのに、とても愛おしく感じる。
『お願いだよ』
今度は懸命に訴えかける声。
『ママを助けて』
「ママ……?」
思わず言葉が漏れる。一体誰のことを言っているのだろう。
『パパなら、きっとできるから』
ぼくの疑問に答えることはなく、少女の声は断言する。
理由も分からないまま、ぼくは一歩を踏み出す。
周りで黒い影がうごめいていた。
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