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第11話「俺は敵として、魔法少女たちを強くする」

鎌腕の女幹部――名を『ゼルミア』というらしい。


そのゼルミアから届いた通知。


『次の作戦、私も見学させてもらうよ。希望を育てる手腕とやらを、近くでね』


どう見ても疑われている。


これまで部下たちは、俺の怪しい行動を高尚な策と解釈してくれた。

だが、他の幹部も同じとは限らない。


「……今までのやり方ではまずいな」


俺は黒い机に広げた作戦書を見下ろした。

次回作戦案。


『星彩少女殲滅計画・改訂版』


相変わらず名前が物騒すぎるが、いつも通り手は加えてある。

問題は、今回の作戦には()()()()()()()()()()が存在することだ。


今回の作戦では、俺の配下だけではなくゼルミアの配下も投入される。


幹部の中でも、とりわけ他人の死や苦痛を愉しむ傾向のあるゼルミア。

その配下も同様、残忍で冷酷な連中が取り揃えられている。


ゼルミアが見学する以上、あからさまに安全な内容にはできない。

だが、彼女たちを傷つける内容にもできない。


今からもう既に胃が痛い。

やめようかなこの職場。


「ヴァルグレイ様」


扉の向こうから狼頭の部下の声がした。


胸の辺りに当てていた手をすっと下げて幹部らしい顔を作る。

そもそも仮面なので表情は見えないのだが。


「次回作戦のご確認に参りました」

「入れ」


扉が開き、狼頭の部下が入ってくる。


「おお……今回も、複雑な布陣でございますね」


作戦書を眺めた狼頭の部下が感嘆の息を漏らす。


今回の作戦の肝は、『星彩少女たちとゼルミアの配下を直接対峙させないこと』だ。


ゼルミアの配下は正面戦力から外し、後方監視名目へ。

その代わり、戦場全体の圧力は強くする。

完全な孤立はさせない程度に。


「星彩少女どもを完全には分断せず、互いの姿だけを見せる。届きそうで届かぬ距離に置くことで、焦燥と無力感を煽るのですね」

「……そうだ」


こいつの好意的解釈にも慣れてきた。

だが今は助かる。


「ゼルミア様の配下を後方へ下げることで、彼女には全体を観察させる。あえて手の内を見せ、ヴァルグレイ様の深謀を理解させるため……!」

「まあ、そうだ」


本当は危ない幹部の配下を近づけたくないだけだ。


狼頭の部下は心底感動したように頭を下げた。


「これが、真の殲滅計画……!」


とりあえず納得してくれたらしい。

俺は作戦書の最後に、作戦名を入力した。


『黒星包囲作戦』


禍々しく、それっぽい。

実態は連携訓練・応用編だ。


「承認に回せ」

「はっ」


狼頭の部下が作戦書を持って退室する。

俺は椅子に深く座り込んだ。


ゼルミアが今回は見学と言っている以上、よほど拍子抜けした展開でなければ配下たちは前に出ないはずだ。

だが、その成否は星彩少女たちの連携と判断力にかかっている。


何より、ゼルミア本人が気まぐれに彼女たちに襲いかかったりしないか。

それが一番の気がかりだった。



旧貨物駅跡は、月明かりに青白く沈んでいた。


障害物は多く、見通しの悪い場所もある。

今まで以上に、連携力と判断力が試される地形だ。


周囲には三種の怪人。


車輪型怪人が一体。

腕長の怪人が一体。

小型怪人が三体。


配置できる怪人の数は戦場に展開できる魔力の総量によって決まる。

今回は、一応可能な限りの魔力を使って配置しているように見えるはずだ。


そして、遠くの高架上にはゼルミアがいる。

鎌腕の女幹部は、こちらを見下ろして楽しそうに笑っていた。


「さて、お手並み拝見といこうか。ヴァルグレイ」


俺は返事をせず、戦場に目を向ける。


やがて、夜空に四つの光が走った。

星彩少女たちだ。


「来たか、星彩少女たち」


俺は低く言った。


「貴様らの顔も見飽きたところだ。今宵はせいぜい助け合って足掻いてみせることだな」


意訳すると、『ちゃんと連携を取って戦え』だ。


だがゼルミアが見ている以上、悪役らしさ全開で言わないと危険すぎる。

実にやりづらい。


ブレイズが首を傾げる。


「……なんかいつもより悪役っぽくない?」

「だからいつも悪だと言っているだろう!」


いきなり台無しにするな!

後ろでめんどくさい奴が見てるんだぞ!


……とは言えるわけもなく、務めて冷静な悪の幹部感を出す。

手遅れな気がしなくもないが、やるしかないのだ。


「ブレイズ、油断しないで。今日はいつもと少し配置が違う」


既に分析を始めていたノクターンがブレイズを嗜める。

いいぞ、その調子で頼む。


「その油断が命取りになるのだ。失望させてくれるなよ」

「あんたに言われなくたって、やってやるわよ!」

「では、証明してみせるが良い」


よし、何とか持ち直した。

俺が指を鳴らすと同時に、怪人たちが動き出す。


車輪型が線路の上を走り、ルミナとブレイズの間を裂く。

腕長の怪人がコンテナの上からセラフィを狙う。

影の小型怪人たちがノクターンの足元へ回り込む。


四人の分断を狙った展開だ。

星彩少女たちは各自回避しつつ、互いに目を合わせる。


その一瞬で、ルミナが叫ぶ。


「ノクターン!」

「焦らないで。距離は離れてない。声は届く」


ノクターンが即座に答える。


「ルミナは車輪型を引きつけて。ブレイズは側面からルミナの援護。セラフィはまず自分の守りを固めて。私は小型を牽制する」

「わかった!」


ルミナが車輪型へ向かう。


ただし、正面からの突撃ではない。

車輪型の側面を取るように動きつつ、自分の方へ引き寄せていく。


ブレイズはルミナに向かう車輪型に拳を向ける。


「ほらほら、よそ見してると火傷するよ!」


炎を一点に絞り、車輪型の側面を狙う。

火力と狙いをコントロールする術をきちんと身につけているのが分かる。


セラフィは腕長怪人の攻撃を盾で受ける。

今までの怪人より重い攻撃のはずだが、立ち位置は崩さない。


「そのくらいでは、私は倒れません!」


ノクターンは自分の足元に迫る影に牽制の矢を放ちつつ、全体指示を続ける。


「ブレイズ、ルミナと離れすぎないで。ルミナは追いすぎない。セラフィ、左にもう一枚!」


連携が、ちゃんと形になっている。

良い動きだ。


ゼルミアの視線が背中に刺さる。

ここでうっかり褒めるわけにはいかない。


俺はあえて冷たく言った。


「その程度か」


ルミナがこちらを見た。


「まだ!」


車輪型怪人が速度を上げる。

ルミナは後ろへ逃げるのではなく、横へ跳んだ。

ブレイズの炎が車輪型の進路を塞ぐ。


ノクターンが叫ぶ。


「ルミナ、側面から核を狙って!」


側面に回り込んだルミナの剣が、車輪型の魔力核をかすめた。

車輪型怪人が大きくよろめく。


いい。

あと一歩だ。


だが、ここで終わらせるわけにはいかない。

ゼルミアが見ている。


俺は闇の魔力を放ち、車輪型怪人を無理やり立て直させた。

星彩少女たちの表情が引き締まる。


「油断したな」


背後のゼルミアが薄気味悪く笑ったような気がした。


「たかが一撃当てた程度で勝利を確信する。だから貴様らは甘い」


ブレイズが悔しそうに歯を食いしばる。


「まだ終わってないってことね」

「そうだ」


俺は右手を上げる。


「戦場では、倒したと思った瞬間こそ危うい。そこで気を抜くのは未熟な証拠だ」


ほぼ助言だが、悪役風に包めていればセーフだ。

セーフ……だよな?


ルミナが剣を構え直す。


「みんな、もう一回来るよ!」


四人が再び動く。

まだ戦況は予断を許さない。


ここでルミナとブレイズが車輪型に手間取れば、いずれセラフィが限界を迎える。

セラフィが崩れれば、次はノクターン。

最後にルミナとブレイズが囲まれて、全滅に至る。


ここが勝負どころだ。

見せてくれ、星彩少女たちの連携と力を。


そして、四人の動きが重なった。

ブレイズの炎に動きを止められた車輪型の魔力核に、ルミナの剣が突き刺さる。


一体目、車輪型を撃破。

黒い煙が夜空へ散り、露出した核をこちらに引き寄せる。


ブレイズが叫ぶ。


「次!」


後方、コンテナ付近では腕長の怪人がセラフィに攻撃を続けていた。

光の盾に亀裂が入り始めていたが、セラフィは冷静だった。


前に出過ぎず、押し切られず。

自分が倒れる前に仲間が来ることを確信した守り方だ。


飛び込んできたブレイズが炎で腕を押し返し、ルミナが背後から間合いを詰める。

ノクターンが短く告げる。


「左肩。そこが薄い」

「わかった!」


すかさずルミナの剣が一閃し、腕長の怪人が崩れ落ちる。


二体目。


影の小型怪人がノクターンの背後に回る。

ノクターンは振り返らない。


「セラフィ」

「はい!」


セラフィの盾が、ノクターンの背後に展開される。

小型怪人が弾かれ、ブレイズの炎に追い込まれる。


ルミナが最後に剣を振る。

小型怪人たちはあっという間に黒い煙となって消えた。


静寂。

旧貨物駅跡に、星彩少女たちの息遣いだけが響く。


四人は傷ついていない。

疲れてはいるが、立っている。


連携で、崩れずに、勝った。

俺は、仮面の下で目を細めた。


大丈夫。

彼女たちは、ちゃんと戦えていた。


俺がそう思った瞬間、高架上から拍手の音が響いた。


「お見事だねえ」


ゼルミアだった。

彼女は鎌腕を揺らしながら、楽しそうに笑っている。

後方には、ゼルミア配下の怪人たちが控えている。


「星彩少女ども、本当に強くなっている。なるほど、ヴァルグレイの言う“希望を育てる”っていうのは、こういうことか」


星彩少女たちが身構える。

ゼルミアの気配は、俺の用意した怪人たちとは違う。


本物の悪意。

いたぶることを楽しむ類の敵だ。


俺は一歩前に出た。


「ゼルミア、手出しは無用だ」

「おや、怖い顔だ。別に邪魔はしないさ。今日は見学だと言っただろう?」


彼女は笑う。


「ただ、少し興味が湧いただけだよ。その子たちが折れる時、どんな音がするのか」


ルミナが剣を握りしめる。


「私たちは折れない」

「……へえ」


ゼルミアが目を細める。


「そう言われると、ちょっと試してみたくなっちゃうな」


ゼルミナの目が妖しく光った。


同時に、おぞましい魔力が周囲を包み込む。

先ほど倒した怪人たちとは比べ物にならない力だ。


星彩少女たちが僅かに怯えた様子を見せる。


まずい流れだ。

俺はゼルミアの魔力を打ち消すように、闇の魔力を広げた。


「手出しは無用といったはずだ」


声は自然と低くなっていた。

ゼルミアが俺を見る。


「命令かい?」

「今回の作戦の指揮権は俺にあるはずだ。余計なことをするな」

「ふふ。そうだったね」


彼女は肩をすくめる。


「それじゃ、今日は引こうかな」


ゼルミアがそう言うと、まるで幻覚だったかのように周囲の魔力が薄れる。


「けれどヴァルグレイ、気をつけることだ。希望を育てすぎると、刈る前に怪我をするよ」

「言われるまでもない」

「本当に? なら良いけど」


ゼルミアは意味ありげに笑い、配下と共に闇の中へ消えた。


星彩少女たちはまだ警戒している。

俺も、背中に冷たい汗を感じていた。


今のは、少し危なかった。


「……ヴァルグレイ」


ルミナの声がした。


俺は振り返る。

彼女は俺を見ていた。


「今、私たちを守った?」


相変わらず、問いが真っ直ぐすぎる。


ゼルミアはもうこの場にいない。

だが、だからと言って『はいそうです』と答えるわけにはいかない。


俺は冷たく笑う。


「勘違いするな。獲物を横取りされるのが不快だっただけだ」

「……そっか」


ルミナは納得していない顔だった。

ブレイズも腕を組む。


「悪役っぽい言い訳ね」

「悪だと言っているだろう」

「でも、助かったのは事実だし」

「助けていない」


セラフィが柔らかく言う。


「それでも、ありがとうございます」

「礼を言うな」


ノクターンは俺をじっと見ている。


「あなたは、黒天教団の幹部。でも、あのゼルミアとは違う」

「同じだ」

「違う」


彼女の声は静かだが、確信があった。


まずい。

これ以上話すのは危険だ。


俺は闇を足元に広げた。


「今宵はここまでだ」

「待って」


ルミナが一歩前に出る。


何かを聞きたいような、迷っているような。

そんな顔をしている。


「……ねぇ、ヴァルグレイ」

「何だ」

「あなたは、戦っていない時もそんな顔なの?」


予想外の質問だった。

俺は一瞬、返答に詰まった。


「……何?」

「いつも怖い顔をしてる。でも、時々、違う顔をしてる気がする」


やめろ。

踏み込むな。


そこは敵に聞く領域ではない。

ブレイズが横から首を突っ込む。


「え、何それ。ルミナ、あんた敵のオフの顔が気になるの?」

「えっ? そ、そういう意味じゃなくて!」


ルミナが慌てて手を振る。


オフの顔ってなんだ。

芸能人じゃないんだぞ。


「でも、少しわかります。ヴァルグレイさん、怖い時と、心配しているように見える時があります」

「敵を心配性扱いするな」


ノクターンが静かに言う。


「表情変化は観察対象」

「対象にするな」


俺は悪の幹部だ。

敵だ。


少なくとも、戦闘後に素顔の雰囲気を聞かれる存在ではない。

俺はもう一度闇を足元に広げ直した。


「俺の顔色なぞどうでもいい。俺を倒せないようでは、この先の絶望には勝てない」


四人の表情が変わった。

それは、喜びではなかった。


ただの反発でもない。

何かを受け取ったような顔だった。


ルミナが剣を握る。


「うん。強くなる」


ブレイズが炎を灯す。


「次は、もっと届かせる」


セラフィが頷く。


「倒れずに、みんなを守ります」


ノクターンが静かに言う。


「あなたの言葉、覚えておく」


最後までそれか。

俺は内心溜息をつき、闇に身を沈めた。


去り際、ルミナの声が届く。


「ヴァルグレイ!」


いつものように、俺は振り返らない。


「私たちのこと、見てて。きっと強くなるから!」


どう聞いても敵に言う言葉ではない。

だがその言葉を聞いて、俺は仮面の下で少しだけ笑った。


勝て。

俺を踏み越えていけ。

この先の絶望に、負けないために。



黒天城へ戻った俺は、椅子に座り込んで仮面を外した。

銀の仮面が机の上に音を立てて置かれる。


鏡に映るのは、ヴァルグレイの顔。


冷たい銀髪。

白い肌。

悪役そのものの目。


だが、中身はただの人間。

黒瀬悠真だ。


いくらヴァルグレイの姿をしていると言っても、彼女たちの力や技そのものを強化してやることはできない。


できることといえば、彼女たちの個性を生かした戦い方や連携への助言くらいだ。

だが、恐らくそれは今の彼女たちに必要な力だ。


いずれ来るさらなる脅威に立ち向かうためには、チームとしての連携力を高めなければ太刀打ちできない。


ならば、俺がやるべきことは一つ。

いずれは倒される悪として、彼女たちを鍛える。


たとえ悪役の仮面を被ったままでも。

たとえ誰にも本心を言えなくても。


「……強くなってくれよ。星彩少女たち」


俺は机の上の仮面を手に取った。


冷たい銀の感触。

悪役の顔。

それを、もう一度自分に重ねる。


「強くなって、この先の絶望に打ち勝ってくれ」


その時、扉の外から狼頭の部下の声がした。


「ヴァルグレイ様、次回の作戦名はいかがいたしましょう」


俺は少し沈黙した。

せっかくシリアスに締めようとしていたのに、黒天教団の事務処理は空気を読まない。


だが、これはこれで俺の日常だ。

悪の幹部としての。


俺は仮面越しに、低く告げた。


「……希望粉砕作戦だ」


扉の向こうで、狼頭の部下が息を呑む。


「なんと禍々しい……!」


俺は小さく息を吐いた。

本当は、連携訓練メニュー初級編・改なのだが。


もちろん、それは誰にも言わない。

悪役の仮面を被り直し、俺は次の作戦書へペンを走らせた。



第一章 了

※おことわり

本作品は、設定の整理や本文草稿の作成補助・推敲に生成AI(ChatGPT等)を使用しています。使用用途・範囲の詳細については、作品概要ページをご確認ください。

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