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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第二章

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19/24

現実での再会

 気がつくと、ぼくは駅からの帰り道、自転車で長い坂道へ差しかかっていた。

 今回向こうの世界で過ごした時間は三ヶ月あまり。現実では、自宅へ戻る十五分ほど前の時間に戻ってきていた。


 ゆっくりと坂を下っていく。


 前方から、銀髪の少女を乗せた車椅子がやって来た。

 車椅子を押しているのは白髪の男性だ。

 ぼくは何気なく少女へ目を向ける。


「あれ……?」


 思わず声が漏れた。

 以前に、この坂道ですれ違った彼女は、左目に眼帯をしていたはずだ。

 だが、今目の前の少女は眼帯をしていない。

 左右の瞳で、まっすぐこちらを見つめている。

 その澄んだ眼差しを見た瞬間、ぼくは確信した。


「……ハルカ?」


 ぼくが名前を呟くと、少女の肩が震えた。

 そして、その瞳がみるみる涙に潤んでいく。


「……カナタさん」


 間違いない。ハルカだ。

 ぼくは慌てて自転車を降り、彼女のもとへ駆け寄った。


「まさか……現実で君に会えるなんて!」


 ハルカの頬を涙が伝う。


「あなたとまたお会いできるなんて……夢のようですわ」


 彼女は両手でぼくの手を取り、何度も何度も確かめるように握り締めた。

 ぼくも自然と笑みがこぼれる。


「ぼくもだよ。本当にびっくりした」


 白髪の男性は、そんなハルカを目を丸くして見つめていた。


「お嬢様……お知り合いなのですか?」


 ハルカは涙をぬぐいながら頷く。


「ええ。カナタさんは私の命を助けてくださった恩人です」


 改めて目の前のハルカを見る。

 向こうの世界では黒髪で、中学生くらいに見えた。

 だが、こちらでは銀髪で、高校生くらいに見える。

 髪の色も年齢も違うけれど、その優しい瞳は同じだった。


「もう二度と、お会いできないものだと思っておりました。ご無事で本当に良かったですわ」


 再会を心から喜んでいることが、その表情から伝わってくる。


「向こうの世界で死んでも、ぼくはこっちへ戻るだけなんだ」


 ぼくのその言葉に、ハルカは驚いたように息をのんだ。


「やはり……カナタさんは特別なのですね」


「特別?」


「私が知る限り、レヴェリアで命を落としたレムウォーカーは、現実でも亡くなっています」


「えっ……」


 ぼくは思わず言葉を失った。

 ハルカは静かに続ける。


「実際、玲音(レオン)は亡くなりましたわ」


「玲音って……支配者ルーラーのレオン?」


「ええ」


 ハルカは目を伏せて頷いた。


「知り合いだったの?」


天宮(アマミヤ)玲音(レオン)。私の従兄弟です」


「従兄弟……?」


 意外な答えにぼくが戸惑っていると、代わりに、白髪の男性が口を開いた。


「もう三年ほど前になりますな。玲音様は若くして心臓発作で亡くなられました」


 男性はそこで声をひそめた。


「もっとも、遙香(ハルカ)お嬢様へ危害を加えようとしているという、あまり良くない噂も耳にしておりましたな」


「危害を?」


「遙香お嬢様は天宮財閥の正当な相続人です。その地位を狙い、よからぬことを企む者もいるのです」


 ハルカが財閥の相続人で、レオンはハルカの従兄弟……

 ぼくがレオンの命を奪ったのはつい先程のはず。その結果、現実のレオンは三年前に命を落とした。

 レヴェリアの時間は等しく流れていないのかもしれない。レヴェリアのハルカの年齢が、三年は若く見えたのはこのためなのだろうか。

 多くの情報が一度に入ってきて、ぼくの頭はすぐには追いつかなかった。


瀬葉(せば)さん、その玲音の悪意から身を挺して私を救ってくれたのが、こちらのカナタさんなのですわ」


 ハルカが補足してくれた。

 この白髪の男性の名は、瀬葉(せば)というようだ。

 瀬葉は驚いてぼくを見つめた。


「カナタさん、こちらでは初めまして」


 ハルカは涙を拭き、改めてぼくへ向き直る。


「私は、天宮(アマミヤ)遙香(ハルカ)です」


 現実世界のハルカに聞きたいことや話したいことは山ほどある。

 レヴェリアや、レムウォーカーの詳しい話。

 あの街の人たちや、ぼくが死んだ後のこと。

 だが、そんな時間はなかった。

 まもなく黒の暗殺者(シャドウリーパー)が姿を現す。

 ぼくは単刀直入に切り出した。


「ハルカ、聞いて欲しい。ぼくはもうすぐ、現実世界で殺される。暗殺者が、ぼくを狙っているんだ」


 ハルカの表情が強張る。だが、彼女は冷静だった。


「レヴェリアでも、そのようにおっしゃっていましたね。今がまさにその時、ということですわね」


 ハルカが頷くと、その瞳に強い意志が宿った。


「分かりました。今度は私が、ご恩に報いる番です」


 そう言って、迷いなく続けた。


「カナタさん。どうか私の屋敷へお越しください。数は多くありませんが、警備員もおります。簡単には侵入できませんわ」


 ぼくはハルカたちと共に坂を上った。

 その先に建っていたのは、大きな門と塀に囲まれた豪邸だった。

 駅からの帰り道に見たことはあったが、いつも、『一体どんな人が住んでいるんだろう』と思っていた家だ。まさか、その住人がハルカだったとは。

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