表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/35

第12話「五人目の魔法少女、速すぎて話を聞かない」

「ヴァルグレイ様」


黒天城の執務室で、狼頭の部下が魔導端末を差し出してくる。


「先ほど、新たな星彩少女の反応が確認されました」

「新たな反応だと?」


俺は端末を受け取った。

映し出されたのは、風をまとった緑色の光。


ビルの屋上から屋上へ、ありえない速度で駆け抜けている。

俺はその光を見て、すぐに思い出した。


星彩少女シルフィード。

風見スズ。


原作『星彩のステラ・マギア』で、五人目に加入する追加戦士だ。

他の四人と同じく星のレガリアに選ばれた、スピード型の星彩少女である。


明るく、軽く、好奇心旺盛。

自分の速さに絶対の自信を持っている。


「……来たか」


俺は低く呟いた。

狼頭の部下が感嘆する。


「おお。ヴァルグレイ様は、すでに新たな光の発現を予見しておられたのですね」

「当然だ」


嘘である。

ただの原作知識である。


しかし、これで星彩少女は五人になる。


ルミナ、ブレイズ、セラフィ、ノクターン。

そこにシルフィードが加わる。


本来なら、戦力増強だ。

だが、彼女たちはようやく四人で連携らしきものが形になり始めた段階である。


そこへ、話を聞かない高速型が入る。

……嫌な予感しかしない。


「次回作戦の場所は?」

「はっ。第九高層区画にて実行予定です」


端末に表示された作戦案を見る。

場所は、建設途中で放棄された高層ビル群。


縦方向の移動が多く、視界は開けているが、油断すれば一気に高度を失う。

そういう地形だ。


シルフィードの戦力を確かめるには、最適だろう。


「投入怪人は?」

「黒翼偵察兵カロウです。攻撃力は低めですが、飛行能力と羽粉による攪乱を得意としております」


攻撃力は低い。

そこだけ聞けば安全そうに見える。


だが、問題は羽粉だ。

カロウの羽から散る黒い粒子は、相手の魔力を乱し、混乱させる。


普通の相手なら、少し足元がふらつく程度。

だが、高速移動中のシルフィードにとっては話が違う。


着地点が半歩ずれる。

進路変更が一拍遅れる。


その僅かな乱れが、致命的になりかねない。


「落下防止結界を三重に張れ」

「三重、でございますか」

「高速移動する獲物を、恐怖で縛るには舞台の安全性が重要だ」

「なるほど……!」


違う。

普通に落ちたら危ないからだ。


「風圧系の罠は使うな。シルフィードの速度と干渉すると制御不能になる。カロウには、致命攻撃は禁止と指示しろ。誘導と攪乱だけでいい」


俺は矢継ぎ早に指示を出し、変更された作戦書に承認印を押した。


作戦名は〈疾風捕縛作戦〉。


捕縛と名はついているが、実態は能力確認と連携課題の洗い出しだ。

黒天教団としても威力偵察が目的なので、珍しく表裏ともに近い作戦になる。


なら今回は簡単な作戦か、というとそう言うわけでもない。

そこがあの追加戦士(シルフィード)の面倒なところだ。



第九高層区画。


計画半ばで開発が中止されたその一帯には、未完成のビルが何本も並び、鉄骨が黒い肋骨のように空へと伸びている。


足場は不安定。

風は強く、視界も十分ではない。


俺は最上層の鉄骨の上に立ち、下を見下ろしていた。

そこへ四つの光が降り立つ。


星彩少女たちだ。


「黒天教団の反応は、この上だね」


ルミナが光の剣を構える。

ブレイズは上を見上げて、顔をしかめた。


「高っ。ここで戦うの? 落ちたら嫌なんだけど」


安心しろ。

落下防止結界は張ってある。


敵としてそんなことは教えられないが。


セラフィは杖を握り、周囲の足場を確認している。


「足元が不安定です。皆さん、無理に跳ばないでくださいね」


偉い。

ノクターンもすでに状況を分析していた。


「敵反応は上層。飛行型。誘導される可能性が高い。高所戦闘では、単独で追わないこと」


その通り。

戦力分析としてはほぼ満点と言っていい。


できればその注意を、これから来る五人目にぜひ聞かせてやってほしい。


そう思っている間に、緑色の風が夜空を切り裂いた。

ほとんど光の線にしか見えない。


それはビルとビルの間を跳ねるように駆け抜け、鳥型怪人カロウの背後へ一瞬で回り込んだ。


「見つけたよ、敵さん!」


軽やかな声。


緑と白の衣装。

風を思わせる短いマント。

薄緑色の髪が、夜風の中でふわりと跳ねる。


星彩少女シルフィード。


彼女は短剣型の魔法具をくるりと回し、カロウへ笑いかけた。


「鬼ごっこなら、私の勝ちだよ!」


そして、そのまま突っ込んだ。


速い。

確かに速い。

だが、速すぎる。


あっという間に一人で突っ込んでいってしまった。

最近の四人が無闇に突っ込まなくなったので、久しぶりの展開に思わず天を仰ぎたくなってしまう。


「えっ、誰!?」


ブレイズが叫ぶ。


「新しい星彩少女?」


セラフィも驚いている。

ノクターンだけが即座に反応した。


「風属性。高機動型。単独先行中」


まぁ、単独先行はしているな。

案の定というべきだが。


カロウは翼を広げ、上空へ逃げる。

シルフィードは笑いながら追った。


「逃げても無駄だよ!」


無駄とかではない。

誘導されていることに気づけ。


カロウは攻撃力こそ低いが、風を乱す羽粉を撒きながら、相手を足場の悪い場所へ連れていく。


シルフィードの速さに対して、これは地味に相性が悪い。


彼女はカロウを追い詰めているように見える。

実際、速度では圧倒している。


だが、その軌道は単純だ。


最短距離。

背後取り。

加速しやすい直線。


自分の速さを信じすぎている者の動き。

絡め取るには格好の獲物だ。


「待って! 一人で行っちゃだめ!」


ルミナが走り出しかける。


「待て、追うな」


俺は思わず声を出した。

四人が一斉にこちらを見る。


しまった。

また普通に止めた。


俺は鉄骨の上から闇をまとって降りる。


「シルフィードめ。速さだけは一人前だな」


ブレイズがこちらを指さす。


「ヴァルグレイ! あんた、あの子のこと知ってるの?」

「黒天教団の情報網を侮るな」


本当は原作知識だけど。


ノクターンがこちらを見る。


「さっき、追うなと言ったのは?」

「お前たちではあの速度について行けん。途中で足を踏み外すのがオチだ」

「助言に分類」

「分類するな」


ルミナは上空を見上げる。


「でも、このままだとあの子が危ない」


危なくしているのは、怪人を放ったこちら側なんだけどな。

特に突っ込まず、俺は答える。


「危ないからこそ、追い方を考えろ。焦って同じ軌道を辿れば、この不安定な足場では自滅するだけだ」


もう完全に助言だ。

自分でもわかる。


だが、シルフィードは上で暴走中である。

そんなことを気にしている場合ではない。


カロウが高層区画の外縁へ向かう。

そこは落下防止結界の境界線だ。


外側は結界が薄く、足を踏み外せば落下の危険がある。


カロウは境界直前で反転するよう指示をしてある。

だが、シルフィードは止まらなかった。


「もうちょっと!」


緑の光が、警告線を越えかける。


「シルフィード、それ以上先に行くな!」


声を飛ばす。

シルフィードが動きを止めてこちらを見た。


「え?」


境界ぎりぎりの位置だ。

それ以上奥へ進まなければ、少なくとも落下の危険はない。


だがその瞬間、突然カロウの目が妖しく光った。


羽根から、まるで蜘蛛の糸のような黒い線が伸びる。

シルフィードの足元を掬ったその糸によって、着地点が半歩ずれる。


「わっ……!?」


彼女は鉄骨を蹴り損ね、外縁へ流されかける。

ルミナが叫ぶ。


「シルフィード!」


俺は思わず舌打ちした。

あの怪人に、そんな術式は仕込んでいない。


「……ゼルミアか」


あの性悪女め、余計なことを。

黒い糸はシルフィードの足首を狙っていた。


攻撃力は低い。

だが、そのまま引き込まれれば結界外へ放り出される。


いくら速く動けるシルフィードといえど、空を飛べるわけではない。

その先には、落下死が待っている。


俺は迷わず闇の鎖を放った。


狙いはカロウ本体ではない。

羽根に絡みついた、ゼルミアの黒い糸。


闇の鎖がそれだけを引き剥がし、空中で握り潰す。

巻きついていた黒い糸が解かれ、シルフィードの足が自由になる。


あと一歩で大事故になるところだった。

いや悪の組織的には大金星だったかもしれないが、俺はそんなこと認めない。


シルフィードは風を立て直し、ぎりぎりで鉄骨に着地した。


だが、カロウはまだ健在だ。

翼を広げ、再び上空へ逃げようとする。


一応、今回はシルフィードの戦力分析が目的だ。


まだ他にもゼルミアが細工している可能性もある。

妙な事態になる前に、引き上げるべきだろう。


俺は闇の鎖でカロウの動きを止め、結界の中に取り込む。


仮面の下でひっそりと安堵の息をつく。

シルフィードも鉄骨の上で息を吐き、それから俺を見た。


「今、私のこと助けた?」

「違う」


即答した。


「俺の作戦に余計な横槍が入った。それを排除しただけだ」

「でも私、あのまま空に放り出されるかと思った」

「今日は貴様の能力を確かめるのが目的だ。落ちれば計測が不完全になる」

「ふーん」


シルフィードはにやりと笑った。


「あなた、私の速さ見えてたんだ」

「当然だ。だから止めた」


シルフィードが目を瞬く。

俺は咳払いする。


「貴様のような単純な風など、読むまでもない」

「へえー」


彼女の目が、猫のように光る。

嫌な予感がする。


「じゃあ、次は見えないくらい速く動くね」

「速く動く前に、まず人の話を聞け」


ブレイズが下から呟いた。


「……なんか、変な子」

「お前が言うな。変な子筆頭め」

「なんでよ!」


セラフィはシルフィードの手を取った。


「無事でよかったです。でも、今のは本当に危なかったですよ」

「うん。ちょっと、風が変だった」


ルミナがちらりと俺を見る。


「……今の、本当にあなたが助けたんじゃないの?」

「違うと言っただろう」

「でも、何か細工を壊してたでしょ。そのくらいはわかるよ」

「少し無粋な邪魔が入っただけだ。そもそも仕掛けたのはこちら側なのを忘れるな」


ルミナはそれ以上言わなかった。

ただ、少しだけ安心したように息を吐いた。


シルフィードは俺の前へ身軽に降り立った。


近い近い。

距離感が近い。


「それで、あなたがヴァルグレイ?」

「そうだ」


名乗った覚えはないので、一応仲間達の会話を聞いていたらしい。

俺は内心嘆息する。


「聞こえていたなら、まず話を聞け」

「聞いてたよ。敵なのにずいぶん細かい人だなって」


シルフィードは楽しそうに笑った。


「面白い人だね」

「面白がるな」

「ねえ、敵さん」

「敵にさんをつけるな」


セラフィにも同じようなことを言った気がする。

だがシルフィードは斜め上の回答を寄越してきた。


「じゃあヴァルくん」

「誰がヴァルくんだ」


妙なあだ名をつけるな。

クラスメートじゃないんだぞ。


彼女は俺の抗議を無視して短剣をくるりと回す。


「私の動き、本当に見えるの?」

「当たり前だ」

「じゃあ、次も捕まえてみてよ」

「敵に鬼ごっこを要求するな」


あんまり懲りていないなこれは。

次の課題が決まった気がした。


俺は闇を足元に広げる。


「今宵はここまでだ」

「えー、もう帰るの?」

「帰るのではない。見逃してやるのだ」


シルフィードが小首を傾げる。


「ヴァルくんって、帰る時も言い訳するんだね」

「言い訳ではない。あとヴァルくんはやめろ」


俺が言うと、彼女は嬉しそうに笑った。


「またね!」


俺は答えなかった。

闇が身体を包む。


去り際に、シルフィードの明るい声が届く。


「次は、私の速さでびっくりさせるから!」


もうびっくりしてるんだよ。

主に話の聞かなさに。



黒天城の自室に戻るなり、俺は椅子に座って深く息を吐いた。


増えた。

また増えた。

しかも、話を聞かないタイプが増えた。


魔導端末には、戦闘記録が届いている。


星彩少女シルフィード。


風属性。

高機動。

単独行動傾向。


味方の声を置き去りにする危険あり。

こちらへの興味、強。


最後の項目はいらない。

消したい。


だが、その前に別の通知が浮かぶ。

差出人はゼルミア。


『君の安心安全な遊び場を少しだけ本物っぽくしてあげたよ。楽しんでくれた?』


俺は端末を握り潰しそうになった。


「余計なことを」


誰もいない部屋に、声が落ちる。

ゼルミアは見ている。


俺の作戦も、俺の安全策も、俺がどこまで踏み込むかも。

今後、あの女の横槍は増えるかもしれない。


面倒だ。

非常に面倒だ。


さらに狼頭の部下から報告が届く。


『新たな星彩少女シルフィード、ヴァルグレイ様への強い関心を示しております。高速型の心理誘導にも成功の兆しあり』

「成功していない」


俺は即座に呟いた。


成功していない。

断じて成功していない。


だが、シルフィードの加入は戦力として大きい。

同時に、連携は一度組み直しだ。


ルミナは追いかける。

ブレイズは射線に困る。

セラフィは守る範囲に迷う。

ノクターンは指示の速度を調整する必要がある。


そしてシルフィード本人は、きっとこう言う。


私、速いから大丈夫。


「……大丈夫じゃないんだよな」


俺は天井を見上げた。


黒い。

相変わらず黒い。

悪の組織の天井は、今日も健康に悪そうだった。


次の課題は、シルフィードを捕まえることではない。

彼女に、速さだけでは仲間を守れないと教えることだ。


まずは話を聞かせないことには、始まらないのだが。


またしても増えた頭痛の種。

俺は机に突っ伏したい衝動を必死に堪えるしかなかった。



――第13話へ続く

※おことわり

本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ