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6話

 


 酒場『デレイル』の入り口からは、闇を切り裂くような灯りと、地響きのような男たちの怒号が溢れ出していた。


 この街、アイアン・ジャンクションにおいて、ここはもっとも熱い場所だ。男たちを惹きつけるのは、胃袋を掴んで離さない名物のブラウンシチュー。そしてもう一つ、荒くれ者たちを鮮やかにあしらう看板娘、カサンドラ――通称キャスの存在である。


 鉄道工事でたっぷりと汗を流し、煤にまみれた労働者たちが、今夜もジョッキを片手に騒いでいた。しかし、その喧騒がぴたりと止む。


 一人の人物が、酒場の扉を開いたからだ。


 身長190cmを超える圧倒的な長身。仕立てのいい真新しい司祭服の上からでも、その下に強靭な筋肉が詰まっていることが容易に察せられる。百を超える視線が、毒針のように突き刺さる。だが、銀治は身じろぎ一つせず、ただ静然とそこに立っていた。


「あー! やっと来た! 何してたのよ、司祭様!」


 静寂を切り裂いたのは、両手に重そうなジョッキを抱えたキャスの、よく通る声だった。


「遅くなってしまったな」

「いいから! リリムちゃんが待ちくたびれてるんだから、さっさと奥の特別室に行ってあげて」

「ああ」


 銀治が歩き出すと、モーゼが海を割るように男たちが道を空けた。彼が部屋の奥へと消えてようやく、客たちは忘れていた呼吸を再開したかのように騒ぎ始めた。


 銀治という男は、別に何をするわけでもない。ただそこに居るだけで人の視線を集め、空気を支配してしまう――そんな異質な特性を持っていた。


 店内で唯一、喧騒を遮断できる個室『特別室』。銀治がその重い扉を開くと、そこには見違えるような姿のリリムがいた。


 キャスが選んだのは、ひらひらしたドレスではなく、動きやすさを重視した厚手のコットンのジャケットと、膝下丈の機能的なパンツスタイルだった。


 濃い茶色の革ベルトが細い腰をしっかりと引き締め、足元には頑丈な編み上げのブーツ。少女らしい愛らしさは残しつつも、どこか凛とした、小さな騎士のような佇まい。


 目が合った途端、リリムは新しい服の感触を確かめるように、少し照れくさそうに裾を握って俯いた。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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