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迷い迷って辿り着いたのは……あなたの隣でした  作者: あさぎ
二章 大雨の後の澄んだ青空
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19.嫌な女になっていく

 


 なんとなく気まずい空気が流れ始め、慌てて咄嗟に話を変える。


「……え、えっと。そういえば……二人の出会いのきっかけは?」

「晩餐会の会場よ。話をしてたら、息が合って……よく遊びに行くようになったの」


(晩餐会の会場、か……)


 脳裏によぎるサイラスの顔。

 そういえば、あの人も最初会場で会ったんだっけ。


「彼ったらね、初めて会った時から優しくてマメで……!」


(優しくて、マメ……)


 どっかで聞いたことがある特徴だ。


「それで!細かいところもよく気づくのよ!」


 よく気づく、つまり気づくのが早いって事は……他の誰よりも先に物事に対応できるって事で。


(きっと隠し事だって、上手い)


「デートはいつもスムーズだったわ!それに何かアクシデントが起きてもすぐ臨機応変に対応できるのよ、彼!あと、記念日だって全部ちゃんと覚えててくれるし!」


 前もってしっかり計画してきちんとリードできて。

 その上、記憶力もなかなかなもの。


 つまり、複数の予定をこなすのもおそらくその彼にとっては容易なわけで……それが複数人となったとしても、きっとうまくこなせるだろう。


(でも、それなら……)


 その旦那が浮気症だったら?

 実は、他に何人も恋人がいたら?


 何人もの恋人をうまく隠しつつ、こっそりデートの予定を組んでいるとしたら?




(ちょっと!なんてこと考えてるのよ、私……!)


「……」

「……あら?ごめんなさいね、惚気ばかりで。聞かされる方はたまったもんじゃないわよね。もう、私ったら……」

「いいえ、ローラは何も悪くないわ。私の方こそ、急に黙ってごめんなさい。すごいよくできた旦那様だなって感心しちゃって」


 今のこの瞬間も、心の底から黒い感情がゴポゴポとせり上がり今まさに溢れようとしていた。


(……っ、駄目!いくら羨ましくたって、人の幸せを妬むなんて!ましてや嫌味を言ってやろうだなんて……絶対に駄目!)


 喉元まで迫り上がってくるそれを、何度も押し戻しては息を吐く。




 欲しくても手に入らない幸せ。

 どんなに頑張っても、たどり着けない境地。


 私が欲しかった、幸せの形。


 それを目の前の彼女は、すんなりと手に入れてしまった……




 それも確か、彼女にとって初めての恋人のはずだ。


 初めて付き合って、そのまま結婚。

 トントン拍子。順風満帆の人生。


(苦しみばかりの私とは全然違う、明るくて穏やかな人生……)


 口角を引き上げてなんとか笑顔を保ちつつも、内心は羨ましくて羨ましくて……もう気が狂いそうだった。


「どうしたの?アンナ、さっきから息苦しそうにして……」

「その……実は、朝から頭痛がひどくて……」

「まぁ、そうだったの?!もっと早く言ってくれればよかったのに!お喋りはまた別の機会にしましょ、今はとにかく休んで!」


 これ以上一緒にいたら変な事を口走ってしまいそうで。

 仮病を使って早めに切り上げることにした。


(ローラ、ごめんね……)


 つらいだろうからって、私の代わりにすぐ侍女を呼んでテキパキと症状を説明してくれた。


 本当に人思いの優しい女性だ。

 どんな男性だか知らないけど、結婚しようと思ったのも頷ける。


(こういう性格の良い人こそ、結婚できるんだろうな……)


 そんな事をぼんやり考えていると、いつの間にか駆けつけたメイドに囲まれていた。


 言われるまま、私はベッドに腰掛ける。


(皆、ごめんなさい……)


 いきなりの事に周囲はバタバタしていた。

 パジャマを出してきて、体温計を用意して、頭痛薬と水の入ったコップを持ってきて……


「アンナ、ごめんね。体調良くないのに無理させて……それじゃあ、お大事にね!またね!」


 口に体温計を咥えて喋れない私にそう言って、彼女は帰っていった。

 私の嘘を信じて。


(ごめんなさい。あなたは何も悪くないの……悪いのは、私……)


 セルジュさんや自分に嘘をついて、そして今度はまたローラにまで。


 うまくいってるようでうまくいってない、そんな不安定な恋のせいで……


 私はどんどん嘘つきになっていく……


(……)




 結局熱はなかったけど、念のため今日はもう寝る事になった。


 薬を飲み終えて、ノロノロとベッドへ向かう。


(あ〜あ、ひどい女ね。日を追うごとに性格がどんどん悪くなっていく)


 こんなはずじゃないのに。

 ただ、幸せになりたいだけなのに。


 幸せどころか、このままだととんでもない悪女になってしまいそうな勢いだ。


(ほんと、最低……)


 そんな自分が嫌いになりつつあった。



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