二度目の決闘
ぼくは再び霧の街を訪れ、ハルカと出会い、この街で穏やかな一週間を過ごした。
前とまったく同じ一週間。
けれど、ぼくにとってはそれでも十分幸せな時間だった。
そして、支配者レオンが霧の塔を訪れる日が来た。
ぼくは前もってミラにひとつ頼んでおいた。
「マリスの戦場でのぼくのことは、レオンのいる場で話さないでほしい」
「どうしてだい?」
ミラは不思議そうな顔で聞き返す。
「相手に余計な警戒をされたくないんだ」
「なるほど、相手の油断を誘うんだな。さすがカナタ、周到だな」
ほどなくして、レオンが率いる一団が霧の塔へ押しかけてくる。
「この街は、私が治めるべきでしょう」
レオンの強引な主張にミラが提案する。
「双方を代表する戦士たちが一対一で戦って、決着をつけようじゃないか」
かくして、以前と同じように、街の広場へ人々が集まった。
レオン陣営からは、強化者ハヤト。ハルカ陣営からはぼくだ。
けれど、以前のぼくとは違う。
「これより霧の街の支配権を賭けた決闘を始める。ハヤトが勝利すればこの街の支配者はレオン。カナタが勝利すればこの街の支配者はハルカ」
立会人が高らかに宣言すると、歓声が上がった。
向かい合うハヤトは、今回も余裕の笑みを浮かべていた。
「カナタと言ったか。運が悪かったな。よりによって相手がこの俺とは」
前回と同じ仕草で剣先をぼくへ突きつける。
「降参するなら今のうちだ。痛い目を見ずに済むぞ。何せ俺はマリスの攻撃を受け流したこともある。そして、一太刀浴びせてやった」
周囲がどよめく。
ぼくはマリスを一体仕留めているけどな、と思ったが口にはしなかった。
「どうした? 圧倒されて声も出ないか? だが、俺を前にして腰が引けていないその勇気は褒めてやろう」
ぼくは無言で剣を構える。
立会人が手を振り下ろした。
「では決闘を開始する!」
ハヤトは余裕の笑みを浮かべたまま、ぼくの周りをゆっくりと歩く。
「この決闘では俺たちの力を見せつける必要がある。つまり、見せしめだ。お前には悪いが、ここで死んでもらうことになる」
申し訳なさそうな口ぶりとは裏腹に、ハヤトの表情は嬉々としていた。
「俺の能力は常人の倍の速さで動ける。一瞬であの世に送ってやるよ。行くぜ」
そして、親切なことに自分の能力と攻撃タイミングまで明かしてくれた。
「倍速!」
剣先をぼくに定めたハヤトは、掛け声と共に加速した。
以前のぼくだったら、とても反応できなかっただろう。
けれど、今のぼくには軌道がはっきり読めていた。
マリスの触手よりずっと遅いし、黒の暗殺者よりずっと単純だ。
ぼくは少し体を捻り、ハヤトの剣を受け流した。
剣がぶつかり甲高い音を立てる。
そのままぼくは剣を振り上げた。
ハヤトの手から剣が離れ、宙を舞った。
「……お?」
ハヤトの口がぽかんと開く。
ぼくは落ちてきた剣を足で蹴り飛ばし、そのまま自分の剣を彼の喉元へ突きつけた。
ハヤトは硬直したまま動けない。汗が一筋、彼の頬を流れた。
「勝負あり!」
立会人が声を上げた。
状況を飲み込めないまま、ハヤトが周りを見渡す。
「俺が? 負けたのか?」
静まり返った広場に、立会人の言葉が響いた。
「勝者――カナタ!」
「おおおおおおっ!」
途端に広場は歓声に包まれた。
ハヤト……結局、倍速なだけだった。
「これで、この街の支配者はハルカだな!」
ミラが満面の笑みで声を上げる。
「――いけません」
その時、沸き立つ広場に、人の心に直接響くような男の声が響いた。
「これはいけません。実にいけません」
人々の視線が一斉に彼へ向く。こめかみに指を当てたレオンだった。
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