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駆け巡る青春は稲妻のように  作者: 一二三楓


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10/11

先輩で、親友(現在進行形)

㊗️10話!!


 


 ピコン。


 スマホのアイコンが光る。

 机に向かっていた姫翠はペンを置いた。

 頭を掻きながら画面をタップすると、後輩ちゃんからのメッセージだった。


 「結真からだ」


 うちに来たい、とある。

 遊ぶときはいつも結真の家なのに珍しい。


 可愛い後輩の頼みだ。勉強なんかしている場合じゃない。姫翠はすぐに自室を飛び出して、カタカタとうるさくないギリギリの範囲の速さで、階段を駆け下りた。


 「お母さーん」

 「なぁに?」

 「今日、友達泊めてもいーい?」

 「急ね?」

 「その子、親御さんが今海外で働いてて家でひとりなんだよ。寂しいんだと思う」

 「そうなの?それは大変ね」

 「今年から一人暮らししてる」

 

 結真が一人暮らしで寂しがっていると話したら、お母さんは、家に呼ぶことに反対しなかった。


 「その子、今日入学式なのにひとりぼっちなんだよ」と言って、最後のダメ押しをした。

 「そう。そんな大事な日に……。その子、何て子なの?」

 「ゆま。妙見結真って、私の一個下」

 「ゆまちゃんね。わかった。いつでも連れてきなさい。いつでも歓迎するから」


 姫翠の狙い通り。

 お母さんは結真に同情して、うちに呼ぶことを快く了承してくれた。いつでもOKというお墨付き。

 「お母さん、ありがとう」と言って、姫翠は階段を駆け上がった。


 結真との時間も待ってはくれないが、課題テストも待ってはくれない。

 素早くメッセージを返信して、姫翠は解きかけの問題集を開いた。

 


◇◇◇



 カリカリとペンを走らせる音。

 BGMはヨルシカの『晴る』。


 この曲を聞くと、結真と出会った頃の五月雨の匂いを運んでくる。

 雨の湿り気を含む初夏の香り。

 湿気を吹き飛ばす文化祭の熱気。

 シトシトと名残り惜しさに泣く空。


 出会いは去年の中高合同文化祭実行委員の会議だった。

 うちは中高一貫校だから文化祭も合同。

 実行委員は各クラスから二人だから、結構大人数になる。

 中学組と高校組がペアになって、高校組が引っ張るカタチだ。

 中三と高一が組む。

 それから中二と高二、中一と高三。


 姫翠と結真はペアになった。


 結真は可愛い。だから実行委員の中でも目立っていたと思う。

 どうしても年功序列で歳上の高校生が中心になりがちだけど、結真は自分の意見をしっかり発言してたのを覚えている。

 

 『松丸先輩、よろしくお願いします』

 

 『姫翠先輩って呼んでもいいですか?』


 仲良くなるにつれて、どんどん距離が近くなった。


 『ひーちゃん、今日もガンバ!』

 

 文化祭本番の頃には、先輩とか後輩とかいう壁をお互いに飛び越えてた。


 そう親友みたいな感じ。


 一緒に映画を観たり、アニメを観たり。

 ときにはショッピングして、お揃いコーデを揃えたり。


 姫翠は春休みにも何度か、結真の家に泊まりにいって、夜通しの映画鑑賞パーティーをした。春休みも終わり、すでに少し懐かしい。

 結真がうちに来たいと言ってくれるのは嬉しい。

 

 BGMのプレイリストがちょうど一巡した頃、チャイムが鳴った。


 思考の海から浮上した姫翠は、ハッと顔を上げた。

 きっと結真だと問題集をスクールバッグに投げ込んで、姫翠は階段を駆け下りていく。

 ガタガタと音を鳴らして、できる限り早く玄関へ。

 待ちわびていましたよとばかりに階段を駆け下りて、ま最後の何段かは、すっ飛ばして飛び降りてやった。


 いつもなら口煩いお母さんか、お節介なお父さんのつまんないお説教が飛んでくるけど、今日は許された。

 許されなくても、姫翠は聞かない。

 だって私、反抗期だもん。

 松丸姫翠は打たれ強い。

 しなやかで粘り強い日本刀のような性根の持ち主である。


 玄関を開けると、結真が少し申し訳なさそうに佇んでいた。


 なぜそんなに不安そうな顔をするのだろう。

 いつより、濃く見える結真の影。


 話してほしい。先輩と後輩からさらに踏み込んで、親しい友達になったのだから。

 


◇◇◇



 結真を自分の部屋まで案内すると、姫翠は買溜めしてあったお菓子のストックを解放した。

 

 「コンビニやスーパーで気になるお菓子があると、つい買っちゃうんだよね。それでここにしまっておくの!」

 

 「良くない?」と姫翠がお菓子をテーブルいっぱいに広げると暗かった結真の顔に少し明るさが戻ってくる。


 「ひーちゃん、それ。食べ物をせっせと溜め込むリスみたい」

 「ふふんっ、私は隠し場所忘れないけどね!」


 腰に手を当て、得意げに笑う姫翠。

 その星屑を振り撒くような眩しい笑顔は、いつも結真を元気づけてくれる。


 高校生となり、新しい日々が始まって、新しい出会いに胸が高鳴りっぱなしだった。

 だからか、ひとりの夜は怖かった。

 

 結真は『SOS』を発信する。

 救難信号を受信してくれたのは姫翠だった。


 病んでいるわけじゃない。

 結真の感覚的に、ヘラってるに近かった。


 「夜なんて来なければいい……」


 子供のように唇を尖らせる。         その我儘は夜風に乗って、夕闇に溶けていく。

 

 結真が頼めば、みんな一緒にいてくれる。

 璃羅もうさぎちゃんも、千種ちゃんだって。


 だけど、今日はみんなに笑顔で「また明日」と、手を振ってしまった。

 だって、みんなの前での私は勉強もスポーツもできる可愛い、いい子。

 みんなの中心、みんなの憧れ。


 もしひーちゃんにダメって断られたら、夜の街を迷子みたいにさまよって───

 

 適当な誰かと一夜を共にする。

 身体を重ね、絡み合う。

 そうしていれば気持ちいいし、嫌なことも忘れられる。

 身も心を委ねてしまえば、何も怖くない。

 たまに痛いことされるときもあるけれど、ひとりぼっちよりはいい。だって寂しくないもの。

 


読んでくれてありがとうございます。

評価・ブックマークよろしくお願いします。

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