15話
ウィリアム男爵との会合を終え、リリムの待つ控室へと戻ってきた銀治は、黒い鞘に収まった刀を誇らしげに掲げて見せた。
「………」
銀治はリリムの問いに答える。
「これはな、ダンジョンの深部で発見された『魔武器』だ。どうだ、格好いいだろう?」
リリムは小さく頷いた。彼女は人前で声を発することを極端に恥ずかしがるため、口を開くことはない。だが、銀治には不思議と彼女の言いたいことが伝わっていた。
「………」
「ほう、声が聞こえるか。……察しがいいな、これはただの武器ではないのだ」
銀治がゆっくりと鞘を引き抜くと、そこには闇を吸い込んだような、禍々しい黒い刀身が現れた。
「私がポーカーに興じている時に聞いた話ではな……」
不安げな表情を浮かべるリリムに、銀治はベテラン教師のように語り始める。
魔武器とは、悪魔の魂が宿っていると言われる禁忌の武装だ。一度も剣を握ったことのない子供でさえ、手にした瞬間に大木を切り倒すほどの威力を発揮する。だが、その力には必ず代償が伴う。人格が攻撃的に変貌し、憑かれたように戦いの中に身を投じ、やがて命を落とす。
その危険性は誰もが知るところだが、それでも圧倒的な力を求める人々は後を絶たず、闇市場では天文学的な高値で取引されているのが現状だった。
「リリム、お前が今聞いているのは、この内に潜む悪魔の声だ。……それにしても、実に面白い。今、こいつは私の精神を乗っ取ろうと必死に足掻いているぞ」
刀身からドロリとした黒い靄が発生し、銀治の腕を、そして体ごと包み込もうと這い上がってくる。リリムが悲鳴にならない悲鳴を上げ、身を乗り出した。
「案ずるな。……この程度の雑魚に侵されるほど、私の精神は惰弱ではない」
銀治の言葉に反応したのか、刀身が激しく震え出し、木枯らしのような不気味な鳴き声を上げ始めた。
「これ以上、調子に乗らせるのも面白くない。この刀に憑りついた悪魔とやらを、今ここで滅してやろうではないか」
銀治の顔から笑みが消えた。代わりに、全てを射抜くような冷徹な眼光が宿る。
「――破ッ!!」
豪奢な控室のシャンデリアが激しく振動するほどの、重低音の怒号。直後、パリンと何かが割れるような硬質な音が室内に響き渡った。
砕け散ったのは、メッキのように刀身を覆っていた「黒」だ。
木っ端微塵に砕けた黒い膜は、断末魔のような甲高い悲鳴を上げながら、地面に触れる前に蒸気となって霧散した。
後に残ったのは、一点の曇りもない白銀の刀身。
「……さあリリム。そろそろお前にも獲物が必要だと思っていたところだ。これを授けよう。思う存分、戦ってくれ」
銀治が差し出した白銀の刀に、リリムはしばらく躊躇していたが、やがて覚悟を決めたようにゆっくりと手を伸ばした。
彼女がその柄を握った瞬間、リリムの灰色の髪が、見えない波動に吹かれたようにふわっと逆立った。
「………」
「気に入ったのなら良かった……リリムなら使いこなせるさ」
リリムは、宝物を手に入れた子供のような、純粋な歓喜の表情を浮かべて深く頷いた。
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