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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第二章

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鍛錬と成長

 次の瞬間、ぼくは薄暗い洞窟の中に立っていた。再びレヴェリアだ。

 ここでは包丁のような武器は持っていない。

 ぼくは一直線に洞窟を駆け抜け、戦場へ飛び出す。

 マリスの群れから距離を取りつつ、地面に倒れている兵士のもとへ駆け寄った。


「借りるよ」


 返事はない。兵士はすでに息絶えている。

 ぼくは彼の剣を手にして、迫るマリスに向き合った。

 これは逃げるために覚えた攻略パターンではない。

 ここからは真っ向勝負だ。


 マリスの触手が唸る。


 ぼくはその動きを目で追い、剣を振るった。

 だが、それは空を切り――


「あ――」


 黒い触手がぼくの頭を打ち砕いた。


   ◇ ◇ ◇


 意識が戻る。

 夕暮れ。自宅のアパート。

 懐には、先ほど買った包丁がある。

 ぼくはすぐに振り返る。

 黒の暗殺者(シャドウリーパー)が立っていた。


「もう一回」


 ぼくは包丁を抜き、再び構えた。


 そう、ぼくの剣術の稽古相手は、黒の暗殺者(シャドウリーパー)とマリスだ。

 この勝負は稽古試合ではない。毎回、真剣勝負。

 相手も本気でこちらの息の根を止めにくる。

 ぼくはその命の駆け引きの中で、剣の振り方や、身のかわし方を少しずつ覚えていった。

 

 だが、嫌というほど思い知らされることになる。

 黒の暗殺者(シャドウリーパー)には勝てない。


 ぼくの動きを見透かしたような身のこなし。

 急所を知り尽くし、狙い澄ました攻撃。

 そして、あの素早い一撃一撃が、あまりに重い。


 黒の暗殺者(シャドウリーパー)は超人的な戦士であり、遥か上の存在だった。


 ギュリオォン、ギュリオォン。


 見事なまでに、毎回敗れた。

 もう致命傷を受けることにも慣れてしまったとはいえ、それが嫌なことには変わりがない。

 だから毎回本気で挑んでいる。

 相変わらず黒の暗殺者(シャドウリーパー)には全く歯が立たないが、ぼくは彼の動きを注視した。

 構え、踏み込み、重心の移動。

 少しずつそれらを真似する。


 やがて、最初は一秒しか持たなかった戦いが、二秒、三秒と伸びていった。

 まだわずか三秒で殺されることに変わりはない。それでも、ぼくにとっては大きな前進だった。


 初撃に包丁を合わせる。

 二撃目、三撃目を身を捻ってかわす。

 しかし、ぼくの攻撃は一度たりとも届かない。

 前回の相手の一手は覚えている。

 だから先回りして包丁を向けてみても、その瞬間には黒の暗殺者(シャドウリーパー)はすでに軌道を変えている。

 恐ろしい反射神経だった。


 ギュリオォン、ギュリオォン。


 一方、マリスとの戦いでは成果が現れ始めていた。

 マリスは触手を薙ぎ払う前に、わずかに振りかぶる。

 その初動を見るだけで、どこへ触手が飛んでくるのか、おおよそ読めるようになってきた。

 ぼくはそこへ剣の刃を合わせ、腕にありったけの力を込め、地面を踏みしめる。

 全身に重い衝撃。

 それを耐え抜いた時、剣が触手を受け止め、そのまま切断していた。


 一本、二本。


 何度も死を繰り返して、ぼくは触手を切り落とせる確率を少しずつ上げていった。


 ギュリオォン、ギュリオォン。


 黒の暗殺者(シャドウリーパー)との戦いを五秒ほど耐えられるようになった頃。

 ついにぼくは、マリスの八本すべての触手を切り落とすことに成功した。

 攻撃手段を失ったマリスへ、ぼくはゆっくりと歩み寄った。


「ぼくの勝ちだ」


 ぼくは縦に裂けた赤い瞳に剣を突き立てた。

 マリスが悲鳴を上げることはなかったが、激しく体を振るわせた。

 瞳の光が揺らぎ、消える。

 するとマリスの体は黒い霧となって崩れ、地面へ溶けるように消えていった。


 ――勝った。


 初めて、マリスを一体倒した。

 胸の奥から、達成感が込み上げてくる。


 ……いや。まだ百体くらい残ってるんだけど。


 辺りを見回して、思わず脱力した。


 とはいえ、一体倒せたということは、二体でも三体でも倒せるはずだ。

 ぼくは剣を握り直し、戦場を駆けた。

 マリスの攻撃は、もう怖くなかった。

 立ち塞がるマリスの触手を斬って斬って、斬りまくる。

 もはや今のぼくなら戦場から脱出することは難しくなさそうだ。以前のように攻略パターンをなぞる必要もない。

 マリスの攻撃をさばきながら、自分の判断で道を切り開いて進めるようになっていた。


「すげぇ……」

「何者だあいつ」


 兵士たちから歓声が上がる。

 いや、そんなに大したことじゃない。

 千回くらい死ねば、たぶん誰でもできる。


 戦場を抜けた後、前と同じように兵団の馬車がぼくを拾ってくれた。その馬車の上には、生きているミラの姿があった。

 彼女の姿を見た瞬間、胸の奥が熱くなった。


「また、生きている君に会えて、本当に嬉しいよ」


 思わず言葉が漏れた。

 ミラはきょとんとした顔でぼくを見つめる。


「えっ? あたしたち、前に会ったことあったっけ?」


 もちろん、このターンの彼女がぼくのことを覚えているはずがない。

いつも読んでくださってありがとうございます!

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