マリス
いくつか確かめたことがある。
まず、ハルカの記憶についてだ。
現実世界でぼくと会ったことを、レヴェリアの彼女は覚えていなかった。記憶を詳しく確認してみると、現実世界におけるハルカの記憶は、およそ三年前のものだった。
彼女の両親が他界したことは覚えているが、なぜ現実の彼女が車椅子で生活しているのかは分からないようだ。
レヴェリアのハルカが持つのは三年前の体と記憶のまま。だからなのだろうか。レヴェリアでハルカに及ぼした変化は、現実世界の三年前に反映される。
もう一つ、判明したことがある。
レオンは、今回のレヴェリアにも存在していた。
レムウォーカーはレヴェリアで命を落とすと、現実世界でも死ぬという。前回、ぼくがレオンを殺したことで、現実世界のレオンも死亡した。
しかし、ぼくがやり直したことで、レヴェリアではレオンが再び生きていた。
全てがやり直しになっているとすれば、この状態でぼくが現実世界へ戻れば、現実のレオンも生き返っている可能性が高い。
ぼくは再び、レオンの命を奪わなければならなかった。
そうしなければ、霧の街の平和は守れない。それに、現実世界のハルカが、また左目を失うかもしれない。
今度は前回の経験を生かし、慎重に行動した。
決闘相手のハヤトはもはや敵ではなかったが、その後、ハルカをかばって矢を受けることもなく、左目を失わずに済んだ。
これで、レオンの問題は決着した。
次に備えるべきは、マリスだ。
このまま何もしなければ、およそ一年後、マリスの大群が押し寄せ、霧の街は滅ぼされることになる。
ハルカは街を囲む川に沿って、その内側に高い壁を築くことで、街の守りを固めた。街を守る兵士の数も、さらに増やそうとしている。
それでも、十分とは思えなかった。
今のぼくにできること……襲撃の日までに、少しでもマリスの数を減らしておきたい。
ぼくはミラたちの討伐隊に加わり、馬車で街の外へ向かった。
「正直、もうあの場所には行きたくないね」
馬車に揺られながら、ミラが苦笑する。
「あそこは地獄だったよ。数え切れないほどのマリスが蠢いていたんだから」
周りの兵士たちも、黙って頷くだけだった。
「これまで、あんなことはなかったのか?」
ぼくが尋ねると、ミラは何度も首を横に振った。
「ないない。マリスなんて、一体現れただけで街中が大騒ぎだ。兵団総出で挑んで、ようやく倒せるかどうかって相手だからね。あんな化け物が何百体も集まるなんて、誰も想像したことのなかった悪夢だよ」
馬車の中に重苦しい沈黙が流れる。
馬車が目的の場所へ近づくにつれ、世界の色が変わってきた。
黒く変色した大地には、草一本生えていない。空気が淀み、鼻をつく焦げたような臭気が辺りを満たしている。
まるで、大地が焼かれて溶かされ、固められたような有様だ。
マリスが通った跡は、この死んだ大地になる。
視界の端に、一体のマリスの姿が入ると緊張が高まった。
「前回は一気に突入して、マリスに囲まれたんだ。ただ数を減らすなら、端から一体ずつ倒していけばいい」
ぼくたちは汚された大地に降り立った。
辺りは異様なほど静かで、鳥のさえずりも聞こえない。
マリスに赤い光が灯る。細く裂けたような瞳。
近寄ってくるマリスに向け、盾兵が前へ出る。その後ろに槍兵、さらに弓兵が続いた。
「全員、構え!」
隊長の号令とともに、兵士たちが一斉に武器を構えた。
「攻撃!」
マリスに向け、無数の矢が放たれる。
何本かはコールタールのような黒い体に刺さったが、まるで反応はない。
やはり、弱点はあの目か。
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