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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第三章

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マリスウォーカー

 気づけばぼくたちはすっかり穏やかな時間を過ごしていた。

 女の子を家へ招くなんて初めてで、会話が続かなかったらどうしよう、料理が口に合わなかったらどうしようと、最初はそんなことばかり考えていたのに。

 無理に話題を探したり、変に気を使う必要もなかった。

 過去のターンで献身的にぼくを看病してくれた時のハルカと、目の前の彼女は少しも変わっていない。

 名家のお嬢様と聞けば、どこか近寄りがたい人物を想像してしまうけれど、ハルカは違った。

 時折、芯の強さを見せることはあるが、普段は偉ぶることもなく、人の好意を素直に喜び、感謝を忘れない。

 立ち居振る舞いや言葉遣いには育ちの良さが自然と表れ、それでいて相手を緊張させるようなところは少しもない。

 他愛のない話にも楽しそうに耳を傾け、まるで自分のことのように笑ったり、心配したりしてくれる。

 二人でいると、不思議と張り詰めていた心がほどけていく。そんな人だった。


「そういえば、ハルカ」


「はい」


「ぼくは、この世界のことをあまり知らないんだよね」


 ぼくはふと切り出した。

 これまでレヴェリアで何度も死んで、何度もやり直してきた。

 もうかなりの時間をここで過ごしているはずなのに、目の前の危機を乗り越えるだけで精一杯で、この世界がどんな場所なのか、深く知る余裕もなかった。


「それは当然のことですわ。カナタさんは、この世界へ来てまだ日が浅いのですから」


 ハルカは当たり前のように頷いた。


「ハルカはこの世界のことに詳しいの?」


「何でも知っているわけではありませんわ。ただ、この世界で『預言者』と呼ばれるレムウォーカーの方からいろいろなお話を伺ったことはありますわ」


「一つ聞きたいことがあるんだけど、いい?」


 ぼくの脳裏に、地下洞窟で出会った、あの一体のマリスがよみがえった。

 ぼくを襲わず、ただ見つめていた異形。


 ――カナタさん。


 耳に残って離れない声。


「もちろんですわ」


「マリスって、一体何なんだ?」


 するとハルカは何度か瞬きをして、ゆっくりと話し始めた。


「正式には、マリスウォーカーと呼ばれていますわ」


「マリスウォーカー……」


「私たちレムウォーカーは、何か強い願いを抱いてレヴェリアへ来る者です。ですが、マリスウォーカーは、現実世界での強い未練が、形になったものだと言われています」


「強い未練……」


「たとえば、後悔ややりきれない思いを抱えて命を落とされた方たちですわ。もちろん、亡くなった方すべてがマリスになるわけではありません。マリスになるほどの強い未練を抱えている方は、多くはないそうです」


 その話を聞いて、ぼくはこう聞かずにはいられなかった。


「つまり、マリスは……元は人間だった、と考えていいのかな?」


 ハルカはためらいがちに頷く。


「そのように考えることもできなくはないですわね。もっと分かりやすく言えば、オバケ……でしょうか」


「オバケ……」


 そう聞いてぼくが思い浮かべたのは、絵本に出てくるような、白い布をかぶった愛嬌のある姿だった。

 だが、マリスは違う。

 黒い体で大地を蝕み、人を襲い、命を奪う。


 そして今日、そのうちの一体は、確かにぼくの名を呼んだ。

 まだ意思を持っているかのように。


 そこでハルカは深く息を吐いた。


「たとえば……大規模な災害など、現実世界で多くの方が命を落とす出来事があると、レヴェリアにたくさんのマリスが発生すると言われていますわ」


 ぼくの脳裏に、あの光景がよみがえった。

 黒く染まった大地。夥しい数のマリス。


「じゃあ、今回の大量発生も……」


「現実世界で何かが起きた……という可能性はありますわね」


 ハルカは視線を落とした。


「それにしても、今回のマリスの数は異常すぎますわ。何百、何千というマリスが現れたとすれば……現実世界でも、それに見合うだけの悲劇が起きていることになります」


 部屋の空気が重くなる。


「それは前例のないような規模の悲劇、ということになるのですが……」


 ぼくはすっかり冷めた紅茶に口をつけた。

 現実世界で、何かが起きている。

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