5話
「ごちそうさまでした」
「…………」
銀治とリリムが揃って手を合わせる。その所作があまりに自然で、そしてこの鉄と泥の街には不釣り合いなほど品位に満ちていたため、キャスは持っていた布巾を止めて目を丸くした。
「美味かった。君の腕と、このシチューに宿った活力に感謝を」
「……やっぱり司祭様ともなると、お行儀が良いのね。うちに来る客なんて、皿を舐めるか放り出すかだっていうのに。そんな言葉、言われたためしがないわ」
キャスは感心した顔で、綺麗に平らげられた皿を見つめた。
料理人として、これほど気持ちの良い食べっぷりはない。彼女は満足そうに顎を引くと、リリムの姿を上から下まで、品定めするように眺めてから口を開いた。
「一つ、言わせてもらってもいいかしら?」
「何かな?」
銀治が穏やかに問いかける。
「そのリリムさんの服装だけど……。もう少しちゃんとしたものを買い与えてあげた方が良いんじゃないの? そのボロ布じゃ、せっかくの可愛い顔が台なしよ。それに、この街の夜風は案外冷え込むんだから」
「確かにその通りだ。というよりも、元からそのつもりだった。この街で服を買うのに良い店を知っていたら教えて欲しい」
「それだったら任せて! 行きつけの……そうね、丈夫で仕立ての良い店を知っているわ。いえ、せっかくだから私が一緒に買いに行ってあげてもいいわよ。男の人に女の子の服を選ばせると、ろくなことにならないもの」
キャスは楽しげにウィンクしてみせた。銀治は隣に座る少女を振り返る。
「おお! それは名案だ。リリムはどう思う?」
「…………」
リリムは無言のまま、しかし確かな意志を持って小さく頷いた。その瞳には、ほんの少しだけ期待の光が宿っているように見える。
「嬉しい、そうか。それなら決まりだ。無料でそこまでサービスしてくれるとは、この店はずいぶんと素晴らしい店員を雇っている。店主の顔が見てみたいものだよ」
銀治は「無料」という言葉を強めに発した。
「ふふ、ずいぶんとしっかりした司祭様ね。……本当なら追加で銀貨を何枚か貰いたいところだけど、服を買うのは私の趣味みたいなものだから、それで構わないわ」
キャスはそう言うと、手早くエプロンを脱ぎ捨てた。看板娘の顔から、一人の世話焼きな大人の女性の顔に変わる。
「選ぶのは無料でやってあげるけど、服を買うお金はちゃんと出してよ?」
「もちろんだ!」
銀治は懐から金貨を取り出していった。
「へぇ、金貨なんて奮発したわね」
金色の光りを見てキャスの表情がぱっと輝いた。
「それじゃあ、ゆっくりと選んできてくれ」
「え?司祭様は一緒に来てくれないの?」
「………」
二人の女性の視線が銀治に集まる。
「私には分かる!君に任せておけば大丈夫だ」
「ねえ……私思うんだけど、男って何故か知らないけど買い物に付いて来るのを嫌がるわよね?」
「私は少しばかりこの街を歩いてくるとしよう。しばらくしたら、またこの店で待ち合わせということでいいかな?」
「仕方ないわね……最高に素敵な服を選んで見せるから期待してなさい、司祭様」
キャスは心底嬉しそうに微笑んだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。




