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駆け巡る青春は稲妻のように  作者: 一二三楓


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3/11

高校生の始まり、お姉さんの悪戯

建国記念日かぁ


 買ったばかりの傷一つない腕時計の針は7時半を指していた。

 せっかく早起きしたのに、もうこんな時間。

 朝から千種と盛り上がってしまったせいだ。


 結真はそっと息を吐いて肺を空にする。そして空気をたっぷりと吸い込んだ。深呼吸をするとまだ落ち着きのなかった心臓がようやく落ち着きを取り戻す。

 取り込んだ春の空気が身体を巡っていく。そして、気分も上がり、自然と足取りも軽くなっていた。


 今日はこれから高校の入学式。

 まあ入学式といっても結真にとっては使う校舎が変わるくらいだが。


 これから静麗に入学してくる人たちには、きっとビッグイベントだろう。期待と不安を胸にここへとやってくるのだ。


 そんな新しい出会いはきっと結真たちにもいい影響をもたらしてくれることだろう。結真はステップを踏むように歩き出した。


 閑静な住宅街を抜ける緩やかな坂道。その途中にあるコンビニで、中学からの親友と一緒に登校するために待ち合わせをしている。


 コンビニの前まで来ると綿菓子のような柔らかい黒髪を揺らしながら、にこやかにこちらへと手を振っている小柄な美少女を見つけると嬉しくなって手を大きく振り返した。


 「うさぎちゃん、おはよー!」

 「ゆまちゃーん!」


 こうして会うのは二週間ぶり。春休みぶりの再会がうれしくて、ふたりは飛び跳ねてハイタッチを交わした。


 「ブレザー、似合ってるね」

 「うさぎちゃんのセーラー服も可愛いよ」


 うさぎちゃんこと財田兎萌たからだともえはセーラーがよく似合う。お淑やかな雰囲気にぴったりだ。


 静麗の女子制服はブレザーとセーラーのどちらかを選択できる。どちらも可愛くて地元では人気がある。制服で静麗を選んだなんて話もよく聞く。


 「待ったせてばかりでゴメンだけど、飲み物買ってきていいかな?」

 「うん、大丈夫だよ。ここで待ってるね」


 店内に入ると、新商品や期間限定のスイーツにどうしても目を奪われてしまう。でも今はいけないと、後ろ髪を引かれる思いでお気に入りのフルーツティーを手に取り、スマホで会計を済ませる。いつもいる美人な外国人の店員さんに結真は、「ありがとう」と御礼を言って、飲み物をバッグに放り込んだ。


 「お待たせー。それじゃあ、行こうか」

 「うん」


 朝の通学路はいつもより静かだ。

 オシャレで整った容姿の結真。

 小柄なのに一部の発育がとてもいい兎萌。

 どちらも学校でも目立つ存在のため、普段なら衆目に晒されるが、今日はあまり気にならない。登校しているのは新1年生だけで、誰もが着慣れない制服に身を包み、緊張していたり、浮かれていたりで今はほかを気にしている余裕なんてないのだろう。


「ねぇねぇ」

「うん?」

「学校にもピアスしてくことにしたんだ」

「あーコレ?うん。校則違反じゃないし、いつも付けてるもんだからいいかなって。どうかな?」

「結真ちゃんのピアス姿、かっこよくて私好きだよ」


 結真の耳を飾るピアスはどれもお気に入りで、褒めてもらえるのはすごく嬉しい。

 うさぎちゃんに、「ありがとう」と伝えると陽だまりのように温かい笑顔が返ってきた。


 (こうして、みんな虜に……)


 こんな笑顔を向けられたら結真でもドキドキしてしまう。彼女に告白する男子たちの気持ちが少し理解できた結真は、春休みに染め直した髪色のことやアクセサリー、ファッションについて情報交換をしながら、学校へと向かった。 

 

 高等部の校門が見えてきた。学校の中に入って玄関前まで行くと、掲示板に貼られたクラス分けに一喜一憂する声。

 そして、兎萌が生まれたての子鹿のように震え出した。


 「違うクラスだったら、どうしよ〜」と言って、兎萌は結真の腕にしがみつき、目を潤ませる。その小動物のような可愛さは満点。花丸をあげちゃいたい。


 「大丈夫だから」となだめても不安げに、こちらを見上げている。 

 「クラスが別々でも会いにきてくれる?」

 「よしよし。行ってあげるからね」


 そう言って頭をなでると兎萌の表情が少し和らいだ。


 それはそうと、さっきから必死に腕にしがみついてくるせいで、ずっと水風船のように柔らかい兎萌の立派なモノの感触と温もりが伝わってくる。朝の千種とのこともあって精神衛生上、あまりよろしくない。しかし、振り払うこともできず離してくれるまで悶々とする羽目になった。


 玄関前にある掲示板の前は、かなり混雑している。先客たちは仲のいい者同士、あれこれ喋っていてなかなかどいてくれず、前に進むのも一苦労で少しキレそうになった。

 やっとたどり着いた先にあるクラス分けの紙。自分の名前を探してクラスごと順番に確認をしていく。半分くらい過ぎたところで見つけた『 妙見結真』の文字。


 結真と目が合うと兎萌は満面の笑みで抱きついてきた。



◇◇◇



 『1-D』と書かれた教室のドアを勢いよく開けると、これからお世話になるこの場所に向けて、「おはよう」と中へ。


 その声に気づいた子たちから反応が返ってくる。 

 黒板に書かれた自分の名前と席。そこにリュックを置くと、今年も同じクラスになった子や知り合いの子たちが男女関係なく寄ってきてくれて、自然とできる人だかり。

 春休み前と全然違う顔ぶれと挨拶を交わすと新学期が始まった感じがする。


 兎萌も友達に囲まれて楽しそうにしていた。

 みんな清楚系な子たちで、あそこの周りだけ他より少し空気が綺麗な気がする。


 「おっ、璃羅じゃん。おはよー」

 「おは。ふたりとも相変わらず人気だねぇ」

 「いやいや、璃羅さんには敵いませんよ。元中学女子陸上部のエースで高校陸上部期待の新

人さん」

 「何それ、絶対からかってるでしょ」

 「そんなことないよ?」


 なんの事やらと小首を傾げてみせる結真。

 それに溜息をつく璃羅。

 いつの間にかやって来て、それを温かく見守る兎萌。

 

 実に平常運転だ。


 「兎萌もおはよう」

 「りらちゃん、おはよう!」

  

 体当たりする勢いで抱きつき、そして甘えるように璃羅の胸に顔を擦り付ける兎萌。


 「ちょっと!」と、困った顔をしつつもスキンシップが過剰な親友を優しく、だがしっかりと受け止めてやっていた。きっと璃羅も三人同じクラスになれたことが嬉しいのだろう。


 まったく素直じゃない。でもそんなところも可愛いと思えた。

 結真も一緒になって後ろから抱きついた。

 

 「結真まで……もう」

 「なんか……すごくいい匂いする」

 「わかる」

 「制汗スプレーだよ。朝、ランニングしたから」

 「……シトラスの匂い」

 「ちょい、ストップ!恥ずいからあんまり嗅がないで!」


 匂いを堪能しようと思ったが、璃羅の悲鳴に渋々離れる結真。

 代わりに三人でハイタッチをして、同じクラスになれた喜びを分かち合う。


 「結真ちゃん……あれ?」

 

 急にどうしたのだろう。気になっていると兎萌が首元を覗き込んできて、そっと皮膚の薄いところをなでる。指が触れる感触に思わず身震いしてしまう。


 「首のところ……なんか赤くなってるよ?」


 結真は反射的に頸部をおさえた。


 心臓が跳ね、耳が熱い。慌てて取り繕おうとしても上手く言葉が出てこない。


 「こ、これは……ちょっと擦れちゃったのかな……」


 兎萌は不思議そうに首をかしげる。


 璃羅はというと少し顔を赤らめ、怪訝な表情を浮かべていた。

 

 やってしまった。千種のことを思い浮かべ、顔を覆いたくなる。


「あはは……ちょっと御手洗、行ってくるね!」


 そう、乾いた笑いを残して結真は女子トイレに駆け込んだ。

 

 鏡に映る首元にはっきりと残る痕。


 昨日の夜のか。

 今日の朝のか。


 千種が所有権を主張するかのように刻みつけた痕。

 ネクタイを緩めてみると、胸元や鎖骨の辺りにも目立つ痣がいくつかあった。


 さすがに恥ずかしすぎる。


 結真がひとり頭を抱えていると、心配そうにこちらを見つめる璃羅の姿。


 「結真、大丈夫?」

 「あっ、うん。大丈夫ダヨ?」

 「本当に?」


 何とか平静を装ってみたものの、どうしても声が上ずってしまう。


 「さっきのって……」

 「わかってる!やらかしたのはわかってるからお願い……言わないで!」

 

 「はぁ……まったく」

 

 すべてを察したらしい璃羅の大きな大きな溜め息に、顔まで熱くなってくる。羞恥でどうにかなりそうだ。


 「とりあえず、これでも貼っときな。兎萌には上手く言っておいたから」


 手渡された絆創膏。結真が小さく、「ありがとう」と呟くと優しい自慢の親友は、何も言わずに教室へと先に去っていく。 


 目立つ首のところに璃羅からもらった絆創膏を貼り、もう一度鏡を覗き込んだ。

 そっと隠れた痣の部分をなぞると胸の奥が微かに疼く。未だ冷めやらぬ熱が内側をゆっくりと這い回っているかのように。

読んでくれてありがとう

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