第6話「分析担当のはずなのに、君も突っ込むのか」
星彩少女ノクターン。
月代ミオ。
原作『星彩のステラ・マギア』において、四人目に加入する星彩少女である。
濃紺の衣装に、月明かりを閉じ込めたような淡い紫色の髪。
戦闘では敵の弱点を見抜き、仲間に的確な指示を出す分析担当。
こちらの動向を完全に疑っているが、まぁそれはいい。
それ以上に、ここで彼女が参戦したことは大きな意味を持つ。
ルミナは真正面から突撃する。
ブレイズはとりあえず燃やす。
セラフィは守りたい気持ちが強すぎて前に出る。
つまり、現状の星彩少女チームには、戦術を考える人材がいないのだ。
そこへ現れた分析担当。
やっとだ。
やっと話の通じそうな子が来た。
俺は中央広間の奥に立ち、内心で深く安堵していた。
もちろん、表情には出さない。
悪の幹部ヴァルグレイとして、銀の仮面の下で冷たく笑う。
「星彩少女ノクターン。ようやく歯応えがありそうな星彩少女が来たか」
ノクターンは杖を構えたまま、静かに俺を見る。
「私のことを知っているの?」
しまった。
原作知識で普通に呼びかけてしまった。
だが、そこは悪役らしく押し通す。
「黒天教団の情報網を侮るな。光に群がる虫の名など、調べるまでもない」
よし。
感じが悪い。
かなりヴァルグレイっぽい。
ルミナが眉を吊り上げる。
「虫じゃない!」
ブレイズも拳を燃やす。
「そうよ! ノクターンは虫じゃなくて、えっとえっと……」
「そこは無理に例えなくていい」
ノクターンが淡々と止める。
おお。
なかなかに落ち着いている。
いいぞノクターン。
やはり他の三人とは違う。
状況を見て、言葉を選べる。
敵の挑発にも乗らない。
この子がいれば、チームの無謀な突撃癖も少しは改善されるはずだ。
ノクターンは広間を見回した。
床の魔法陣。
天井の水晶。
停止した罠。
配置された怪人たち。
そして、俺。
「罠の構造は、私たちを分断するためのもの。でも実際には、封鎖のタイミングが遅い。攻撃罠の威力も低い。拘束具には毒がない」
俺の背筋に冷たいものが走った。
バレてる。
さすが分析担当。
優秀。
優秀すぎるのも困りものだ。
ノクターンはさらに続ける。
「しかも、あなたは私たちを追い詰めるより先に、罠の入り方を注意していた。敵としては、行動が不自然」
ご指摘の通りです。
ぐうの音も出ないやつだこれ。
ルミナが首をかしげる。
「やっぱりそうだよね?」
ブレイズも頷く。
「なんか敵っぽいこと言うけど、内容は親切なんだよね」
セラフィが遠慮がちに手を挙げる。
「あの、安全確認の大切さは、とてもよくわかりました」
やめろやめろ。
全員で俺の悪役ムーブを検証するな。
俺は外套を揺らし、低く笑った。
「だから貴様らは浅いのだ」
ノクターンの目が細くなる。
「浅い?」
「あえて気づかせたのだ。貴様らの中に、少しは頭を使う者がいるか試すためにな」
言いながら、必死で言い訳を組み立てる。
今のところ、ギリギリだ。
まだ「高等な悪の試練」で押し通せる。
「罠に気づいたところで、抜けられねば意味はない。知識だけで勝てると思うな」
「……なるほど」
ノクターンは小さく頷いた。
お。
納得したか?
「つまり、あなたは私たちが罠を見抜くところまで想定していた、と」
「そうだ」
嘘です。
全然想定していません。
「なら、こちらも試させてもらうわ」
ノクターンの杖の先に、青紫色の光が灯った。
「ルミナ、正面は避けて。ブレイズは右の巨人型を牽制。セラフィは後方維持。私は天井の水晶を落とす」
おお。
まともな指示だ。
俺は感動しかけた。
素晴らしい。
短く、具体的で、役割が明確。
これこそ俺が求めていたものだ。
ルミナが元気よく頷く。
「わかった!」
ブレイズが拳を鳴らす。
「右のやつね!」
セラフィも杖を構えた。
「後方維持、ですね!」
チームが動き出す。
ルミナは真正面を避け、少し斜めから犬型怪人へ踏み込む。
ブレイズは巨人型の注意を引くため、炎を散らさず足元だけを狙う。
セラフィはちゃんと後ろにいる。
俺は内心で拍手しながら、悪役として腕を組んだ。
ノクターンは天井の水晶へ杖を向ける。
あれは広間の罠を制御している魔力中継点だ。
破壊されると結界の一部が乱れる。
目のつけどころも悪くない。
青紫の光弾が放たれ、水晶へ向かって伸びる。
俺は指先を軽く動かし、闇の刃でそれを弾いた。
水晶を全部壊されると、俺の立場がまずいからだ。
罠作戦は失敗させたい。
だが、あからさまに失敗しすぎても困る。
「狙いは悪くない」
つい言ってしまった。
ノクターンが一瞬、目を見開く。
俺は慌てて続ける。
「だが、遅い」
悪役っぽさを足す。
大丈夫。
まだいける。
いける……よな?
ノクターンは唇を引き結んだ。
「なら、速度を上げる」
「え」
次の瞬間、ノクターンは地面を蹴った。
杖を片手に、青紫の光をまとって、前へ。
前へ。
前へ出た。
いや待て。
君は分析担当だろう。
今、後方から水晶を狙う流れだっただろう。
なぜ自分で突っ込む。
ノクターンは低い姿勢で犬型怪人の脇をすり抜け、ルミナのさらに前へ出る。
そのまま壁を蹴り、天井近くへ跳んだ。
動きは鋭い。
身体能力も高い。さすが星彩少女だ。
だが、前に出すぎである。
ノクターンは空中で杖を弓へ変形させ、水晶へ矢を放とうとした。
その背後から、蜘蛛型怪人の糸が伸びる。
危ない。
俺は反射的に叫んだ。
「分析担当が分析結果を共有する前に突撃するな!」
広間に俺の声が響いた。
ノクターンの矢が一瞬ぶれる。
ルミナが叫ぶ。
「ノクターン、後ろ!」
セラフィが盾を飛ばし、糸を防ぐ。
ノクターンは空中で体をひねり、なんとか着地した。
よかった。
無事だ。
だが、同時に終わった。
また完全に素が出た。
俺は額を押さえたくなったが、悪役として踏みとどまった。
ノクターンがこちらを見る。
「今、分析担当って言った」
はい、思わず言いました。
咄嗟に言い訳を考える。
「貴様の浅慮を嘲ったまでだ」
「私の役割を把握している」
「当然だ。貴様ら程度の戦力分析など、造作もない」
「それに、助言の内容が具体的」
はい、思わず具体的な指示が出ました。
咄嗟に言い訳を考える。
「嘲笑だ」
「嘲笑にしては実用的」
「実用的な嘲笑だ」
何だそれは。
言っている自分でも意味がわからない。
ルミナが剣を構えながら、少し笑いをこらえている。
ブレイズは怪人を殴りながら首を傾げる。
「実用的な嘲笑って何?」
「うるさい火力馬鹿」
「今馬鹿って言った!?」
俺は咳払いして、闇の魔力を広げた。
「話が逸れたな」
広間の空気が重くなる。
俺は魔力を床に流し、三体の怪人を下がらせた。
代わりに、俺自身が星彩少女たちの前へ進む。
ここからは俺が相手をした方がいい。
どこで事故が起きるかわからないし。
こっちの策略で犠牲になる部下たちも少し気の毒だ。
悪の組織に気の毒もクソもないが、こいつらはこいつらで忠実に働いてるからな。
それにしても、ノクターン。
分析担当のくせに、負けず嫌いが強すぎる。
原作でも後半はかなり無茶をする子だったが、加入直後からこれか。
「いいだろう。少しだけ相手をしてやる」
俺は右手を上げた。
闇の刃が四本、空中に浮かぶ。
殺傷力は抑える。
だが、威圧感は出す。
軽く追い詰めて、彼女たちの連携を確認する。
……また指導みたいなことを考えているな、俺。
「来い」
俺は告げた。
「その未熟な知恵と光で、俺に届くか試してみるがいい」
ルミナが前に出る。
「みんな、連携で行こう!」
ブレイズが頷く。
「今度は燃やしすぎない!」
セラフィが後方へ下がる。
「私は全体を見ます!」
ノクターンが静かに杖を構える。
「私が動きを読む」
そう。
それでいい。
頼むから、その位置で読んでくれ。
俺は闇の刃を放った。
一本目はルミナへ。
真正面からではなく、少し斜め上から。
彼女が正面突破癖を出すか確認するためだ。
ルミナは一瞬、受け止めようとした。
しかしすぐに横へ跳ぶ。
合格だ。
前回の指摘を覚えている。
二本目はブレイズへ。
広範囲に炎を撒けば簡単に防げる角度。
だが、それをやると味方の足場を潰す。
ブレイズは歯を食いしばり、炎を拳に絞った。
闇の刃を殴り砕く。
問題ない。
次、三本目はセラフィへ。
彼女自身を狙うのではなく、ルミナの退路側へ。
守る対象をどう判断するか見る。
セラフィは自分の前に盾を張りかけ、すぐにルミナの背後へ盾を飛ばした。
良い判断だ。
そして四本目はノクターンへ。
彼女が分析に徹するか、また前に出るか。
ノクターンは目を細めた。
「速度は遅い。角度は誘導。狙いは私じゃない」
おお。
読んだ。
さすが分析担当。
彼女は叫ぶ。
「ルミナ、右下!」
ルミナが反応して右下へ踏み込む。
そこは闇の刃の死角で、俺への接近ルートでもあった。
いいぞ。
今のは本当にいい。
俺は内心で感心した。
その瞬間、ノクターンも一緒に踏み込んだ。
なぜ。
なぜ君も来る。
ルミナの後ろで指示していればいいだろう。
ノクターンは杖を短剣状に変え、ルミナとは逆方向から俺へ迫る。
目は冷静だが、口元にはかすかに悔しさが滲んでいる。
なるほど。
わかった。
この子、冷静ぶっているが、負けず嫌いだ。
分析して終わるのが嫌なのだ。
自分でも結果を出したいタイプだ。
嫌いではない。
むしろ伸びるタイプだ。
ただ、今は危ない。
俺はため息を飲み込み、闇の壁を二枚展開した。
ルミナの剣を一枚で受け止め、ノクターンの短剣をもう一枚で止める。
同時に、足元から闇の糸を伸ばし、二人の動きを封じた。
「くっ……!」
ルミナが歯を食いしばる。
ノクターンも眉を寄せる。
俺は冷たく見下ろした。
「分析は悪くない」
また褒めてしまった。
いや、もうここまで来たら仕方ない。
悪役風に続けよう。
「だが、最後まで見届けずに前に出れば、誰が全体を見る?」
ノクターンの瞳が揺れた。
「……っ」
「貴様は賢いつもりで、結局は感情に足を動かされている。冷静を装うなら、最後まで装え」
ノクターンは、たぶん自分の負けず嫌いを隠している。
分析担当として振る舞うことで、冷静であろうとしている。
けれど、戦闘になると自分で確かめずにはいられない。
それは強みでもあるが、弱点でもある。
ノクターンは悔しそうに唇を噛んだ。
「……敵にそんなこと、言われたくない」
その声は、さっきまでより少しだけ幼かった。
俺は答えない。
答えれば、余計なことを言う。
代わりに、闇の糸をほどいた。
ルミナとノクターンが後ろへ跳ぶ。
ブレイズが炎をまとって飛び込んできた。
「二人から離れろ!」
今度は味方を巻き込まない角度。
悪くない。
俺は片手で炎拳を受け止めた。
「力の向きは良くなった」
「また採点された!?」
「採点ではない。嘲笑だ」
「その嘲笑、点数つけてるでしょ!」
何も言い返せない。
セラフィが後方から光の盾を展開し、ルミナたちの姿勢を支える。
ノクターンが息を整え、今度は前に出ずに声を上げた。
「ブレイズ、離脱。ルミナ、左から。セラフィ、足元を支えて」
三人が反応する。
ブレイズがすぐに下がり、ルミナが斜め左から踏み込む。
セラフィの盾が足場となり、ルミナの加速を助ける。
先ほどより、ずっと動きが良い。
ノクターンが指示に徹しただけで、全体が整い始めている。
俺は内心で頷いた。
そうだ。
君はそこで全体を見る方がいい。
ルミナの剣が俺の肩口へ迫る。
届かない。
俺は半歩だけ引いてかわし、闇の衝撃波で四人まとめて押し返した。
もちろん威力は落としている。
彼女たちは床を滑り、倒れはしたが、すぐに起き上がれる程度だ。
広間に静寂が戻った。
怪人たちは後方で待機している。
罠も停止中。
もう十分だろう。
これ以上続けると、黒天教団側からの監視が怪しむかもしれない。
俺は外套を翻した。
「少し余興が過ぎたな」
ブレイズが叫ぶ。
「またそれ!? 都合が悪くなると帰る気でしょ!」
かなり当たっている。
だが認めない。
「貴様らの未熟さに飽いたと言っている」
ルミナが剣を握りしめる。
「次は、もっと連携してみせる」
セラフィも頷く。
「私も、もっと周りを見ます」
ノクターンは黙って俺を見ていた。
その視線が痛い。
他の三人とは違う。
怒りだけではなく、疑問がある。
違和感がある。
まずい。
分析担当に疑われている。
やがてノクターンは、一歩前に出た。
「ひとつ、聞かせて」
「何だ」
「どうして、本気で私たちを倒さないの?」
空気が止まった。
ルミナたちも、驚いたようにノクターンを見る。
俺は動揺を押し殺した。
ここで返答を誤れば終わりだ。
黒天教団に聞かれている可能性もある。
星彩少女たちに甘いと思われてもまずい。
けれど、本気で殺すと言い切るのも、自分の中で何かが削れる。
俺はゆっくりと口を開いた。
「勘違いするな」
声は冷たく。
視線は鋭く。
悪の幹部として。
「貴様らを絶望させるために、生かしているだけだ」
ノクターンは目を細める。
「絶望させるために、戦い方を教えるの?」
「希望が大きいほど、折れた時の音はよく響く」
最低な台詞だ。
だが、今はそれしか言えない。
ルミナが悔しそうに俺を睨む。
「私たちは折れない」
「なら、証明してみせるがいい」
俺は闇を足元に広げた。
「その時まで、せいぜい賢くなっておけ。特にお前だ、ノクターン」
「私が、何だというの」
「分析担当が先陣を切るな。頭を使う者が熱くなれば、ただの突撃馬鹿より厄介だ」
ノクターンの肩がわずかに揺れた。
ブレイズがむっとする。
「今、私のこと言った?」
「自覚があるなら改めろ、突撃馬鹿」
「なにをー!」
俺はそれ以上返さず、闇に身を沈めた。
視界が黒く染まる。
転移が始まる直前、ノクターンの声が聞こえた。
「……敵なのに、どうしてそんなに的確なの」
答えられない。
答えてはいけない。
だから俺は、悪役らしく最後の言葉だけを残した。
「知りたければ、強くなることだ。星彩少女たちよ」
闇が閉じる。
広間の光が消え、黒天城への帰還路が開く。
今日の作戦も失敗。
少女たちは無事。
罠も大事故にはならなかった。
だが、俺の背中には新しい不安が張り付いていた。
月代ミオ。
星彩少女ノクターン。
彼女は、他の三人よりずっと鋭い。
そしてやっぱり、思ったよりもずっと脳筋だった。
冷静な顔で突っ込むタイプが、一番厄介かもしれない。
頭痛の種が増えるのを感じながら、俺は帰路についた。
――第7話へ続く
※おことわり
本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。




