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無間のハルカ・カナタ~死にすぎたので、致命傷くらいなら平気です~  作者: マシナマナブ
第二章

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救済

「ぼくも、あまり良い思い出はなかったよ」


 嫌な過去を振り返り、ため息をひとつ。


「その話をする前に、一つ聞いてもいいかな」


 自分の話をする前に、確認しておきたいことがあった。


「もちろんですわ」


「ハルカは、どうやってこの世界へ来たんだ? それに、元の世界へ戻ることはあるの?」


 ハルカは少し思案するようにした後、静かに話し始めた。


「私は、ある日突然、レヴェリアにいました」


「レヴェリア?」


「この世界の名前は、レヴェリアといいます」


 初めて知る、この世界の名前だった。


「現実から逃げたいという気持ちが、私をここへ導いたのかもしれません。それ以来、ずっとレヴェリアで暮らしていますわ」


 ハルカは穏やかな表情のまま続ける。


「ですが、私の場合は現実世界とレヴェリアがつながっています。二つの世界が同時に進んでいる、と言えばよいのでしょうか」


「同時に進んでいる?」


「ええ。ある時突然、現実世界の記憶が、ふっと頭の中へ流れ込んでくるのです。私がレヴェリアに来た後も続いている、現実世界の記憶です」


 ぼくは黙って耳を傾けた。


「そういう意味では、私は今も現実世界にいるのかもしれませんわ」


 どうやらハルカの状況は、ぼくとは違うらしい。

 ぼくは意を決して話し始めた。


「実は、ぼくは元の世界で死んでから、ここへ来たんだ」


「あら……?」


「しかも、この世界で死ぬと、また元の世界に戻るんだよ」


「それって……」


 ハルカは目を見開いたまま、黙ってぼくの話を聞いていた。

 重い雰囲気にならないように、ぼくは軽い調子で続けた。


「だから、もう何度死んだか忘れちゃった。マリスにも何回もやられたんだよ。元の世界に戻っても、途端にまた刺されるし」


 ぼくは笑いながら頭を掻いた。


「いや、それはもう大変だったよ。特に最初の頃は慣れなくてね。でも、何度も死んでると、人間って慣れてくるんだよ。最近じゃ、『あ、もう好きなところを刺してくれ』くらいの感じかな。いやぁ、慣れって怖いよね」


 こんな話、信じてもらえるはずがない。だから冗談みたいに笑って話した。

 なにその変な話、と軽く返してくれるだけでよかった。


 けれど、ハルカは何も言わず、ただ、静かにぼくを見つめていた。

 ゆっくりと、その瞳が潤んでいく。


「それは……」


 ぽたり。


 一粒の涙が彼女の膝の上に落ちた。


「それは……お辛かったですね」


 涙がハルカの頬を伝っていた。

 ぼくなんかのために泣いてくれている。

 彼女は普段どんな境遇に陥っても、自分のことでは涙を見せないのに。


 その瞬間、ぼくの胸の奥で凍りついていた感情が、溶け出した。

 ぼくが死を繰り返し、どんなに辛い経験をしても、それは誰にも理解されないと思っていた。

 その苦しみは、自分にしか分からないと思っていた。


 だけど、ハルカは信じて、理解してくれた。

 ぼくを奇妙な目で見ることもなく、ただ一緒に悲しんでくれた。


「ああ……」


 ぼくの声が震える。


「辛かったんだ……」


 その一言を口にした瞬間、ぼくの涙が止まらなくなった。

 何度も泣き叫んで命乞いをし、もう枯れ果てたと思っていた涙が、いくらでも溢れてくる。


 ハルカは何も言わず、ただ、そっとぼくの手を包み込んだ。

 その小さな手は、とても温かかった。


「カナタさん」


 それは祈るような声だった。


「あなたのこれからに、幸せが訪れますように」


 その言葉は、これまで誰にも祝福されたことのなかったぼくの胸に、深く染み込んでいった。

 そうだ、この奇妙な世界で、確かなことが一つだけある。


 ――ハルカだけは、何があっても守らなければならない。


 ぼくは初めて、自分以外の誰かのためにそう思った。


   ◇ ◇ ◇


 ぼくの誓いとは裏腹に、霧の街(ミラージュヴィル)の状況はさらに悪化していった。

 レオンの独裁により、街にあるほとんどのものがレオンの手中に収まった頃、ついに、マリスの大群が街を攻めてきた。

 それは数百を超える大群だった。

 ところが支配者レオンは、マリスから街を守るための兵団を自分の護衛として引き連れ、真っ先に霧の街から逃げていった。


 食べ物も戦力もない。すっかり弱体化したこの街では、もはやなすすべもなかった。

 マリスは街を飲み込んでいった。

 マリスの通った後は黒く汚され、不毛の土地となる。

 その毒は人々を蝕み、もはやその土地で人は生きられない。

 それでもハルカは、最後まで霧の街(ミラージュヴィル)に留まった。

 ぼくもハルカを守るため、マリスへの抵抗を続けた。

 そして、ぼくたちは街と共に滅びた。

いつも読んでくださってありがとうございます!

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