表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/35

第14話「五人になったら連携が崩壊しました」

人数が増えれば、戦力は増す。

普通はそう考える。


一人より、二人。

二人より、三人。

そして、四人よりも五人。


前衛、火力、防御、分析、撹乱。

今の星彩少女たちの役割は、それだけ見れば理想的な編成だ。


うまく噛み合えば、今まで以上に強敵へ立ち向かうことができる。


そう。

うまく噛み合えば、だ。


「ヴァルグレイ様」


黒天城の執務室で、狼頭の部下が魔導端末を差し出してきた。


「星彩少女どもが五人となったことを踏まえ、次回作戦の素案を作成いたしました」

「ああ」


俺は端末を受け取る。


作戦名は〈五光分断作戦〉。

いかにも悪の組織らしい名前だ。


五人になった星彩少女たちを複数方向から攻め、連携の乱れを突くという作戦。

シンプルといえば、シンプルな作戦だ。


表向きは、分断・殲滅。

実態は、五人体制の連携力チェックである。


もう驚かない。

俺は悪の組織で訓練メニューを組むことに慣れてきてしまった。


「場所は?」

「第十二市街区の立体交差跡を指定しました。地上、高架、地下通路が入り組んでおり、五人の連携を乱すには最適かと」


なるほど。


足場は複雑。

視界は悪い。

上下移動が多い。


シルフィードにとっては走りやすいだろう。

そしてたぶん、走りすぎる。


ルミナはそれを追う。

ブレイズは射線に困る。

セラフィは誰を守ればいいのかわからなくなる。

ノクターンは指示を出す前に全員が別方向へ散る。


……だめだ。

始まる前から崩壊が見える。


「怪人の配置を少し変える」


俺は端末に指を走らせた。

投入する怪人は三体。


一体目は、高架上に配置する猿型怪人。

跳躍力が高く、上から牽制する役。


二体目は、地上に配置する甲殻型怪人。

防御力が高く、ルミナとブレイズを受け止める役。


三体目は、地下通路を移動する蛇型怪人。

後衛を狙うふりをして、セラフィとノクターンの位置取りを試す役。


「攻撃力は抑えろ。特に蛇型は、拘束のみ。毒は抜け」

「はっ。じわじわと後衛の恐怖を煽るためですね」

「そうだ」


違う。

毒は危ないからだ。


「高架の猿型は、シルフィードを釣る。だが、速度は彼女より一段遅くしろ」

「逃げ切れそうで逃げ切れぬ餌として、ですね」

「そうだ」


違う。

追いつけないと単独でさらに突っ込むからだ。


「甲殻型は、正面でルミナを受ける。ただし、ブレイズの火力をまともに受けるな。受け流せ」

「火力の空回りを誘うのですね」

「そうだ」


半分くらいはそうだ。


狼頭の部下は深々と頭を下げた。


「五つの光を個々に揺さぶり、それぞれの未熟を炙り出す。なんと緻密な悪意……!」


悪意ではない。

悪意ではないが、未熟を炙り出すという点はその通りだ。


「では作戦を開始しろ」

「はっ」



第十二市街区の立体交差跡は、さしずめ夜の迷路といった景観だった。


上には崩れかけた高架道路。

下には、使われなくなった車道と地下通路。


俺は高架道路の支柱の上に立ち、下を見下ろしていた。


準備は整った。

やがて、夜空に五つの光が走る。


ルミナ、ブレイズ、セラフィ、ノクターン、シルフィード。

五人の星彩少女が、地上の広い交差点跡へ降り立った。


「黒天教団の反応、ここだね」


ルミナが剣を構える。

ブレイズは周囲を見回して、拳を鳴らした。


「敵、多そうね。いいじゃない、まとめて片付ける!」

「まとめて、は危険です」


セラフィがすぐに言う。


「上下に足場があります。どこから来るかわかりません」


ノクターンはすでに全体を見ていた。


「地上に大型。高架上に高速反応。地下にも一体。三方向から来る」


いい。

いつも通り分析が早い。


これなら――。


「高架のやつが一番速そう!」


シルフィードが目を輝かせた。


あ。


「ちょっと見てくるね!」

「待って」


ノクターンが言うより早く、シルフィードは風になって高架へ駆け上がった。


始まった。

彼女の暴走が。


「シルフィード!」


ルミナが追おうとする。


「待て」


俺が声を掛けると、五人がこちらを見る。

いや、シルフィードだけは見ていない。もう高架の上だ。


「ヴァルグレイ!」


ルミナが俺を見上げて叫ぶ。


「貴様らは五人になっても変わらんな」


俺は闇をまとって支柱から降りる。


「数だけ増えても、動きがばらばらなら独りで戦っているのと変わらん」


ブレイズが眉を吊り上げる。


「ちょっと、出てきて早々にダメ出ししないでよ!」

「ダメ出しではない。事実だ」

「まだ始まったばかりなんだから。ちゃんとそこで見てなさい!」

「なら証明してみせろ」


俺が指を鳴らすと、地上の甲殻型怪人が動き出す。


ルミナが前に出る。

ブレイズも並ぶ。

セラフィは後方へ下がり、ノクターンは地下反応を警戒する。


そこまではいい。

だが、高架上ではシルフィードが猿型怪人を追い回していた。


「こっちこっち!」


猿型怪人が鉄骨を跳ぶ。

シルフィードがそれを追う。


速い。


だが、下の四人と完全に切り離されている。


ルミナは上を気にして、地上の甲殻型への反応が遅れる。

甲殻型の腕が振るわれた。


「ルミナ!」


セラフィが盾を出す。


だが、視線はシルフィードにも向いている。

盾の展開が少し広すぎる。


魔力を使いすぎだ。

ブレイズが炎を放とうとする。


「シルフィード、そこどいて!」


高架上のシルフィードがこちらを振り返る。


「え、私?」

「そこにいたら撃てないって!」


ブレイズが射線を取れず焦っている。

ノクターンは地上と高架と地下を同時に見て、眉を寄せていた。


「情報量が多い。シルフィード、位置報告。ブレイズ、撃つのを一旦止めて。ルミナ、正面を――」


そこで地下から蛇型怪人が飛び出した。


狙いはセラフィ。

ノクターンの指示が中断される。


「セラフィ、足元!」

「はい!」


セラフィが盾を下へ向ける。

その隙に甲殻型がルミナを押し込む。

ブレイズが援護しようとするが、シルフィードが高架から地上へ飛び降りてきた。


「後ろ取った!」

「だからそこ、危ない!」


ブレイズが炎を止める。


火力担当が火を撃てない。

前衛が前ではなく上を見ている。


後衛が防御対象を見失いかけている。

分析担当が処理落ちしかけている。


速度担当はなんか楽しそう。


うーん、だめだこりゃ。

完全に連携が崩壊している。


俺は頭を抱えた。

もちろん内心で、だが。


「戦力が増えたのに、今までよりも手間取ってどうする」


五人が動きを止めてこちらを見る。


「貴様ら、もしかして仲が悪いのか」

「そんなわけないでしょ!」

「ならもう少しちゃんと連携を取れ」

「ぐぬぬ……」


ブレイズが悔しそうに歯噛みする。

ノクターンが手帳を出しかける。


「記録――」

「記録は後だ、ノクターン。今は戦場を見ろ」

「わかった」


素直にしまった。

聞き分けが良くて助かる。


俺は闇を広げ、三体の怪人の動きを一瞬だけ鈍らせた。


「貴様らは互いを見ていない」


俺が低く告げると、五人の視線がこちらに集まる。


「ルミナ。貴様は前衛の要だ。仲間の動きに気を取られて視線を外せば、前線が崩れる」


ルミナが息を呑む。


「ブレイズ。お前は味方の次の位置を予測しろ。撃てぬ炎は、炎ではない。」

「ぐっ」


ブレイズが言葉に詰まる。


「セラフィ。味方全員を守ろうとするな。守るべき場所を選べ。広げすぎた盾は薄くなるだけだ」

「……はい。やってみます」


セラフィが杖を握り直す。


「ノクターン。すべてを一人で処理するな。指示は短く、優先順位を絞れ」

「……了解」


ノクターンが静かに頷く。


「そしてシルフィード」


高架の上で、シルフィードがこちらを見る。


「貴様は速い。だがその速さが、仲間に混乱を与えている」


シルフィードは少しだけ口を尖らせた。


「私、そんなに邪魔してた?」

「していた」


即答した。


「速いことと、役に立つことは違う」


シルフィードの目が少し揺れる。


言いすぎか。

いや、ここは言うべきだ。


「貴様の風は、仲間を置き去りにするためのものか」

「そんなことないよ!」

「ならその風は、仲間を繋ぐ力として使うべきだ」


また助言だが、仕方ない。

今この場で崩壊される方がまずい。


ルミナが剣を握り直した。


「みんな、一回立て直そう」


ブレイズが頷く。


「私は地上。シルフィードが上のやつを引っ張ってくるなら、射線を空けて」

「わかった!」


シルフィードが素直に返事をした。

今度は軽さが少し減っている。


セラフィが足元に小さく盾を展開する。


「私は中央で防御を固めます」


ノクターンが短く指示を出す。


「地上の甲殻型を先に止める。高架の猿型はシルフィードが誘導して。地下の蛇型は私が監視する。ブレイズはルミナの右後方。セラフィは中央固定」


短くて具体的だ。

優先順位もついている。

やはりこの子は飲み込みが早い。


「行くよ!」


ルミナが踏み込む。


今度は上を見ない。

地上の甲殻型に集中する。


ブレイズは右後方から、甲殻型の足元だけを焼く。

火力は抑えられているが、効果的だ。


セラフィは盾を広げすぎない。

ルミナの背中と、ノクターンの足元。

必要な場所だけを守る。


ノクターンは地下の蛇型が動くたび、短く告げる。


「左下。二秒後」

「はい!」


セラフィが盾をずらす。


シルフィードは高架上で猿型怪人を追いかけている。

だが、今度は勝手に奥へ行かない。


「ブレイズ、射線あけるよ!」

「了解!」


シルフィードは猿型を高架の端へ誘導し、直前で進路を変えた。


猿型が飛び出す。

ブレイズの炎が、その着地点を狙う。


「そこ!」


炎が猿型の足を止めた。

ルミナが地上から跳ぶ。


「セラフィ!」

「足場、出します!」


羽根の盾が空中に展開され、ルミナがそれを蹴る。

光の剣が猿型の核を弾いた。

核が回収陣に吸い込まれる。


地下から蛇型が飛び出す。

ノクターンが杖を向ける。


「シルフィード、上から右へ。蛇型を地上へ出して」

「おっけー!」


シルフィードが風となって走る。


今度は一人で追うのではない。

蛇型の進路を切り、地上へ押し出す。


出てきたところを、セラフィの盾が受け止める。


ブレイズが炎を絞り、核を露出させた。

ノクターンの光弾が核を撃つ。


二体目。

残るは甲殻型。


ルミナが真正面に立つ。

だが、突っ込まない。


シルフィードが左へ走り、甲殻型の視線を奪う。

ブレイズが右足を焼き、セラフィがルミナの足場を固定する。

ノクターンが核の位置を示す。


「今!」


ルミナの光が走った。

剣が甲殻型の胸を貫き、核を弾き出す。


黒い煙が広がり、最後の怪人も回収魔法陣へ落ちた。


五人は息を切らしていた。


だが、誰も倒れていない。

誰も孤立していない。


どうにか形にはなった。


「……ふん」


俺は腕を組む。


「最初の無様さに比べれば、少しは見られる戦いになったか」


ブレイズが顔を上げる。


「それ、褒めてる?」

「褒めていない」

「でも、最初よりマシってことでしょ?」

「最初が酷すぎただけだ」


シルフィードが手を挙げる。


「私、最後は置き去りにしてなかった?」

「まだ改善は必要だ。だが、最初よりは良い」


シルフィードの顔がぱっと明るくなる。


「やった」

「喜ぶな。基準が低い」


セラフィがほっとしたように笑う。


「でも、皆さんで動けました」

「油断するな。五人になったことで守る対象が増えた。ただ広げるだけでは守りきれんぞ」

「はい」


ノクターンが手帳を開く。


「内容を整理する。ルミナは前線維持。ブレイズは射線を意識。セラフィは防御選択。ノクターンは優先順位指示。シルフィードは、撹乱と連結」

「連結?」


シルフィードが首を傾げる。


「仲間を置き去りにせず、敵の位置を動かす役」

「おお、なんかかっこいい」


ノクターンがこちらを見る。


「ヴァルグレイ、補足は?」

「こちらに補足を求めるな」

「必要」


必要ではある。

だが、敵に補足を求めるな。


俺は短く息を吐いた。


まぁ総括は必要だろう。

そう言い聞かせて五人を見る。


「ルミナは前線の要だ。後衛のことは信じて託せ。前から目を逸らすな」

「うん」


「ブレイズは火力だ。味方の次の位置を予測し、自分から射線を取りにいけ」

「わかった」


「セラフィは守りだ。だが全部を抱えるな。必要な場所に盾を置く感覚を掴め」

「はい」


「ノクターンは戦場の目だ。全員を動かそうとするな。次に必要な一言だけでいい」

「理解した」


「シルフィードは風だ。勝手に吹き荒れるな。流れを作れ」

「流れを作る……うん、わかった!」


本当にわかったのかは怪しい。

だが、今はそれでいい。


ルミナが俺を見た。

その目が少し柔らかい。


「ありがとう、ヴァルグレイ」

「貴様らがあまりに無様だっただけだ。次はこうはいかんぞ」

「うん。それでも」


彼女は笑った。


「ちゃんと見てくれてたから、言えたんだよね」


またそれだ。


ちゃんと見ている。

その言葉が、最近やけに重い。


俺は闇を足元に広げた。


「今宵はここまでだ」

「えー、もう帰るの?」


シルフィードが言う。


「退屈なものを見せられたのでな」

「でも最後は見られたんでしょ?」

「図に乗るな。まだまだ見るに耐えん」


会話を聞いていたブレイズが笑う。


「シルフィードもヴァルグレイの言い方に慣れてきてる」

「うん。この人はだいたいちょっと悪そうに言うんだね」

「そうそう。あってるあってる」

「合ってない。余計な解釈を入れるな」


ノクターンが手帳に書く。


「ヴァルグレイ語録、五人体制版へ更新」

「更新するな」


セラフィが微笑む。


「次は、もっと皆さんで動けるようにします」

「それはいいが、今日の醜態を忘れるな。ぶっつけ本番ではなくちゃんとよく話し合って動きを決めろ」


俺は闇に身を沈める。


「数が増えれば強くなると思うな。つながらぬ光は、ただ散るだけだ」


闇が閉じる直前、ルミナの声が届いた。


「わかった。次はつなげるよ、私たち」


まっすぐな声だった。

こういうところはまさに主人公って感じだ。


「せいぜい足掻けよ、星彩少女たち」


そんな本音は表に出さず、悪役らしい言葉だけを残しておいた。



黒天城へ戻ると、魔導端末が光った。


差出人はゼルミア。

今回もどこかで戦闘を見ていたのだろうか。


『五人分の役割まで教えてあげるなんて、ずいぶん面倒見がいいねえ。悪の幹部というより、顧問の先生みたいだ』


いつにも増して言い訳が苦しい。


先生ではない。

先生ではないが、今日やったことはほぼ先生だ。


俺は無視を決め込み、端末を伏せた。

ところが、もう一度端末が光った。


またしても差出人はゼルミア。

そしてそこには、さらに厄介な一文が添えられていた。


『そろそろ、君の考えをちゃんとした場で説明してもらいたいな。近いうちに幹部会議を招集するからさ。楽しみにしているよ』


幹部会議。

とうとうこの時が来たか。


俺が星彩少女たちを鍛えるためにやってきた助言や訓練。


言うまでもなく、それを黒天教団の中でそのまま説明するのは無理だ。

だが、これを続けていれば当然幹部たちは疑問に思うだろう。


ヴァルグレイは、なぜ星彩少女たちを始末せず、あのような行為を続けているのか?と。


いずれにせよ、避けては通れない道だ。

悪の幹部として、それなりに筋の通った説明をしなければならない。


俺の悪の幹部としての、もう一つの仕事が始まろうとしていた。



――第15話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ