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迷い迷って辿り着いたのは……あなたの隣でした  作者: あさぎ
二章 大雨の後の澄んだ青空
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26.優しさのメロン

 


 結局、翌日も風邪は治らず。


 今日もほぼ一日中ぐーぐー寝てしまって、気づいたら夜だった。




 セルジュには手紙で延期をお願いした。

 起き上がれない私の代わりに、侍女に頼んで。


 返事はすぐに来て、体を労る優しい言葉が書き連ねられていた。


(すごいなぁ……)


 受け取ったらすぐに返事。ボールは手元に残さない。

 さっと頭が回ってうまくリアクションできる人、いわゆるできる人ってやつだ。


 話をしててもなんとなくそれは感じていた。

 何が言いたいのかちゃんと伝わるように頭の中で整理しつつ、分かりやすい言葉をきちんと選んで喋っている……そんな話し方。


(もし前の世界にセルジュがいたら……それも、もし会社で仕事してたなら……相当優秀だっただろうな……)


 でも、それだと……


 私なんかとは釣り合わないんじゃないの?

 彼にはもっと合う人が他にいるんじゃないの?


 ふいにそんな考えが浮かんできて。


(そ、そんな事……!いや、ないない!ないから……!)


 頭に浮かんだ思考をかき消すように、首を大きく振った。




 横になったままなんとなく辺りを見回していると、ふとベッドの脇に置かれた木の椅子が目に入る。

 それは、昨日ハルが座っていた椅子だった。


(随分、ひどい事言っちゃったな……)


 親身になって心配してくれてたのに、私の頭の中はセルジュでいっぱいで……焦るあまり、ハルに八つ当たりしてしまった。


 デートの約束があるからって、何もあそこまでムキになる事なかったのに。


(それに……)


 元々インドア派なセルジュとアクティブな私。

 趣味もあまり合わないし、なんだか無理矢理合わせるのに疲れてきていて。


 だから今、むしろセルジュとのデートがなくなったからってホッとしている自分がいた。


 彼と合わないって事なのかもしれない。


 好きだけど合わない相手。

 その一方で、好きじゃないけどなんとなく合う相手がいて。


(はぁ……一体どうしろっていうのよ)


 大きなため息が勝手に口から漏れ出てくる。


 なんだか複雑な迷宮に迷い込んでしまったような気分で、もうどうしたらいいか分からなくなってきていた。




「ふぅ……」


 息を吐ききったところで今度は吸い込むと、急にもやっとした甘ったるい香りが入ってきて思わずむせる。


「っ!けほっ、けほっけほっ!な、何……?なんの匂い?」


 匂いの発生源は近い。


(くんくん、くんくん……どこだろ、見当たらないわ。ここに近くて何か物が置けるようなところ……あっ、机?)


 予想は正解だった。

 ちらっと机の上を見ると、大きな黄緑色の球体が乗っている。


「あら?メロン……」


『アンナ、リンゴは嫌だって言ったでしょ?だから今度はメロンね』


 ここにいないはずなのに、声が聞こえた気がした。


(……)


 私に見つからないように、寝ている間にこっそりと見舞いに来てたみたい。


 あれほどひどい事言われて、嫌な思いして。

 でも、まだこうやって来てくれる……


(ハル……)


 ポタ、ポタ……と音がして、ベッドのシーツに小さな染みが二つできた。


 布に吸われず残っていた透明な球を指で拭うと、被せるようにまた新たな雫が落ちてきて。




 本当の優しさって……これだ。こういうのだ。


 私にはなかった、人を思う心。

 いや……彼が私を好きだからこそ、なせる技なのかもしれないけど。


 本当の幸せの在処、ようやく見つけた。

 ここだ。ここにあったんだ。




「ハル……」

「何?」




 えっ。


 声のした方を見ると……彼の姿が。


「うひゃあ?!」

「なんだよ、化け物を見るような目して」

「い、い、いたの?!いつから?!」

「え?今さっき来たばっかりだけど?」

「なんで、どうして……」

「メロンが悪くなる前に回収しに来たの。全然食べてないって聞いたから、勿体無いしここの人達と僕で全部食べちゃおうかなって」

「……」

「結構な値段したんだよ、これ。きっと、めちゃくちゃ美味しいやつだよ。楽しみだなぁ」

「ハル……怒ってないの?」


 ハルは困ったような顔をした。


「え?まぁ、そりゃあ……怒ったさ。あんな言われようじゃねぇ」

「今は?怒ってないの?」

「うん、いいよ。僕も大人げなかったなって思って、あの後反省したよ」


 何気なく言い放った一言だったけど、私はハンマーで頭を叩かれたかのような衝撃を受けた。


 あれほど言われて、こんなに穏やかでいられるなんて。

 こんなに謙虚でいられるなんて。


 なんて情けないんだろう、私。

 私なんかより、彼の方がだいぶ大人だった。


「ハル……ごめんなさい」

「いいよ、別に」

「本当に、本当に……っ!ごめんなさいっ!」


 ふいにハルの手が顔に向かって近づいてきた。


「……っ!」


 驚いて反射的に目を瞑ると……


「ほら、泣かないの」


 彼の長い指はそ〜っと私の頬に触れ、雫を優しく掬い取っていった。


「ハル……!わ、私……!ごめん、なさ……っ!」


 ハルは何も言わずに泣き崩れる私をそっと抱き止め、ポンポンと背中を叩いてくれた……私が泣き止むまでずっと。


 昔はよく泣いていたハル。

 だけど、大人になった今は私の方が泣き虫だった。



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