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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第二章

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20/25

思い違い

 屋敷の門を通ると、瀬葉はすぐに警備員たちを集め、慌ただしく指示を出し始めた。


「屋敷内外の警戒レベルを最大に。侵入者は何としても阻止してください」


 五名ほどの警備員が一斉に持ち場へ散っていく。

 ハルカは『数は多くない』と言っていたが、私邸を警備するのに五名は驚くべき人数だ。


 ぼくたちは屋敷の中へ入った。

 ハルカは入り口の重厚な扉を閉め、鍵を掛ける。


「これで簡単には入れませんわ」


 確かに、常人であれば侵入はできないだろう。常人であれば……

 ぼくはスマホの時刻を見た。

 そろそろ、本来ならぼくが自宅へ着く頃だ。


 つまり――

 ……来る。


 その瞬間だった。


 ――ガシャン!


 激しい破砕音が屋敷中へ響き渡る。

 窓ガラスを突き破り、一人の黒い影が屋敷内へ飛び込んできた。

 全身黒ずくめで、黒いマスクをしている。

 黒の暗殺者(シャドウリーパー)だった。


「強化ガラス、ですわよ!?」


 ハルカの驚きの声。奴に常識は通じない。


「侵入者だ!」


 瀬葉が大きな声を上げると、警備員たちが一斉に集まってくる。


 だがそれより早く、黒の暗殺者(シャドウリーパー)は、こちらに向かってきた。


「いけませんわ」


 ハルカが声を上げ、瀬葉が前に出た。


「何者か存じませんが、これ以上の暴挙は見過ごせませんな」


 改めて見ると、瀬葉の身長は黒の暗殺者(シャドウリーパー)より高く、体格もしっかりしている。ハルカのボディガードも兼ねているのだろう。

 だが黒の暗殺者(シャドウリーパー)は怯まない。

 こちらに迫りながら声を発した。


「退きなさい。標的以外に危害を加えるつもりはありません!」


 それは初めて聞く、黒の暗殺者(シャドウリーパー)の声だった。

 理性を感じさせる毅然とした声。男性とも女性とも取れる中性的な声だった。

 そして、その声には焦りも滲み出ていた。

 奴も、人間だった。

 瀬葉は怯まず、さらに前へ出る。


「客人に危害を加えさせるわけにはいきませんな」


 しかし、黒い影が揺らぐ。

 次の瞬間に決着はついていた。

 瀬葉はすでに壁にもたれかかり、苦しげに息をついている。


 そして、黒の暗殺者(シャドウリーパー)は、まっすぐぼくへ向かってくる。

 これ以上、ハルカの家の人たちを巻き込んではいけない。標的は、ぼくだ。


「カナタさん!」


 声を上げるハルカを後に、ぼくは部屋を飛び出した。

 黒の暗殺者(シャドウリーパー)は迷うことなく追ってくる。

 ぼくはそのまま階段を駆け上がる。

 二階。

 三階。

 そして屋上へ飛び出した。

 赤く傾いた夕日が屋上を染めている。


 間を置かず、黒の暗殺者(シャドウリーパー)も姿を現した。

 ぼくは懐から包丁を抜き、構える。


「なぜぼくを狙うんだ?」


 返事はない。いつもそうだ。

 奴は何も語らず、ぼくの命だけを奪っていく。

 答えの代わりに一瞬で間合いを詰めてくる。

 暗殺者の刃と、ぼくの包丁が激しくぶつかる。

 奴とはこれまでに何度も戦った。

 そして、一度も勝てたことはない。

 ぼくの身のこなしに驚くのも最初だけだ。

 奴は瞬時に対応し、さらに速くなる。


 ぼくは相手のわずかな動きから攻撃を読み、致命傷だけを避ける。それ以外は刺されても構わない。

 ぼくは刃を振るい続けた。防戦一方だが、五秒は持ちこたえた。

 そろそろ限界か……


 その時だった。

 屋上に、五人の警備員が雪崩れ込んできた。

 全員が警棒を構え、一斉に黒の暗殺者(シャドウリーパー)へ襲いかかる。

 六対一。

 形勢は、一気に逆転した。


 暗殺者は舞うように身をかわしながら応戦する。

 しかし、さすがの奴もこの状況は簡単には突破できないようだ。


「仕方ない……」


 暗殺者は静かに呟き、警備員たちへ刃を向けた。


「無関係の人間は巻き込みたくはなかったが……これも国家のため、やむを得ない」


 その瞬間だった。


 ギュリオォン、ギュリオォン。


 ぼくのスマホが、あの耳障りな音を鳴らした。

 今回は、まだ無傷だというのに。


 ギュリオォン、ギュリオォン。


 警備員たちのスマホも一斉に鳴り始める。

 警備員たちは慌ててスマホを取り出し、黒の暗殺者(シャドウリーパー)は動きを止め、静かに目を閉じた。


 ヒュオッ。


 風を裂く音が響く。

 次の瞬間、ぼくの視界は白く焼きついた。


   ◇ ◇ ◇


 目を開けると、見覚えのある洞窟の中だった。

 間違いない。ここはレヴェリアだ。

 おかしい。今回はまだどこも刺されていなかった。なのに――。

 混乱する頭を整理する。

 ぼくはこれまで、黒の暗殺者(シャドウリーパー)に殺されて、この世界に来るものと考えていた。

 しかし、どうやらそれは大きな思い違いだったのかもしれない。

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