断罪
「どういうことだい?」
ミラが眉をひそめる。
「今の決闘は無効です」
レオンは穏やかな笑みを浮かべたまま言った。
「カナタはあろうことか、ハヤトを買収していました」
広場がざわつく。
「……はぁ?」
間の抜けた声を上げたのはハヤトだった。
「おい、レオン。お前何を言って――」
言い終える前に、レオンの兵士たちがハヤトを取り囲んでいた。
「勝負を売り渡すとは、恥を知りなさい」
「ちょ、待て! 何の話だ!」
抵抗するハヤトは、そのまま兵士たちに引きずられていく。
「買収に応じたハヤトは、私の責任で厳しく処罰します」
レオンはそう言いながら、嘆くように目を伏せた。
「ですが、さらに悪質なのは、買収した側です」
その指をぼくに突きつけた。
「街の支配権欲しさに、このような卑劣な手段を使う人物に、この街を任せるわけにはいきません」
「そうだ!」
「それはいかん!」
根も葉もない言いがかりなのに、レオンに同調する声が上がり始めた。
ぼくへ向けられる視線が、みるみる険しくなっていく。
おそらくこれがレオンの支配者の能力だ。
「そのような言いがかりは見苦しいですわ!」
見かねたようにハルカが塔の中から姿を現し、強く言い放った。
「カナタさんも、私も、買収などしておりません。そのような不当な主張は、先ほどのお二人の真剣な戦いを侮辱することになります」
レオンは動じる様子もなく、首を横に振った。
「では説明してください。カナタは突然決闘に選ばれたというのに、あの落ち着いた振る舞い。そして、あの戦いぶりは、まるでハヤトの動きを完全に知っていたかのようでした」
ゆっくり広場を見渡しながら続ける。
「初対面の相手に、あそこまで完璧に対応できるでしょうか?」
不穏なざわめきが広がる中、レオンは断言した。
「つまり、以前から二人は通じていた。そう考えるのが自然です」
根拠も乏しいのに、ここまでもっともらしく主張するレオンに、ぼくは苦笑するしかなかった。
「ぼくとハヤトは今日が初対面だ。そんなふうに示し合わせる時間なんてなかった」
レオンは余裕の笑みを崩さない。
「そう言うしかありませんよね」
ハルカがさらに前に出てきた。
「そこまでおっしゃるのでしたら、もちろん確かな証拠をお持ちなのですよね? それとも、事実を曲解したあなたの創作ですか?」
「証拠ですか……」
レオンはそこで言葉を詰まらせた。
もちろん証拠などあるはずもないだろう。
周りからも声が上がる。
「レオン、証拠を出してやれ!」
「決定的なやつを頼む」
レオンはしばし思案している様子だったが、やがて小さく息を吐いた。
何かを諦めたようだった。
先ほどまでの笑みは消え、冷徹な眼差しに変わっていた。
その時、レオンの視線が一瞬だけ右へ流れたのを、ぼくは見逃さなかった。
反射的に視線を追う。
そこには、弓を構えた男の姿があった。
矢の先は、ハルカへ向けられている。
「ハルカ!」
ぼくは駆け出した。
矢が放たれる。
ぼくはハルカの前へ滑り込み、その身体をかばった。
――ドッ。
矢はぼくの左目に深々と突き刺さった。
「カナタさん!」
ハルカの顔から血の気が引いていく。
左目はもう見えないようだ。矢は脳まで達しているかもしれない。
だが、ぼくはこの状態を冷静に見ていた。
重症なのは明らかだが、即座に死ぬほどではなさそうだ。
そしてハルカを振り返り、穏やかに言った。
「大丈夫だ。君を守れるなら、このくらいどうってことない」
ハルカの瞳に涙があふれた。
ぼくは別に虚勢を張ったわけでもない。実際、何度も心臓を刺されてきたことに比べれば、この程度の傷は取るに足らない。
ぼくは剣を握り直した。
「卑怯なのは、お前だ」
レオンに向け、一歩踏み出す。
「ありもしない不正をでっち上げたうえ、混乱に乗じてハルカを殺そうとするなんて」
レオンの表情が初めて崩れた。
「な、なぜ……その傷で、なぜ平然としていられるのです? 死ぬかもしれないのですよ!」
その声は震えていた。
「ああ」
ぼくは平然と答えた。
「死ぬことには慣れてる」
レオンは息をのんだ。
その一瞬の隙に、ぼくは剣を振り上げ、レオンを肩口へ斬りつけた。
「ぐぁ、あぁぁぁぁ」
レオンは倒れ、懇願するような目でこちらを見た。
「た、頼む、助けて……」
ぼくは躊躇せず、レオンの胸に深々と剣を突き立てた。
レオンは目を見開いたまま絶命した。
この男は危険すぎる。ハルカのためにも、この街のためにも生かしておくわけにはいかなかった。
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