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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第二章

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18/19

悪くない人生

 霧の街(ミラージュヴィル)はレオンの支配を免れ、再び穏やかな日々を取り戻していた。

 だが、ぼくだけは元の生活には戻れなかった。

 左目に突き刺さった矢は処置してもらったものの、傷は思っていた以上に深く、ぼくは後遺症に苦しんでいた。


 体中が燃えるように熱い。

 頭が割れそうに痛み、意識が何度も遠のいていく。


 例えば心臓を刺されるように、急所を貫かれれば、すぐに死ぬ。苦しむ時間も少ない。

 だが、そうでない深い傷は、ゆっくりと苦しむことになる。むしろ厄介だ。

 ぼくは新しい家のベッドに横になり、天井をぼんやりと眺めていた。

 結局ぼくは、他人のために厄介ごとに首を突っ込んだ結果、こんな苦しい思いをしている。


 扉が静かに開く。


「失礼しますわ」


 水の入った器を持ったハルカだった。

 彼女はぼくの額に湿った布を乗せると、熱を確かめるようにそっと手を添えた。


「……熱いですわね」


「ぼくなんかに、そんなに時間を使っていいのか?」


 ぼくはかすれた声で尋ねる。


「ハルカは街全体を見ないといけないだろ」


 ハルカは首を横に振った。


「いいえ」


 彼女はぼくの左目を見つめ、


「私のために、このような怪我を負わせてしまったのです。せめてこれくらいさせてください。そうでなければ、私の気が済みません」


 ぼくは思わず苦笑した。


「そんな責任感じなくていいよ」


「いいえ、責任は全て私にあります。あなたは、私を守ってくださったのです。私が今ここにいられるのは、あなたのお陰なんです」


 ハルカは俯き、小さく呟いた。


「私には……これくらいしかできませんから……」


 ぼくは答えようとしたが、咳が込み上げてそれ以上言葉にならなかった。


 それから何日も、ハルカは毎日ぼくのそばにいた。

 優しい言葉をかけて、水を飲ませてくれた。

 食事を作ってくれた。

 汗を拭き、何度も熱を確かめてくれた。

 ぼくが目を覚ませば、必ずそこにハルカがいた。


「……ちゃんと寝てないだろ」


「毎日きちんと寝させていただいてますわ」


「嘘だ」


 ハルカは困ったように微笑んだ。

 改めてぼくは思った。他人のために厄介ごとに首を突っ込んだけれど、この子を守れて本当に良かった、と。


 それからもぼくの熱は下がらなかった。

 日に日に身体は弱り、自力で立ち上がることもできなくなった。

 レオンの一件から三ヶ月が経過したある日、ぼくは自分でも分かった。

 もう長くない。


 ベッドの周りには、ミラをはじめ、街の人たちが集まっていた。

 野菜をくれた隣の女性。

 一緒にバーベキューをした子どもたち。

 兵団の兵士たち。

 みんなが、黙ってぼくを見つめている。


 ハルカはその目に涙をいっぱいに溜めて、ぼくの手を両手で包み込んでいた。


「カナタさん……ごめんなさい」


「どうか謝らないで」


 ぼくは弱々しく首を横に振った。


「逆にお礼を言いたいのはぼくの方だ。この三ヶ月間、本当に良くしてもらった」


「でも、私のせいで……」


「ぼくが勝手にやったことだ。君を守れて本当に良かったと思ってる」


 ハルカの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

 意識が少しずつ遠くなっていく。


「なぜそこまで私に優しくしてくれるのですか?」


 ぼくのために泣いてくれたからだ。


 そう思ったが、答えられなかった。

 もう体に力が入らない。

 でも何も怖くはない。

 ハルカの泣く声が聞こえた。


 現実では、誰にも必要とされていなかった。

 二浪中で、何をしたいのかもわからないまま、毎日を無駄に過ごしていた。

 そんなぼくでも、この街では必要としてもらえた。

 ぼくのために声を上げて泣いてくれる人もいる。


 ……案外、悪くない人生だったな。


 ぼくの意識は静かに闇へ溶けていった。

いつも読んでくださってありがとうございます!

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