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13話

 

 ウィリアム男爵は、深い溜息をついた。その表情から先ほどまでの激昂は消え、代わりに冷淡な拒絶が顔を出した。


「……どうやら、これ以上あなたと話しても無駄なようだ。話は終わりです。出て行ってください」


 男爵は覚め切った顔をして、どっかりと豪奢な椅子に腰を下ろした。もはや銀治を、利用価値のない「聞き分けの悪い客」として切り捨てたのだ。だが、銀治は動かなかった。


「どうしたのですか?」


 ウィリアム男爵は訝しげに眉を寄せたが、銀治は微動だにせず、重みのある声で言い放った。


「こちらの話は、まだ終わっていません。男爵、その刀を私に寄進しなさい」


「寄進……!? 正気ですか、あなたは何を言っている」


「その刀は、確実にあなたの心身を蝕んでいると言ったはずだ」


 男爵は呆れたように鼻で笑い、頭の悪い生徒を諭すような目で銀治を見た。


「いいですか、もう一度言いますよ。私の周りは敵だらけだ。いつ命を狙われてもおかしくない。そんな状況で、この刀があれば剣術の経験がない私でも大木を一刀両断にできる。これは私の命を守る唯一の盾なのだ。寄進? 欲しければ自分で買えばいい。……もっとも、司祭様の稼ぎで買えるような端金はしたがねではありませんがね」


 男爵がそう言い終えた、その刹那。

 彼の首筋に、凍りつくような冷たい感触が押し当てられていた。


 重厚な机を挟んで数メートル先にいたはずの銀治が、今は触れ合うほどの距離に立っている。


「は……っ、まさか……。私を殺す気か……! やはり、エドガーの刺客だったのか……っ」


 男爵の額から滝のような脂汗が噴き出した。銀治の瞳は、至近距離で男爵を冷酷に射抜いている。


「いくら大木を斬り倒せる力があっても、喉を裂かれたらお終いだ。そうは思いませんか?」


「ぐ……っ、ああ……」


「その刀を手に入れて、自分が強くなったと錯覚しているようですが……見当違いだ。戦闘を多少なりとも囓った人間から見れば、今のあなたは隙だらけだ」


「か、金なら払う! 金庫に十億あるんだ、それを全部やる! だからやめてくれ、殺さないでくれ、頼む……!」


「あなたがスパイと罵るエドガー殿。彼の動きを見ればわかる。相当の武術の使い手だ。彼から見れば、あなたは『いつでも殺せる羽虫』に過ぎないのですよ」


「頼む……殺さないでくれ……っ!」


 男爵の鼻先から落ちた大粒の汗が、自身の靴先を濡らした。


「――はなから、殺すつもりなどありませんよ」


 首筋から鋭い感触が消えた。銀治が机の上に放り出したものは、男爵が想像していた刃物ではなかった。


「フォーク……!?」


「先ほど控室でフルーツを食べた際に、こっそりポケットに入れておいたのです」


「い、いったいどうしてこんな真似を……」


 死の恐怖から解放され、男爵は崩れるように椅子へへたり込んだ。


「警告ですよ。この刀はあなたの身を守る盾ではない。あなたを慢心させ、死へ近づける毒でしかない。……もう二度と勘違いしないために、それを私に寄進しなさい。身を守る術は、別の方法を考えた方が賢明だ」


「うう……っ。……悔しいが、あなたの言う通りかもしれない。……しかし……」


 恐怖を刻み込まれてなお、男爵はまだ執着の残る目で黒い刀を見つめ、決心がつかずにいた。


「地獄に落ちるぞ!!」


「ひえっ!!?」


 銀治が放った雷鳴のような怒声に、ウィリアム男爵は仰け反りすぎて椅子から無様に転げ落ちた。





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