法則の発見
意識が戻ると、ぼくは駅前の総合スーパーの中で立っていた。
手に持った買い物カゴの中にはスナック菓子。結局買ったものの、ぼくはこれを食べる前に殺されてしまうことになる。
ぼくはスマホで現在時刻を確認した。
「あと一時間……」
ぼくが黒の暗殺者に刺される、およそ一時間前だった。前回よりも、さらに過去の時間に戻ってきている。
そこでようやく、一つの法則を思いついた。
頭の中でこれまでの出来事を整理してみる。
別世界へ行ってすぐにマリスに殺された時は、現実世界では刺される直前に戻った。
その後、霧の街で一週間暮らし、ハヤトとの決闘で命を落とした時は、刺される一分前に戻った。
そして今回、レオンに街を支配され、マリスに抵抗するため、ハルカと共に最後まで戦って死んだ。その期間はおよそ一年。
すると現実では、刺される一時間前に戻ってきた。
……きっとそうだ。
あちらの世界で長く生きるほど、現実世界に戻ってきた時、死ぬまでの猶予が増える。
その増える時間は、別世界で生きた時間と比べればほんのわずかなものだ。だか、長く生きれば、より過去へ戻ることができる。
だとすれば、この時間をどう活用できるだろうか。
このあとぼくは、買い物を済ませ、自転車で自宅へ帰る。
そして、待ち受けている黒の暗殺者に殺される。
前回は、自宅へ帰らず、まったく別の方向へ逃げることも試したが、それでも奴は現れた。
おそらく、ぼくがどこに逃げようと、黒の暗殺者は、必ずぼくを見つけ出してくる。
さてどうする?
ぼくが考えていたことは、ぼくがどう生き延びるかではない。
今度こそ、ハルカを守る。
そのためには、霧の街をレオンに奪わせてはいけない。つまり、ハヤトとの決闘に勝たなければならない。
ぼくはひとつの案を思いつく。
マリスを攻略した時と同じように、ハヤトに何度も挑戦し、何度も死んで、勝ち筋を見つけ出す。
いや……。ぼくはその案をすぐに否定した。
ハヤトと戦うのは向こうの世界に行って一週間後だ。つまり、一回負けるたびに、一週間のやり直しになる。
おそらくハヤトに勝つためにはそれを何百回も繰り返す必要があるだろう。一週間を何百回も繰り返せば、体感では人の一生に届いてしまう。それはあまりにも非効率に感じる。
それなら、ぼく自身が強くなる方がまだ早い。そう感じた。
ハヤトのあの高速に動ける能力は確かに強い。
だが、剣の腕そのものは、それほど洗練されているようには見えなかった。
もし、ぼくがまともな剣術を身につければ、勝機はある。
「訓練か……」
ぼくに剣術を教えてくれそうな人はいないかと考えてみたが、心当たりはない。
霧の街で兵団の団長にお願いしたら教えてくれるだろうか……
などと考えていると、ふと、ひとり最適な人物が思い浮かんだ。
「剣が要るな……」
もちろん、武器になる剣など近くで売っているはずがない。
だが、スーパーの刃物売り場で足が止まった。
「……まあ、これも剣みたいなものか」
ぼくは一本の包丁を手に取った。切れ味が良いと評判の、刃物メーカー『蟹印』。刀鍛冶をルーツに持つ老舗メーカーらしい。
包丁も日本刀も、同じ刃物だ。
ぼくはその三千円の包丁を持ち、レジへ向かった。
◇ ◇ ◇
包丁を懐に忍ばせたぼくは、自転車で坂道を下る。
途中、銀髪で眼帯をした車椅子の少女と、その車椅子を押す白髪の老人とすれ違った。
以前はここで脇道から出てきた少女とぶつかりかけた。
けれど今回は、スーパーで包丁を買っていた分だけ時間がずれており、少女は歩道の先を移動している。
ぼくは二人を横目に、そのまま通り過ぎた。
ここでぼくが立ち止まらず進むことで、自宅へ着く時間は、何度も死を繰り返したあの時刻と、ほぼ同じになる。
自宅のアパートの駐輪場で自転車を停め、ぼくはすぐに振り返った。
目の前に、黒の暗殺者がいた。
黒い帽子、黒いマスク、黒いジャンパー、黒いパンツ。
「やあ」
ぼくは旧友に再会したような口調で声をかけた。
そして懐から先ほど買った包丁を取り出し、剣のように、両手で柄を握る。
正直、包丁の柄は両手で握るには短かった。けれど、今はこれしかない。
一瞬だけ、黒の暗殺者の動きが止まった。
まさか反撃されるとは思っていなかったのだろう。
だが、暗殺者は逃げることもなく、静かに刃物を抜いた。
直後、音もなく踏み込んできた。
速い。
ぼくは包丁を突き出した。
しかし、その刃は軽く外へ流され――
「……っ!」
次の瞬間、冷たい刃がぼくの心臓まで届いた。
勝負は、わずか一秒。
ぼくの完敗だった。
ギュリオォン、ギュリオォン。
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