21.好きな人のために
ポポーン♪
ようやく箱が止まった。
助かったと思い、エレベーターの階数表示を見ると、7が光っていた。
(7階。私の部署があったフロアだ……)
今の自分がどこへ行こうとしてるのか分からないけど、なんとなく降りてみる。
彼はぼーっと階数パネルを見つめたまま、乗り込んできた人影にすっと溶け込んでいった。
静かに閉じていく扉を見送って、ホッと胸を撫で下ろす。
(あ〜、気まずかった。夢なのに、なんだかすごい緊張しちゃった)
誰だっけな、あの人。
なんとなくうっすら記憶にあるんだけど……
(あっ、『ぶーちゃん』だ!思い出した!)
太ってるからって『ぶーちゃん』なんてあだ名をつけられてしまった、ちょっと可哀想な人。
本名は『保伏 遙』。
たしか同い年だったはず。
よくどもるし動きもなんだかどんくさくて、部署内でも変に目立っていた。
でも、何を言われても穏やかでいつも優しくて……なんだかんだ皆に好かれていた。
たまに色々からかわれたりしながらも、ムードメーカー的な存在だった。
(そうだ。彼は、保伏さんだ……!あぁ、懐かしいな……)
そうやって思い出したところで、ふっと視界が暗転し……
「……っ!」
ハッと目を覚ますと、目の前にはいつもの天井があった。
(なんだか変な夢だったな……)
気を取り直して、今日もまたセルジュと遊びに出かける。
(もうすっかり仲良くなったから、さん付けとか敬語はもう前回のデートでもう終わり)
せっかくお互い近づいてきたんだし、いつもカフェとか室内ばっかりだったから……今度はちょっとチャレンジして、動物園にした。
家族連れも多くごった返した人混みの中で、彼にぴったりくっついて歩く。
本当は手を繋ぎたいけど、言えなかった。
(私はまだ、知り合い止まりだから……)
でも、もしこれがサイラスだったら。
はぐれないようにって言って手を差し出してくれて。
人混みで隠れちゃって見えない時は抱えてくれて。
しばらく歩いたら、疲れた?なんて言って。
すぐにカフェを見つけて、ささっとスマートに連れて行ってくれて……
(ほら、またすぐそうやってサイラスと比べる……ほんとに駄目な女)
またすぐ前の男と比較する。
どうしようもなく性格の悪い女だ、私は。
未練なんて無いと思っていながら、サイラスの面影は未だにしつこく私の中に残り続けていた。
ふと、目の前にふわりと銀の糸が靡く。
(……?)
よく見ると、どうやらセルジュの髪のようだ。
「あれ?今日は髪の毛下ろしてるんですね」
「ああ、たまにはいいかなと思ってね……どうかな?」
腰の辺りまである長い銀髪。
きちんと手入れされていて艶があり、絡まる事なくサラサラだった。
「綺麗ね……すごく似合ってるわ」
「本当かい?嬉しいな」
まるで絹糸のように綺麗な髪は一歩踏み出すたびにサラサラと揺れ、鼓動が加速する。
隣にイケメンがいるこの環境。
呼びかければすぐに答えてくれる、そんな距離に好きな人がいる幸せ。
遊びではない、今度は本当の恋。
この世界で初めての……まともな恋愛。
(ああ、幸せだなぁ……)
幸せを噛み締めながら広い園内をゆっくり歩いていると、ふとセルジュが口を開いた。
「そういえば……アンナって、そういう格好が好きなの?」
「えっ?」
「いや、いつも似た感じの服装だから……気に入ってるのかなと思って」
「……っ!」
「と言っても……私は女性の兄弟がいないから、あまり服の系統には詳しくないんだけど……」
「あ、ええと……その……」
突然聞かれて言葉に詰まる。
そこには、答えられない自分がいた。
なぜかは分かってる。
これは自分の好みではないから。
(……)




