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迷い迷って辿り着いたのは……あなたの隣でした  作者: あさぎ
三章 柔和な光を湛えた緑の瞳
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28.やっと気づいた、大事な事

 


 しかし、その二日前になって……ハルが慌てて屋敷を訪問してきた。

 それも夜遅くに、だ。


「どうしたの?そんなに焦って……」

「アンナ……ごめん!」


 そう言って深々と頭を下げるハル。


「えっ?」

「実は……一昨日、僕の姉が倒れたらしくて」


 彼の姉は、先週から旦那と二人でバカンスを楽しんでいた。

 ここから遠く離れた海辺の観光地だ。


 何の持病もない至って健康な人だったらしいけど……浜辺を歩いていたら突然倒れてしまい、近くの病院へ運ばれたらしい。

 今も入院しているんだとか。


「だから、ごめん……その、明後日は行けなくなっちゃって」

「……」

「体調はもう大丈夫みたいだから、すぐ戻ってこれると思う」

「……」

「だから……ごめん!僕、行かないと!ほんとごめん!」


 結婚してるんだから、そういうのは旦那さんに任せればいいのに。

 私の顔に書いてあるのが見えたのか、彼は一層申し訳なさそうに謝ってくる。


「自分から誘っておいて、ごめん!ほんとに!」

「なによ!お姉さん、旦那さんいるんでしょ?!弟のハルまで行くことないじゃない!」

「だけど、家族だし……放っておけなくて」

「もう、ほんとに心配症ね!誰にでもすぐそうやって心配する!」


 彼の顔つきがみるみる変わっていく。


 一度派手に喧嘩したから分かる。

 これは……相当怒ってる顔だ。


「誰にでもって言ったって、相手は血の繋がった兄弟なんだよ?!行かないわけないじゃないか!」

「はぁ?シスコンなんじゃないの?!」

「君の方こそ、薄情者なんじゃないのか?!」

「なんですって?!……もういいわ、帰ってちょうだい!」

「ふん!言われなくてもとっと帰るさ!」




(ああ、まただ。またこうやって、すぐ喧嘩になる)


 後悔先に立たず。

 一人になったからって今更悔やんでも、意味がない。


(やっぱり合わないのかな、私達って……)


 ふと気づく。


(合わないって……あれ?そもそも私達って何なんだろう……)


 どんな関係って言うんだろう。


 幼馴染にしては、なんだか近すぎるし。

 かといって親友でも恋人でもない。


(なんだこれ)


 とはいえ、彼から見たらそうじゃないのは知ってる。

 私の事が好きなのは、もう知ってる。


 恋のベクトルの矢印はこっちに向いている。


(でも、それなら私は……?)


 私はどうなの?どう思ってるの?

 私にとってハルって……何なの?


 押し入れにしまい込んだものを探すかのように、今まで全く意識していなかった事の記憶を引っ張り出す。


 少なくとも恋人同士ではない。

 でも……ただの仲の良い幼馴染としては、なんだかその範疇を超えているような気がして。


(じゃあ、一体何なの?私は……一体どうしたいの?)




 情報が入り乱れ、混乱し始めた頭。

 どうにか落ち着かせようと目を伏せると、瞼の裏に今までの彼との思い出が次から次へと浮かんでくる。


(ああ……今まで、色んな事あったなぁ……)


 他の誰にも言えないような、心からの本音が吐き出せて。

 時にはひどい言葉ぶつけて、感情をさらけ出して。


 でも嫌じゃない。

 いや、嫌と言えば嫌だけど……本人自身を嫌いにはならない。


 これはきっと、ハルもそう。

 直接聞いたわけじゃないけど、強い確信があった。




 怒ってぶつかったりしながらも、なんとなくお互い自然と受け入れられる。これって何だろう?


 好きだけど、恋じゃない。

 ドキドキしないし緊張もない。


 じゃあ、なんだろう……親友?


 いや、なんか違う。


 これは、愛情?

 それももっとこう、緩くてふわっとした……家族愛みたいな?


 お互いにいて当たり前、みたいな……そんな感覚。


 サイラスとも、セルジュさんとも、また違ったもの。




 ハルは……こう言うのも何だけど、決してイケメンじゃない。

 見た目はそこまで好き!ってほどじゃない。


 でも、この先一緒に生きていくなら……ハルがいい。

 彼の側にいるのが好き……もっと言うと、彼の側にいる私が好き。


 激しいドキドキはないけど、ふわふわとした暖かい愛情がある。


(あれ?もしかして……)


 これが私の幸せなんじゃない? 

 これこそが、私が求めていた幸せなんじゃない?




 気づいたら手元に雫が垂れてきていた。


 ポタリ、ポタリとこぼれ落ちてくるそれをハンカチで拭うと、拭いたそばからまた次の雫が垂れてくる。


(ハル……)


 やっと気づいた、彼の存在の大きさ。


 私にとって空気のようで、そこにあるのが当たり前だった。

 彼の事なんてほとんど注目した事がなかった。


 でも、空気がなければ生きていけないように……私には彼がいなきゃ駄目なんだ。




 失恋で苦しんでた時は、彼の優しさに胡座をかいていた。


 頼まなくても向こうから勝手に本気で心配してくれて……でもいざ立ち直った時にも何のお礼言わなくても良くて、むしろうるさいって怒って邪険な扱いをしても許してくれる。


 それら全部、ハルの優しさに甘えてたんだ。


 彼がいなきゃ、きっとあのつらさは乗り越えられなかった。




(私……謝らなきゃ、彼に)


 大切なものを失ってしまう前に。



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