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迷い迷って辿り着いたのは……あなたの隣でした  作者: あさぎ
三章 柔和な光を湛えた緑の瞳
31/34

31.幸せに包まれていく

 


 静かに待つ事数分。

 長々間を置いて、ようやく彼は話し始めた。


「えっと、僕は……」

「……」

「なんだろ、ええと……僕は君が幸せならなんでもいいかな」

「へっ?」


 予想と違った彼の答え。

 てっきり、ここは単純に『君が好き』って言うのかと思っていた。


「な、なんでもって……」

「うん。ほんとになんでもいいんだ、君が幸せならどんな形でもいい」

「……」

「君が毎日笑って暮らせれば、それでいい……それが僕の幸せだから」


 まるで純愛ものの小説とかにありそうな答え。


(ほ、ほんとに……?それ、本気で言ってるの?)


「でも、そうだなぁ……」


 静かな夜の景色に、月光というスポットライトに照らされた演者が二人。


 舞台はクライマックスを迎えていた。


「君が側にいてくれるなら……もっと幸せだろうな」

「……!」


 目を細めて私を見つめるハル。


 何か声を出すわけでも飛び跳ねて喜ぶでもなく、いたって静か。

 でも、心の中の激しい喜びが洪水のように溢れ……全身から漏れ出てしまっていた。


「君の笑顔は魔法の薬なんだよ。他につらい事があっても、すぐにどうでもよくなっちゃう」


 そう言い、はははっと笑った。


 なんだかいつもの彼らしくない爽やかな声に、これまた彼らしくない笑顔で。


(そんな顔するなんて、卑怯だよ……)


 今までの二人ならまだしも、ハルまでそんな顔できるなんて。


 いつものボーッとした表情じゃなくて、普通の男性の……いや、普通なんてレベルじゃない……これはもういわゆるイケメンと呼ばれるような人がするような、そんな綺麗な笑顔。


 もっと言うと……心がキュンってなるような、爽やかでちょっと可愛い笑顔。


「……」

「……」


 ハルは相槌を待っていたようだったけど、思わず見惚れて黙り込んでしまった。


「……だから僕は、君が幸せになる道を選んでくれればそれでいい。無理に僕のために一緒にいる必要は全然ないよ」

「ハル……」


 彼は、心から私の幸せを願ってくれている。

 自身の幸せすら犠牲にしてもいいと言えるほどの、深い愛。


(ほんとに、どこまでも優しい人ね……でも)


「でも、それは違うわ」

「違う?」

「無理なんかじゃないって事」

「それは、どういう……?」

「言ったでしょ?私は……あなたがいないと駄目なの」

「……!」

「だから、あなたと一緒にいたいの。この気持ちに無理も何もないわ……私の本心よ」


 彼は信じられないといった感じで、二、三度大きく瞬きをした。


「アンナ……!」




 次の瞬間、私の目の前は真っ暗になった。


 暖かいハルの胸元に顔を埋めて、彼の匂いに包まれて……じんわりと体が蕩けていく。


 お互い顔は見えないまま。

 でも、気持ちは伝わってくる。


 段々と熱を持ち高まっていく体温と、もはやどちらのものだか分からないけたたましい鼓動が、二人の溢れる感情を代弁してくれていた。




(ああ、幸せだなぁ……)


 この感じ……いつぶりだろう?


 久しぶりの触れ合い。

 でも、以前とはまるで内にある感情が違う。


 ハルも男性だし、異性と触れる時のドキドキはある。


 でも、それ以上になんだかポカポカというか……心が満たされていくような感じがして……


(いや、いつぶりとかじゃない。これは、きっと……『初めて』だ)




「ええっと……じゃ、じゃあ……これは、あれか」

「へ?『あれ』って?」


 いきなり変な事言い出すから、急に現実に戻されてしまった私。


 甘いムードはサーっと消えていき、暗闇の向こうでブヒヒーン!と鳴く馬達の声が響いている。


(えっ……何?何かあるっていうの?)


「その……」


 ゴクリ、とお互い唾を飲み込む音が聞こえた。


「僕達……つ、付き合おっか……?」

「……?!」


 なんで疑問系?!

 っていうか、溜めておいてそれだけ?!


 色々と突っ込みどころ満載のセリフに、いつもの私なら多分そう返してた。




 でも、今はそれよりもはるかに……嬉しさが上回っていて。


「ハル……!」


 勢いをつけて、ぼふっと彼の胸にまたダイブ。


 ふわふわしっぱなしの私の脳は、まだ彼の感触を欲しがっていた。


「うわっ!ア、アンナ?!」


 なんだよいきなり!とか言いながらもその声は弾んでいて、ますます嬉しくなりギュッと抱きつく。


 その私のギュッに反応して、彼はさらに強く抱き締め返してきて。


(好き……!)




 私は……いや、私達は幸せに包まれていった。



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