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迷い迷って辿り着いたのは……あなたの隣でした  作者: あさぎ
二章 大雨の後の澄んだ青空
22/34

22.嘘つき

 


 セルジュの質問に、なんて返したかは覚えていない。


 それに、あれからずっと気もそぞろで……色々見て回ったはずなのに記憶が一切残っていなかった。


「いやぁ、今日はよかったね」

「ええ。楽しかったわ」

「運がいいのか、今日はなかなか珍しい瞬間が見れたね」

「えっと……」

「特に猿。人間のモノマネして、全く同じポーズで頬杖なんかついちゃってさ」

「……」


 猿?猿なんて見たっけ?

 正直全く覚えていなかった。


「私達に興味津々って感じで……子供だったのかな。まるで人間の子供みたいで、久しぶりに大笑いさせてもらったよ」

「あ、ああ!あれはすごかったですよね!」


 覚えてない。全然記憶にない。







 楽しいはずのデートは、なんとなく落ち着かない気持ちのまま終わってしまった。


 部屋に戻るなり、着替えもせずに手鏡を取り出して見つめる。


(……)


 そこには私の顔をした、可愛らしい格好の女性がいた。


(これは、私……?)


 ここにいるのは私。それは分かってる。

 でも、目の前に映っている人が誰だか分からないのだ。


 なんだかまるで、全然知らない人のようで……


(私よね……?)


 恋をして、好きな人のために変わった。


(いや、変わってしまった。あまりにも変わりすぎてしまった……)




『それって、おかしくない?』


 いきなり鏡の中の私が話しかけてきた。


「何よ急に、別におかしくなんてないわ」

『いや……だって、だってさ。これもう……私じゃなくない?』

「私よ、これは私」

『これもう、別の人じゃない?』

「いいえ。彼の好みに合わせたまでよ、別人なんかじゃないわ」

『随分と我の強い女ね……』

「あなたもね」


 なかなか勝負は拮抗していた。


『私の好みは、もっとこう……違うでしょ?水色なんて好きじゃないでしょ?』

「でも、嫌いじゃないわ」

『言うわね。でも、一番好きなのは緑色。嘘だと思うなら見てみなさい、綺麗なモスグリーンのドレスがクローゼットの一番奥にしまってあるから……それはもう、大事に大事にカバーまでしっかり被せてね』

「……」

『でしょ?』




 でも、彼……セルジュさんは好みのタイプ。


 見た目もいいけど、でも今度はそれだけじゃなくて中身に惚れたんだから。


 真っ直ぐで、爽やかで、素直で。

 何も隠し事なんてないし、人間的にも何の問題もない。


(だから……正直、この彼を逃したくない。諦めたくない)


 でも……


『その彼が見てるのは、あくまで嘘の私よ。好みに合わせて着飾った私。本当の姿なんかじゃないわ』

「いいの。そうだとしても私はこのまま進むわ」

『嘘ついたままで?』

「ええ。恋愛で着飾ったり猫被ったりするのは、誰だってそうでしょう?最初からそのままの自分でいく人なんていないわ」


 誰だって始まりは少しは嘘をつくもの。

 ちょっと背伸びして良く魅せて、うまく相手の気を引いて。


『あらそう。じゃあ、自分にも嘘をつき続けるって事ね?』

「それは……」

『それは?』




「う、うるさいっ……!うるさいのよ、あなた!」


 棚の引き出しを乱暴に引っぱり出し、ガチャン!と大きな音を立てて手鏡を押し込む。


「ふぅ……」


 嘘がどうだとか、そんなの関係ない。


(これで、いい。これでいいの、私は……)


 好みのイケメンなんて、そうそういないわけだし。

 彼も彼で……あともう一押しで、その気になりそうなんだから。


 せっかく手に入れた幸せのチャンスを……ここで逃してたまるもんか。






『嘘つき』

「……っ?!」


 虚空から声がして思わず振り返る。




 しかし、部屋には私以外誰もいなかった。



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