23.天秤はゆらゆらと
「えっ?えっ?どういう風の吹き回し?」
なんの理由もなしに、いきなり私の部屋に呼び出されたハル。
訳が分からないといった感じで、目をまん丸くしている。
「まぁまぁ。ほら、座って座って……」
椅子を差し出すと、ストンと座った。
頭に大きなはてなマークを乗せたままで。
二人には本当に申し訳ないけど、こっそり比較させてもらおうと思って。
セルジュさんの事、どうしたいのか……自分の心をはっきりさせるために。
(でも、それって完全に私の都合よね……)
なんてずるい女なんだろう、私。
人を勝手に評価して天秤にかけて、しかも選り好みするなんて。
でも、そんな自分勝手な我儘でもハルなら絶対に許してくれる……そう分かっていた。
分かっていたから、こうしていきなり呼べた。
しかし、これじゃあ……まるで本当の悪女だ。
計算された悪。
(ごめんねハル、悪い女で。どうか許して……)
「どうしたの?急に呼んで……」
「ああ、えっと……美味しいクッキーもらったから、たまには一緒にどうかなって」
「ほんと?ありがとう」
「いえいえ」
「それにしても……珍しいね、客間じゃなくて君の部屋に誘ってくれるなんて」
同性の友人達は普通に部屋でお茶したりしてたけど……確かに、誰か男性を部屋に入れた事はなかった。
いつもどこかしら外で会っていた。
でも、なぜかハルにはそんなに抵抗がなかった。
彼も一応男性だけど、今こうして一緒にいてもなんとも思わなかった。
(これがセルジュさんとかだったら、また違ってたんだろうな……)
きっとこれは、私が無意識に彼らを区別してるからだろう。
(やっぱりハルは違うなぁ、恋人とかそういうのじゃない感じ。そうじゃなくて、もっと他の……)
しかしそんな私の心とは裏腹に、彼の声は明るく弾んでいた。
「いや〜久しぶりだな!こうして二人でおやつ食べるなんて!嬉しいなぁ!」
心の底から楽しんでいるのが伝わってくる。
「ええ、そうね」
笑顔、できてるかな……私。
頭の中で何考えてるか、本人には気づかれないようにしないと。
何も知らない彼を目の前にして、何か悪いことを企んでいるような気分だった。
(いや、実際こうやって二人を天秤にかけてるんだから悪い事なんだけど……)
「あ!これ、よく見たらジャムクッキーじゃないか!しかもブルーベリー!やった〜!いっただっきま〜す!」
そう言って無邪気に頬張るハル。
用意したのは、彼の大好物のブルーベリージャムが真ん中に乗ったクッキーだ。
実は誰かからもらったのではなくて、悪女の相手をさせられるせめてもの罪滅ぼしとして、あらかじめ取り寄せておいた物。
(こんなに喜んでくれるなんて……嬉しいな)
彼はいつもこうやって素直に喜んでくれる。
そこが好きなのだ。
いつだって正直に反応してくれて、それでいて単純で。
回りくどく色々難しく考えなくていいから、一緒にいてとても気が楽。
(だから、彼も彼で別に悪くはないんだよね。それに……)
それに、なにより……ハルは私の事が好き。
幸せになるには、きっと彼こそが一番の近道だ。
追いかけるより追われる方が女は幸せって、よく言うし。
なんとなくうまく行く、そんな気はしている。
彼からの好意は昔から気づいていた。
それも幼い頃から変わらず、ずっと……その強い想いを感じていた。
私に気があるのがとてもよく分かる……っていうか、気づかない人なんているのかってくらい好き好きオーラがだだ漏れだった。
別に、全然嫌いとかじゃない。
それだけ長年想い続けられるほど一途な訳だし……見た目は野暮ったいけど、そこは長年見てて慣れたしあまり気にならない。
だけど……




