招待
勢いで誘ってしまった……
女の子を家へ招くなんて、生まれて初めてだ。
ハルカは、準備をしてから行くと言ったので、少し時間ができた。
その間に、ぼくは慌てて料理に取りかかる。
今ある食材でレシピを考え、野菜を刻んで下ごしらえ。
料理は嫌いじゃないが、何だか落ち着かない。
皿を並べたところで呼び鈴が鳴った。
ぼくは深呼吸を一つして扉を開く。
「こんにちは、カナタさん」
そこに立っていたのは、白いシャツに、薄紫色のロングスカートを身につけたハルカだった。
創造者としてキャンバスへ向かう凛とした姿とは違い、今日は年相応の少女に見えた。
「……どうかしましたか?」
「あ、いや……似合ってるなって」
ハルカは少し照れたように視線を伏せた。
「ありがとうございます」
「どうぞ、座って」
「失礼いたしますわ」
ハルカがふわりと椅子へ腰掛ける。
食卓にはサラダと色鮮やかな果物が並んでいる。
ぼくは鍋から温かいスープをよそい、ハルカの前へ置いた。
「まあ……」
ハルカはまずサラダを一口食べる。
その途端、目を丸くした。
「このドレッシング、とても美味しいですわ!」
「すりおろしたタマネギに、砂糖と塩、それから油を混ぜて、最後に柑橘の果汁を少し加えただけだよ」
「野菜がいくらでも食べられそうですわ」
続いてスープへ口をつける。
スプーンを口に運び、ほっと息を漏らした。
「……なんて落ち着く味なのでしょう」
「いろいろな野菜を細かく刻んで炒めて、肉のブイヨンで煮込んだスープなんだ。派手さはないけど、体が温まるよ」
「カナタさんって、まるでシェフみたいですわね」
ぼくは苦笑した。
「シェフみたいに高級食材を扱ったことはないよ。ぼくが考えているのは、スーパーの特売品がどうしたら美味しくなるか、それだけだよ」
ハルカは静かに首を横へ振った。
「高級な食材だから美味しい、というものではありませんわ」
そう言って、スープをもうひと口。
「心を込めて作られたお料理は、それだけで特別です。そういうお料理の方が、ずっと心に残りますわ」
その言葉に、ぼくは少し照れくさくなった。
「じゃあ、メインディッシュだ」
ぼくは焼きたての皿を運び、ハルカの前へ置く。
こんがり焼き色のついた羊のステーキ。
そして、ふんわりと焼き上げた、ぼくの得意料理――オムレツ。
ハルカの瞳がぱっと輝いた。
「まあ……ついに、カナタさんのオムレツがいただけるのですね」
ナイフを入れると、黄金色の表面が割れ、半熟の中身がとろりとあふれた。
ハルカはそれを一口運ぶと頬を緩めた。
「……本当にふわふわですわ。中はとろりとしていて、ケチャップのようなお味のこの赤いソースとも、とてもよく合っています」
「大きなホオズキみたいな実があって、食べてみたらトマトにそっくりだったんだ」
「ランタン草ですわね」
「甘みが出るまでじっくり煮込んで、ソースにしてみた」
ハルカは感心したようにソースを見つめる。
「あれが、こんなお味になるなんて……同じ食材でも、料理をする方によって、こんなにも違うものなのですね」
続いて羊のステーキを口へ運ぶ。
「こちらも素敵ですわ。噛むたびにじわりと広がる美味しさがあって、それに、とても香ばしいですわ」
「弱火の炭火でじっくり焼いてみたんだ。それと、羊の風味が苦手な人もいるから、香草で和らげてみた」
「細かいところまで気を配っていらっしゃるのですね」
最後にぼくは焼きたてのアップルパイと紅茶を運ぶ。
甘い香りが部屋いっぱいに広がった。
ハルカは最後の一口まで大切そうに味わい、満足そうにティーカップを置いた。
「ごちそうさまでした。本当に幸せな時間でしたわ」
ぼくは少し不思議に思って尋ねた。
「ハルカはお嬢様だから、もっと豪華な料理を食べ慣れてるのかと思ってたよ」
「現実世界では、そのようなお料理をいただく機会もありましたわね……」
そこでハルカは首を小さく横に振る。
「ですが、レヴェリアでは違います。腕の良い料理人も多くありませんし、食材も限られています。それに──」
そして、少しだけ照れたように目を伏せる。
「誰かが私のために、時間をかけて作ってくださったお料理をいただいたのは、とても久しぶりでした」
食卓には、空になった皿だけが残っていた。
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