30.繋がる気持ち
ゴクンと一口唾を飲み込み、喉を潤す。
いざ想いを伝えようとすると渇いてしまって。
「ハル、私ね……私、あなたが好きなの」
「……っ?!」
バッと顔を上げるハル。
驚き顔にほんの少し喜びの滲んだ、なんとも言えない表情。
「だけど……これはきっと『恋愛感情じゃない』の」
驚きは一瞬で終わり、すぐにいつも通りの穏やかな表情に戻った。
まるで何も気にしていないかのように装って。
だけど、その顔には黒い影が落ちていた……月明かりですら照らせない、暗くて重い影が。
(ハル……)
躊躇う気持ちに鞭打って口を動かす。
「それで……その、」
まだこの話には続きがあったから。
言わなきゃいけない事が、この先にあるから。
「私ね……『この人じゃないと駄目!』って人と恋愛して、結婚したかった」
「……」
「妥協なんて絶対したくなかった……もちろん、今もそう」
もう耐えきれない、といった感じで彼はまた俯いてしまった。
『この人じゃないと駄目!』の『この人』は自分じゃない、そう思っているようだ。
「聞いて、ハル。今までは、刺激的でドキドキするような人ばっかり見てた。不安定で危ない恋ばっかり選んでた」
「……」
「でも、もう……そういうのはやめたの」
「えっ?」
「恋に恋してた、というか……私には合わないような人ばっかり追いかけて……疲れちゃって」
「アンナ……」
こちらを向いた二つの瞳はたっぷりの水でウルウルと潤み、上質な宝石のように細かく輝いていた。
「ねぇ、ハル」
「なっ……なんだい?」
不自然なリズムの瞬きが私を見つめる。
まさかこのタイミングで自分に話を振られるとは思っていなかったようだ。
「私達ってさ、よく喧嘩するよね」
「……うん」
「趣味だって合わないよね。お互い性格だって全然違うしさ」
『合わない』という言葉に……視線だけスーッと降りていって、私のつま先に。
「でもね、ハル」
「……?」
「でもね、でも……あなたには尊敬するところがいっぱいあるの」
「えっ?」
困ってるような驚いてるような、なんとも言えない顔。
今こうして喋っている私の話がどういう結論に向かってるのかいまいち読めず、困惑しているようだった。
「一緒にいて落ち着くし、私の事をとても大事にしてくれてさ。たまにぶつかったりはするけど、なんだかんだ私を受け入れてくれて……」
「……」
「今までずっとあなたが心の支えになってくれていた。あなたのおかげで、私は今までやってこれたの」
「……そ、そうかな?」
照れくさそうにポリポリと頭を掻く。
(ふふっ、分かりやすいんだから)
素直に嬉しがる彼に、なんだか私まで嬉しくなって。
これからしようとしている話……私が感じている彼への想いに、さらに確信が持てた。
(こういう『好き』ってあるんだなぁ)
今までずっと、知らなかった。
同じ『好き』だけど、違う……刺激よりも、ときめきよりも、もっと大切なもの。
大好き!とかキャーかっこいい!とかじゃなくて、全然違う種類の感情。
「ハルにはたくさん感謝しないといけないわ。私が今こうやって私らしくいられるのは……あなたのおかげだから」
「いや、僕はそんな大した事……」
「だから、私は……ハルとずっと一緒にいたいの。あなたと一緒にいるのが幸せなの。あなたも好きだし、あなたと一緒にいる時の私も好きなの。やっと気づいたわ」
「……」
「私がいる事であなたが幸せになれるなら、尚更……二人で一緒に幸せになりたいの」
そう言い切って、口を閉じる。
(よし、言いたいことはこれで全部。全部言えた……)
自分の頭の中を整理してから話をしたから、今日はだいぶスッキリしていた。
でも、これはあくまで全部私視点での話。
(私がどう思ってるか、であって……これをどう受け取るかは本人次第……)
ハルの方をチラッと見ると、黙り込んだまま何か考え込んでいるようだった。
(ううう、緊張する……なんだか試験の合否待ちみたい)




