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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第二章

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断罪

「どういうことだい?」


 ミラが眉をひそめる。


「今の決闘は無効です」


 レオンは穏やかな笑みを浮かべたまま言った。


「カナタはあろうことか、ハヤトを買収していました」


 広場がざわつく。


「……はぁ?」


 間の抜けた声を上げたのはハヤトだった。


「おい、レオン。お前何を言って――」


 言い終える前に、レオンの兵士たちがハヤトを取り囲んでいた。


「勝負を売り渡すとは、恥を知りなさい」


「ちょ、待て! 何の話だ!」


 抵抗するハヤトは、そのまま兵士たちに引きずられていく。


「買収に応じたハヤトは、私の責任で厳しく処罰します」


 レオンはそう言いながら、嘆くように目を伏せた。


「ですが、さらに悪質なのは、買収した側です」


 その指をぼくに突きつけた。


「街の支配権欲しさに、このような卑劣な手段を使う人物に、この街を任せるわけにはいきません」


「そうだ!」


「それはいかん!」


 根も葉もない言いがかりなのに、レオンに同調する声が上がり始めた。

 ぼくへ向けられる視線が、みるみる険しくなっていく。

 おそらくこれがレオンの支配者ルーラーの能力だ。


「そのような言いがかりは見苦しいですわ!」


 見かねたようにハルカが塔の中から姿を現し、強く言い放った。


「カナタさんも、私も、買収などしておりません。そのような不当な主張は、先ほどのお二人の真剣な戦いを侮辱することになります」


 レオンは動じる様子もなく、首を横に振った。


「では説明してください。カナタは突然決闘に選ばれたというのに、あの落ち着いた振る舞い。そして、あの戦いぶりは、まるでハヤトの動きを完全に知っていたかのようでした」


 ゆっくり広場を見渡しながら続ける。


「初対面の相手に、あそこまで完璧に対応できるでしょうか?」


 不穏なざわめきが広がる中、レオンは断言した。


「つまり、以前から二人は通じていた。そう考えるのが自然です」


 根拠も乏しいのに、ここまでもっともらしく主張するレオンに、ぼくは苦笑するしかなかった。


「ぼくとハヤトは今日が初対面だ。そんなふうに示し合わせる時間なんてなかった」


 レオンは余裕の笑みを崩さない。


「そう言うしかありませんよね」


 ハルカがさらに前に出てきた。


「そこまでおっしゃるのでしたら、もちろん確かな証拠をお持ちなのですよね? それとも、事実を曲解したあなたの創作ですか?」


「証拠ですか……」


 レオンはそこで言葉を詰まらせた。

 もちろん証拠などあるはずもないだろう。

 周りからも声が上がる。


「レオン、証拠を出してやれ!」

「決定的なやつを頼む」


 レオンはしばし思案している様子だったが、やがて小さく息を吐いた。

 何かを諦めたようだった。

 先ほどまでの笑みは消え、冷徹な眼差しに変わっていた。

 その時、レオンの視線が一瞬だけ右へ流れたのを、ぼくは見逃さなかった。


 反射的に視線を追う。

 そこには、弓を構えた男の姿があった。

 矢の先は、ハルカへ向けられている。


「ハルカ!」


 ぼくは駆け出した。

 矢が放たれる。

 ぼくはハルカの前へ滑り込み、その身体をかばった。


 ――ドッ。


 矢はぼくの左目に深々と突き刺さった。


「カナタさん!」


 ハルカの顔から血の気が引いていく。

 左目はもう見えないようだ。矢は脳まで達しているかもしれない。

 だが、ぼくはこの状態を冷静に見ていた。

 重症なのは明らかだが、即座に死ぬほどではなさそうだ。

 そしてハルカを振り返り、穏やかに言った。


「大丈夫だ。君を守れるなら、このくらいどうってことない」


 ハルカの瞳に涙があふれた。

 ぼくは別に虚勢を張ったわけでもない。実際、何度も心臓を刺されてきたことに比べれば、この程度の傷は取るに足らない。

 ぼくは剣を握り直した。


「卑怯なのは、お前だ」


 レオンに向け、一歩踏み出す。


「ありもしない不正をでっち上げたうえ、混乱に乗じてハルカを殺そうとするなんて」


 レオンの表情が初めて崩れた。


「な、なぜ……その傷で、なぜ平然としていられるのです? 死ぬかもしれないのですよ!」


 その声は震えていた。


「ああ」


 ぼくは平然と答えた。


「死ぬことには慣れてる」


 レオンは息をのんだ。

 その一瞬の隙に、ぼくは剣を振り上げ、レオンを肩口へ斬りつけた。


「ぐぁ、あぁぁぁぁ」


 レオンは倒れ、懇願するような目でこちらを見た。


「た、頼む、助けて……」


 ぼくは躊躇せず、レオンの胸に深々と剣を突き立てた。

 レオンは目を見開いたまま絶命した。


 この男は危険すぎる。ハルカのためにも、この街のためにも生かしておくわけにはいかなかった。

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