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迷い迷って辿り着いたのは……あなたの隣でした  作者: あさぎ
三章 柔和な光を湛えた緑の瞳
33/34

33.そのタイミングは突然に

 


「あははは!あははっ!あ〜おかし〜!笑いすぎてお腹痛いわ〜!……ってあれ?ちょっと、どこ行くのハル?」

「いや、ちょっと見てほしい物があったの思い出してさ……そこで待ってて」


 そう言って部屋を出て……数分も経たないうちにすぐ、手に小さめの紙袋を下げて戻ってきた。


「いや〜お待たせ」

「あら……なかなか高級そうな袋ね」

「ははっ、まぁね」


 さっきまでのふざけたムードが一変、急に真顔になり黙り出したハル。


(えっ、何?この後何するっていうの?)


 何やらすごく緊張しているらしく、私までピリピリとしたオーラが伝わってきた。


「あ、アンナ。あのさ……」

「何よ、急にかしこまっちゃって」

「その、……が……って……」


 そう言いながら紙袋を漁るハル。

 ガサガサという音が声より大きくて、全然聞き取れない。


「へっ?今なんて?」

「いや、その……えっと……」


 まだなんかゴニョゴニョ言いながら、ようやく小さな黒い箱を取り出した。


(え?あれって……嘘でしょ、このタイミングで?いやまさか、嘘でしょ?!)


 箱のサイズ、ベルベットのようなスベスベした質感、そして大事そうに優しく包む手つき。


 どう見てもこれは……


「君に渡したい物があって……」

「えっ!い、今ぁ?!」


(嘘じゃなかった〜!)


 思わず『今ぁ?!』なんて言っちゃったけど。

 雰囲気も何もあったもんじゃなかった。


「うん、今」


 おもむろにその場に跪き、パカっと箱を開ける。


 出てきたのは……やっぱり指輪。

 細くて華奢なプラチナの輪に、大ぶりのダイヤモンドがついている。


 そのままおずおずと私を見上げて、しばらく目を泳がせていたけど……決心がついたようで小さく、よし!と言って私の瞳をじっと見つめた。


「アンナ!その……ぼ、僕と……結婚してくれないか?」

「……は、はい!」


 思わず反射的にすぐ、はい!って言ってしまった。


(『言ってしまった』って言っても、別に嘘とかじゃないけど……嘘じゃないんだけど……)


 せめて、そういった雰囲気とか心の準備は欲しかった。


「でも、何でこのタイミング?」

「今なら言えると思って……」

「まさか、ずっとタイミング見計らってたの?」

「うん」


(『うん』って!おいっ!いやいやいや!それにしたって、なんで今なのよ!)


 もっと雰囲気とかさ……あるじゃない!夜景とかさ!

 海辺でもお花畑でもいいし、もっと他にも色々あるじゃない!




「ア、アンナ……?」


 ふと下を見ると、不安そうにこちらを見ている男と目があった。


(いや……この人にそんなのを求めるのは可哀想か)


「……ハル」

「は、はい!」

「これからもずっと、よろしくね」

「アンナ……!」


 彼の嬉しそうな顔に私まで顔が綻ぶ。


 恋愛のドキドキとはまた違った、ふわっと温まるような感覚。




 誰かさんが連発してた『愛してる』なんて一度も聞く事なく、ゴールインしてしまった。


 でもそんなの無くたって、心は満たされていて。

 むしろ今の方が、あの時より何十倍も何百倍も愛を感じていた。


 本当の幸せって、こういう事なのかもしれない。


(とはいえ、一回も無いのは嫌だから……せめて結婚式前までには言ってもらお〜っと)




「そういえば……前に、結婚なんてまだまだ先とか言ってなかったっけ?」

「あ〜、うん。あの時はそう思ってたよ」

「気が変わった?」

「いや……そうじゃなくて、もっと一緒にいたいと思って……」

「なら、別にただの幼馴染でもよかったじゃない。普段からよく一緒にいるわけだし」

「うっ……そう言われちゃ、そうなんだけど……」

「……」

「だけど……」

「だけど?」

「このままだと、誰かにアンナを取られちゃうような気がして……」


 取られちゃう?私が?


「えっ……?誰に?」

「決まってるだろ?『他の男に』だよ」


 他の男に私が取られる?

 普段からそういった浮いた話のない、私が?


 いつも自分から追いかけてばっかりで、誰からも言い寄られたことがない私が?


「独身でいる限り、アンナが誰かに言い寄られる可能性はゼロじゃないだろ?だけど、君を他の誰にも渡したくなくて……」

「……ぷっ」


 大真面目にそう言う彼に思わず吹き出す。


「なっ……!わ、笑うなよっ!」


 結婚する理由が、『取られちゃうのが嫌だから』なんて。

 子供みたいでなんだかおかしくって。


 愛してるからとかそういうのじゃなくて、まさかのそれ。


 これもまた彼らしいっちゃ、彼らしいけど。


「ちょっと!笑うなってば、もう!ほんとの事なんだから!」


 さらにこうやってムキになって怒るもんだから、余計におかしくて。

 吹き出した笑いが段々と大きくなって、最後には一人で大笑いしてしまった。


 さっきのサイラスの話といい、今といい……こんなに笑ったの久しぶりだ。


(これもハルのおかげ……かな?)


 しょうもない事で、こうやって笑える幸せ。

 ささやかだけど……なんだかホッとするような小さな幸せ。




 迷い迷って、ようやくたどり着いた。


 随分と回り道をしてしまったけれど、ようやく見つけることができた。


 私の幸せがある場所……あなたの隣に。



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