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迷い迷って辿り着いたのは……あなたの隣でした  作者: あさぎ
二章 大雨の後の澄んだ青空
20/34

20.ふと夢に見る、前世の記憶

 


 気づくと、四角い箱の中に私はいた。

 上へ上へと登っていく、四角い灰色の箱。


(エレベーターだ……って事は、ここは夢?)


 ふと自分の胸元に視線を落とすと、見覚えのあるカードキーがぶらさがっている。


(ああ、やっぱり。またこの夢か……)


 こうやって、異世界に来てからもたまに前世での光景を見る事があるのだ。夢の中で。


 あの世界に思い入れなんてないはずなのに、なぜか時々こうして当時の景色が再生されるもんだから……いつまで経っても記憶は色褪せず鮮明に頭に残っている。


(でも、別に前の世界に未練はないし……いっそもうさっさと忘れちゃっていいのにな……)




 ポポーン♪


 明るい機械音と共にガクンと床が揺れる。

 扉が開くなり、太った男が一人乗り込んできた。


「……っす……」


 入ってくるなり軽く会釈しながらそう言って、向かいの端に立った。


(す?なんだろ……『すいません』って言ったのかな?)


 いかにも弱気で会話が苦手そうな男性だ。


 まるまる太ってて、脂テカテカの顔に四角いメガネをかけている。

 そして髪の毛がかなり強めの天パで……伸び放題、モジャモジャの人。


(ワ、ワイシャツのボタンが……パツンパツンだ……)


 この顔、なんとなく見覚えがある。

 同じ会社で、しかも同じ部署の人のような気がするんだけど……


(ええっと、誰だっけ……)


「……あの!」

「ひゃ、ひゃい?!」


 突然勢いよく話しかけられて思わず声が裏返る。


「あ、その……最近は、どうですか?」

「え?どうって……?」

「あ、前に同僚からいじめられてたって聞いて……大丈夫かなって」


(あっ、この人……!)


 話す前に必ず『あ、』と言う、独特な言葉のどもり具合でピンときた。


 同じ部署の人全員で飲み会したんだけど、人の入れ替わり激しいからあまり仲いい人いなくて……それでたまたま、近くにいたこの人と話したんだっけ。


 その時に、同僚の皆とあまりうまくいってないのもポロッと言っちゃって……


「いえ、今はおかげさまでなんとかやっていけてます」


 とりあえず適当に答えると、さっきより少しトーンの上がった声が返ってくる。


「あ、本当ですか?……ならよかった」


 表情はほとんど変わらなかったけど、なんだか嬉しそうで……社交辞令とかじゃなくて、本気で喜んでいるように見えた。


(でもそれって、私自身の問題なのに……そんな、まるで自分の事みたいに……)


「どうも、お気遣いありがとうございます」


 そう言って軽く頭を下げると、会話は途切れた。


「……」

「……」


 狭い空間に沈黙が流れる。

 特に仲がいいわけでもなく、なんとも微妙な空気。


(ううう、気まずい……)


 こんな時に限って、なかなか誰も乗ってこない。



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