表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/27

残響

 不思議なマリスはただ、ぼくを見つめているだけだった。襲ってくる気配はない。

 ぼくは頭をよぎった考えを無理やり振り払う。

 このマリスがハルカのはずがない。

 ハルカは今も霧の街(ミラージュヴィル)にいる。

 ぼくはそのマリスに背を向け、地下洞窟の中を駆け出した。

 途中、何体ものマリスと遭遇した。

 どれもぼくに気づくと赤い瞳を向け、攻撃してきたが、今は剣を振るう気になれなかった。

 触手をかわし、身を翻し、ただ出口だけを目指して走り続けた。

 やがて前方に光が差し込む。


「……ここは」


 その時ぼくは気付いた。

 ここは、ぼくがレヴェリアへ来るたび、最初に目を覚ますあの洞窟だ。

 ずっと地下深くまで続いていたのか。


 ぼくはそのまま洞窟を飛び出した。


 地上は、前回よりさらに多くのマリスで埋め尽くされていた。

 ぼくは必要最低限だけ剣を振るい、マリスたちの間を駆け抜ける。

 やがて馬車のもとへたどり着くと、ミラや他の兵士たちが駆け寄ってきた。


「カナタ様、ご無事で何より!」

「穴の底へ落ちた時は、もう駄目かと思ったよ」


 あちこちから安堵の声が漏れた。

 だが、ぼくの耳にはほとんど入ってこなかった。

 あの洞窟で出会ったマリスの声が、残響のように頭から離れない。

 それ以上戦う気力も湧かず、ぼくたちは霧の街(ミラージュヴィル)へ引き返すことにした。


「まあ、不測の事態だ。戦死者が出なかっただけでも良しとしようじゃないか」


 結局、この日の討伐で大きな戦果を挙げることはできなかったが、ミラは気にしもしていない様子だ。

 そしてぼくの心には大きな疑問が残った。


 ――マリスとは、一体何だ?


 これまでただの異形の怪物としか思っていなかった。

 だが、あの時聞こえた声だけは、どうしても忘れられなかった。


   ◇ ◇ ◇


 霧の街(ミラージュヴィル)へ戻ると、ぼくは脇目も振らずハルカのいる霧の塔(ミラージュ)へ向かった。

 もし、あのマリスがハルカと関係があるのなら――。

 塔の扉を開く。


「ハルカ!」


 返事はない。

 ぼくは塔の石段を駆け上る。

 ハルカの作業場に辿り着くと、彼女は大きなキャンバスへ向かったまま、一心不乱に筆を動かしていた。

 声には出さなかったが、ぼくは心の底から安堵した。


「ハルカ、入るよ」


 平静を装って声をかけると、彼女は振り返った。


「カナタさん、お帰りなさい……」


 そして大きく口を開けた。


「まあ、お顔にお怪我をされていますね。傷の具合はどうですか?」


「ああ、かすり傷だよ」


 マリスにやられた頬の傷は既に縫ってもらっている。

 実際のところは、あと少しで穴が空いてもう一つ口が増えるところだったが、ぼくは何事もないように答えた。


「この街のためにありがとうございます。心より感謝いたします。そして、ご無事で本当に良かったですわ」


 僕の帰還を喜んでくれていることは伝わってくる。しかし、その表情には疲れも滲んでいる。


「ずっと描いてたの?」


「はい」


「もしかして、昨日から徹夜で?」


「……はい」


 ハルカは少し口ごもりながら答えた。


「早く壁を完成させなければいけませんから」


 ぼくは窓の外を見る。

 街を囲む壁は、まだ三分の一にも届いていなかった。

 絵で創造するとしても、この広大な街を壁で囲むことは簡単ではない。

 彼女はすべての壁を完成させるまで、一睡もしないつもりだろうか。

 これでは、レオンに無理やり働かされていた時と変わらない。


「マリスが来るまでにはまだ時間がある。ちゃんと休んだ方がいい」


「ですが……」


 それでも作業を続けようとするハルカを見て、ぼくは彼女をここから連れ出した方が良いと感じた。

 ここにいる限り、彼女は筆を動かすだろう。


「そうだ。うちに来ない? ハルカに創ってもらった家だけど」


「カナタさんの?」


「そう。来てくれたらご馳走するよ」


「まあ!」


 ハルカの表情がばっと明るくなった。


「カナタさんの手料理ですか? それはお伺いするしかありませんわね」

いつも読んでくださってありがとうございます!

『面白い』『続きが気になる』と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

その一つ一つが、次の展開をより面白くする力になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ