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駆け巡る青春は稲妻のように  作者: 一二三楓


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7/11

妙見結真です

 実に兎萌らしい自己紹介だった。


 甘くとろけるキャラメルのような可愛さにクラスの皆は、もうメロメロ。


 兎萌は恥ずかしがって、あまり話したがらないが、中学時代には月イチくらいで告白されていた。

 それを聞かされたときの雷に撃たれたような衝撃はいまだに忘れられない。


 (やべっ、思い出したらちょっと涎出た……)


 結真は慌てて口許を拭った。

 告白された経験は幾度もある。

 璃羅も同じだ。


 兎萌には人に好かれる才能があるのだろう。

 でも、そのモテ具合はちょっと心配になることがある。

 兎萌はどちらかというと異性のことが苦手だし、恋愛に積極的でもない。

 自分に向けられる異性からの視線に辟易していたり、同性から陰口を浴びせられることも。


 私も晴信たちと話してるだけでビッチ扱いされることあるわ、と結真は遠い目で天井の染みを見つめていた。

 天井の染みを数えて遊んでいる間に、何人かの自己紹介が過ぎ去っていった。


 「やばッ」と小さく呟いて、結真が意識を取り戻した。

 それは、ちょうど音恋が弾かれるように立ち上がった瞬間だった。

 

 「あっ、えー」


 汗で湿った手を開いたり、閉じたりしながら考える。

 何か言わなければ。

 音恋の頭の中で浮かんでは消えていく言葉たち。

 

 「あっ、豊雛音恋っていいます。高校からの入学なんで、知り合いもあんまいなくて、今めっちゃ緊張してて……」


 そこで音恋は黙り込んだ。

 しかし、それを責める人は誰一人いない。

 ただ静かに見守るだけ。


 「豊雛さん、ガンバレー。ゆっくりで大丈夫だよ」


 きっと周りの子を応援する柔心の姿を眺めていたからだろう。

 結真の口からは自然と、励ましの言葉がこぼれていた。

 結真自身が一番びっくりしている。

 

 でも、向こうも同じくらい目を真ん丸にしている。なんでだろう。


 「あっありがとう。うちはずっとダンスしてて、高校でもダンス部に入ろうと思ってます。身体を動かすのが好きです……よろしく……」


 最後は少ししりすぼみになりながらも音恋はやり遂げ、席に座ると急いで結真に頭を下げた。


 「ありがとう」と「ごめんね」の気持ちを込めて。

 朝、あんなに結真のことを目の敵にしてた自分が恥ずかしい。

 

 今の自分と同じように、顔を赤くしながら結真が手を振ってくれた。



 ◇◇◇



 柄にもないことをしてしまった。


 パタパタと手で顔を扇ぎながら、結真はそう思っていた。

 親友たちがチラチラとこちらを盗み見て、ニヤニヤしている。

 さらに、柔心と豊島先生まで。

 

 (璃羅たちには、きっと揶揄われそうだなぁ。そん時は、まず晴信には腹パンだな) 


 結真はそう決意を固めた。


 豊雛、波野なみの南郷なんごうときて、次は璃羅の番。結真の順番も近づいてきている。


 「二本松璃羅にほんまつりらです。陸上をやってます。好きなことは……ランニング。ハイキング。アウトドアに興味があるかなー。漫画の影響で。気軽にりらって名前で呼んでください。よろしく」


 「二本松さん、アクティブなんだぁ」と女の子たちは好意的に受け取っていたが、璃羅がアウトドアを好きになったのは、春休みのことだ。

 休みの間に、八王子の高尾山や千葉の鋸山をひとりで登ったり、お父さんを引っ張り出して、キャンプをしてきたらしい。

 漫画に影響されたからって、本格的な趣味にするまでが早すぎる。


 こないだは『今度、一緒に筑波山に登るから準備しといて』と璃羅からメッセージが来て、運動が苦手な兎萌は獅子に睨まれた兎みたいに戦々恐々としていた。

 

 璃羅はアクティブオバケだ。

 外に出るのが好き。

 計画するのも好き。

 街歩きも好き。

 予定を立てないのも好き、ときている。


 きっと、そのうち「富士山に登ろう」とか言い出すに違いない。

 「エベレストには付き合えない」とちゃんと伝えなければならない。


 「───さん、妙見さん」

 「あっ、はい」

 「妙見さんの番だよ」


 後ろの席の子が結真の肩を叩いた。

 周りを見渡せば、クラス中の視線が結真に集まっていた。


 「いやぁ、ぼーっとしてて。みんなも熱い視線をありがとう───」


 真面目に聞いていなかったのが気まずい。

 何とか誤魔化そうとちょっとふざけたら、みんなは笑ってくれたのに先生は笑っていない。


 「妙見さん、寝てた?」なんて、言い出して首を傾げていた。

 「寝てませんてぇ。みんなの名前とか覚えてるのに必死で、つい……」

 「ほとんど中等部からの付き合いでしょ。春休みボケで、記憶喪失かぁ?」

 「そんなぁ先生、酷いよ〜」


 結真が大袈裟に肩を落としてみせると、教室中が盛大な笑いに包まれた。


 つられて先生も「ちょっとからかいすぎちゃった」と喉を鳴らした。

 

 「じゃあ改めてね、妙見さん。自己紹介をしてください」


 皆に知ってもらうという意味では、もう自己紹介を済ませたも同然だが、結真は「改めてまして」と口を開いた。


 「中学からの人は春休みぶり、高校からの人は初めまして。妙見結真みょうけんゆまといいます。趣味はカフェ巡りとアクセサリー集めです。よろしくお願いしまーす。あと、居眠りは趣味ではないでーす」


 そう言って締めくくると、もう一度教室に笑い声がこだました。

 くすぐったい気持ちになり、頬を掻きながら結真はそっと腰を下ろした。


 先生に弄られるのは予想外だった。

 日が頂点に近づく、春の教室。

 影一つない晴天の陽気。

 1年D組の教室の中の窓際は、少し暑いくらいだった。


読んでくれてありがとう。

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