20.ふと夢に見る、前世の記憶
気づくと、四角い箱の中に私はいた。
上へ上へと登っていく、四角い灰色の箱。
(エレベーターだ……って事は、ここは夢?)
ふと自分の胸元に視線を落とすと、見覚えのあるカードキーがぶらさがっている。
(ああ、やっぱり。またこの夢か……)
こうやって、異世界に来てからもたまに前世での光景を見る事があるのだ。夢の中で。
あの世界に思い入れなんてないはずなのに、なぜか時々こうして当時の景色が再生されるもんだから……いつまで経っても記憶は色褪せず鮮明に頭に残っている。
(でも、別に前の世界に未練はないし……いっそもうさっさと忘れちゃっていいのにな……)
ポポーン♪
明るい機械音と共にガクンと床が揺れる。
扉が開くなり、太った男が一人乗り込んできた。
「……っす……」
入ってくるなり軽く会釈しながらそう言って、向かいの端に立った。
(す?なんだろ……『すいません』って言ったのかな?)
いかにも弱気で会話が苦手そうな男性だ。
まるまる太ってて、脂テカテカの顔に四角いメガネをかけている。
そして髪の毛がかなり強めの天パで……伸び放題、モジャモジャの人。
(ワ、ワイシャツのボタンが……パツンパツンだ……)
この顔、なんとなく見覚えがある。
同じ会社で、しかも同じ部署の人のような気がするんだけど……
(ええっと、誰だっけ……)
「……あの!」
「ひゃ、ひゃい?!」
突然勢いよく話しかけられて思わず声が裏返る。
「あ、その……最近は、どうですか?」
「え?どうって……?」
「あ、前に同僚からいじめられてたって聞いて……大丈夫かなって」
(あっ、この人……!)
話す前に必ず『あ、』と言う、独特な言葉のどもり具合でピンときた。
同じ部署の人全員で飲み会したんだけど、人の入れ替わり激しいからあまり仲いい人いなくて……それでたまたま、近くにいたこの人と話したんだっけ。
その時に、同僚の皆とあまりうまくいってないのもポロッと言っちゃって……
「いえ、今はおかげさまでなんとかやっていけてます」
とりあえず適当に答えると、さっきより少しトーンの上がった声が返ってくる。
「あ、本当ですか?……ならよかった」
表情はほとんど変わらなかったけど、なんだか嬉しそうで……社交辞令とかじゃなくて、本気で喜んでいるように見えた。
(でもそれって、私自身の問題なのに……そんな、まるで自分の事みたいに……)
「どうも、お気遣いありがとうございます」
そう言って軽く頭を下げると、会話は途切れた。
「……」
「……」
狭い空間に沈黙が流れる。
特に仲がいいわけでもなく、なんとも微妙な空気。
(ううう、気まずい……)
こんな時に限って、なかなか誰も乗ってこない。




